+04 剣術

 成人化。それはステータスを一定水準まで引き上げる神の御業。

 つまり、成人化を行った者は全員が同じステータスである。普通に考えれば、戦闘行為などを行えば互角の戦闘力になるはずだ。しかし、実際にそうなるとは限らない。

 成人化の後は剣術と魔法の授業が実施される。今行われている剣術の授業では、カイトが今日何度目か分からない攻撃をもろに受けていた。全員の能力は同じ。ただやれと言われたからやっている、何の向上心もない人間が勝てないのは当たり前である。



「ぐふっ……」



 木剣を腹部にもろに受けたカイトを見下ろしながら、ボンは口を開く。



「おいおい、それでも英雄様の子供かよ! まだまだ行くぜっ!」



 防御に専念しつつ、カイトは思う。

 あぁ、本当にくだらない。言われたことを指定された時間続けるだけ。この剣術と魔法の授業は、今後必要としない者も強制的に受けさせられる。そんなことをして一体何の意味があるのだろうか。目の前の人間は自分を甚振いたぶる事を楽しんでいる。

 カイトはギリギリのところで攻撃を防ぎながら、小さく呟いた。



「楽しめる事があっていいな……」


「あぁ? 声が小さくて何て言ってんのか分かんねぇよっ!」



 そう言いながら、フェイントの後に放ったボンの攻撃はカイトの左腕に直撃する。



「ぐっ……!」


「ったく、誰とも組めてないからわざわざ組んでやったんだぞ? ちゃんと僕を楽しませろよ!」



 そう言いながら、ボンは攻撃を再開する。

 まるで今が楽しくないかのような言い草に、カイトは十分に楽しんでいるのでは、と思ったが口には出さなかった。

 そうして、次の攻撃がカイトにクリーンヒットしようとしていた時だった。カイトに当たるはずの攻撃は、別の人間の木剣によって弾かれた。



「ボン! 実力差のある相手を恣意的に痛めつけるのは感心しないな!」


「ジャス、またお前か。僕の邪魔ばかりしやがって……。大体、お前の相手はどうし――」



 ボンが視線を動かすと、ジャスの相手をしたはずの自分の仲間が地面にへたり込んでいた。



「ふんっ! まあ、いいさ。ジャス、お前にはいつも邪魔ばかりされていたからな。ここで鬱憤を晴らさせてもらう!」


「君もそれなりに研鑽していたようだが、剣術は僕も自信があるんだ。さあ、いつでも掛かってくると良い!」


「上から目線で生意気なっ!」



 ボンが踏み出し、ジャスが対応する。

 成人化の前からそれなりに稽古を重ねていたらしい二人の動きは見事なもので、ほぼ互角の戦いを繰り広げた。

 それをその場に座り込んで眺めていたカイトの元に、教師役の人間がやって来る。



「君、この授業がこの国で生きる人間の義務だと言う自覚はあるのかい?」


「ありますよ。だからこうして指定された時間を言われた通りにして過ごしています」


「……もっと腕を挙げようとは思わないかい? 一方的に攻撃されていたって面白くないだろう? 私たち人間はステータスで全員が同じラインに立てる。どれだけ向上心を持って取り組むかが大切なんだよ」


「残念なことに、僕は剣で他人を攻撃するのも、他人に攻撃されるのも好きではありません。言われた通りにこなしているのだから、それでいいでしょう?」


「じゃあ、君は何のためなら頑張れるんだい?」


「何をしても頑張れないと思いますよ。僕には叶えたい夢も成りたい自分も無いので」



 丁度その時、授業の終わりを示すチャイムが鳴った。各々が木剣を下ろし、仲の良いものと楽しげに話しながら散っていく。



「じゃあ、僕はこれで」



 そう言うと、カイトは教師も、カイトが原因で戦いが始まってチャイムが鳴っても継続している戦いも放って、スタスタとその場を離れていった。

 教師は手元にある紙に、カイトの名前を付け加えた。

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