+15 反転
結局、ボンの後は誰も逃げられなかった。
一人を除いて全員が暴れたが、全てが無駄に終わった。その中でもジャスは特段暴れたが、はつらつとした赤髪も今は真っ黒な湖に半分沈んでいる。
ジャスが終われば、その後は当然カイトの番だ。カイトについていた兵士は、先にカイトの付き人をオワリノミズウミの縁に立たせた。
「今までありがとうございました、ご主人様」
笑顔でそう言って、シャリィは躊躇いなくオワリノミズウミへ飛び降りた。
それを見た兵士の一人がニタニタと笑いながら、
「ほぉ、あそこまで忠実な付き人とは珍しい。あんた、ずいぶんと優しく扱ってたんだな」
そう言った。
カイトは表情一つ変えずに答える。
「別に」
ただそれだけしか言わなかった。
結局、カイトには分からなかった。シャリィがなぜあんな笑顔でいられるのかも、生きているだけで嬉しいという感覚も。
仲良さげな付き人が死んでも表情一つ変えないカイトに、兵士は酷くつまらなさそうな顔をした。
「なあ、あんたに感情はないのか?」
「あります、多分。無いように見えるのは、きっと僕にとって生きることが退屈だから」
「はあ?」
そう言った後、兵士は後ろの仲間と共に大声で笑った。
「何を言っているんだ、お前は。俺たちは人間として生まれてきたんだ。何一つ不自由なく、全てが平等で、何の苦労もせずに欲しいものが手に入れられる。楽しい事なんて後からいくらでもついて来る」
「それは違うはずだ。人間でなくとも生きることに意味を見出している者はいる」
それをカイトは見てきた。
命をも顧みず無謀な逃亡を試みて死んだ者。理不尽な決闘で死んだ者。最後まで主に見放されて死んだ者。
そのどれもが、生きることを退屈に何て感じていなかった。
生きようともがいていた。
「全てを与えられることが、生まれた瞬間に全てが平等なことが、苦労をせずに全てを手に入れられることが、僕にとっては退屈だった。きっと僕は、人間として生まれるべきじゃなかった。人間として生まれるべきは――」
生きるだけで幸せと感じられるのなら、きっと人間として生まれればずっと笑顔で暮らせるだろう。そんな者たちの死を、カイトはここに来てから何度も見た。
「あんたの言ってることはよく分からねぇな」
「そうだと思った。人間として生きることを楽しんでいる人間に、僕の気持ちは分かるはずがない」
「あっそ。で、最後に言い残す事は無いのか?」
そう言われて、カイトは少し考えてから答えた。
「叶うのなら、不平等で不公平で、その違いを個性として認めてくれる世界に生まれたい。多少の理不尽が無いと、僕には退屈すぎる」
兵士は首を傾げながらも、「なんだそれ」と呟いてカイトの背中を自分の足の裏で思い切り蹴飛ばした。
カイトはそれに抵抗することなく、そのまま落下する。
別に死にたいと思った事は無かった。生きる意味が無いと思っていても、死ぬ理由が無いから生きていた。だから、目の前に死が迫っても別にいいかぐらいにしか思わなかった。
カイトの体は水しぶきを上げながら着水し、すぐに全てのステータスはゼロになった。
カイトの体から、微かに光が発せられた。
それはゼロになったステータスを元に戻そうと必死にステータスの上昇を試みる。しかし、オワリノミズウミの方がステータスを奪い去る力の方が強く、ステータスはイチとゼロを行ったり来たりしていた。
やがて、ステータスはほとんどゼロから動かなくなった。
だが、それはカイトのステータスが元に戻るまでカイトを死なせない。オワリノミズウミの効果に必死に抗い、敗北し、そして――。
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