+06 娯楽
剣術の授業は一か月続き、その最終日のこと。
帰り支度をしているカイトの元に、ボンがやって来た。
「おい、カイト。今日は周りが皆用事があって、僕は暇なんだ。だから――」
「断る」
「おい、僕はまだ何も言ってないぞ!」
「どこかに行くのに付き合え、って話だろ?」
「おいおい、勝手に僕の話の続きを決めつけるなよ。……まぁ、その通りなんだが」
カイトがため息を一つ吐いて、一人で行くように促そうとした時だった。突如、カイトの肩に腕が回される。
「何なら俺が一緒に行ってやろうか? 今日は鍛錬が休みなんだ」
「ジャス、暑苦しい。引っ付かないでくれ」
「あぁ、悪い悪い。で、どこに行くんだ?」
ボンは少し鼻息を荒くして言う。
「コロシアムだ! 今日は僕の付き人が一人出るんだ」
コロシアム。
それは最近流行りだした、円形の闘技場で行われる付き人同士の殺し合い。ほとんどの観客は金を賭け、試合で一喜一憂を楽しむ。また、自分の付き人を出場させた際は、一勝ごとに掛け金の内から一定額が支払われる。
人間は基本的に金を重視しない。労働力は他種族から無償で提供されるため、対価を支払わずとも大抵のものは手に入るからだ。さらに言えば、全ての人間には一定間隔で十二分な金が支給されている。
「ほう、ボンの育てた付き人か。少し興味があるな」
「そうだろう、そうだろう。ボンがいつも連れている付き人もなかなかだが、僕だって負けてない」
「おいおい、俺が連れてるのは毎日立てなくなるまで鍛え続けてるんだぞ? そう簡単にあれ以上のものが出来ると思うなよ」
「まぁ、それは見てのお楽しみだな」
盛り上がっている二人を差し置いて、そのまま帰ろうとしたカイトの肩に二人の手が掛かる。
「おいおい、カイト。この僕が誘ってやってるんだから来いよ」
「そうだぞ。人数は多い方がが楽しい。それとも、この後何か用があるのか?」
「……ある」
「「嘘を吐くな」」
カイトは二人に引っ張られるようにして、コロシアムへと向かった。
その道中、ボンはエルフの、ジャスは巨人族の付き人を連れてカイトの前を歩いていた。カイトは前の二人に悟られないように、小さな声でシャリィに囁く。
「行きたくないなら言ってくれ。適当な言い訳をして帰る」
「いえ、私は別に……。カイト様は行きたいのですか?」
「別に。見たことが無いから若干の興味はある。が、殺し合いを楽しめる自信はない」
「私は大丈夫ですので、お気になさらず」
「そうか」
三人はそれから十分ほど歩いて、コロシアムと呼ばれる場所にたどり着いた。
耳を塞ぎたくなるほどの喧騒と、生き物から発せられる熱気に包まれたその場所はとても窮屈だった。しかし、出場者の持ち主であるボンがいることにより、特等席へ案内された。それは普通の観客席よりは一際高いところにある、見渡しの良い場所だった。
「ほう、これは良い景色だな。今度僕も付き人を出してみるか……」
「おっ、いいな、それ。じゃあ、今度は僕の付き人とジャスの付き人で戦わせよう。まぁ、結果は分かりきっているが」
「いいだろう、その勝負受けて立つ! カイトも一緒にどうだ?」
「やめておく。僕は一人しか飼ってないし、新しいのを飼うのも面倒だ」
ノリの悪いカイトに、ボンは眉をしかめた。
「ふんっ、つまらん奴だ」
「そういうなよ、ボン。お前の相手は僕がしてやるよ。っと、そろそろボンの付き人が出てくるな」
会場の喧騒はより一層大きくなる。円状の観客席に囲われた中央の空間。そこには二つの扉がある。カイトたちから見て奥にある扉からは巨大な鉄の棍棒を持った巨人族が、手前の扉からは片手杖を携えたエルフが現れた。
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