+02 歴史

 神の存在に気が付いたヒト族は、すぐに神に戦いを挑むことを決めた。

 この世界にはいくつかの種族がある。

 体の大きく、他の度の種族よりも強い膂力を持つ巨人族。千年近い間寿命を持ち、魔法を得意とするエルフ族。技術力と知識が特筆して高く、モノづくりを得意とするドワーフ族。全てにおいて平均的に高い能力を持つ魔族。

 そして、全ての能力において、他の種族と比べて何一つ優る点の無いヒト族。唯一の救いが、繁殖能力は他種族と同程度だったことだろう。

 他の種族は、神に挑もうとする人間族を見下していた。勝てるはずが無い。そんな無駄なことをして何になる。そもそもそんな存在は本当に要るのか? そう言って嗤っていた。ヒト族は誰もが思った。きっと、この気持ちは最弱として常に蔑まれてきた自分たちにしか分からない。神を超え、見返してやると。

 結果から言えば、それは覆ることになる。人は神の元へと辿り着き、そして――。



「そこに座っている、カイト君のご両親が最後の一撃を神に与えたっっっ!」



 教卓に立つその男は、歴史をさほど奇麗ではない絵と文字を黒板に描きながら説明して、最後にそう締めくくった。

 用意された椅子に座って話を聞いていた皆がカイトの方を見て、ボンが恨めしそうに見て、そしてカイトは教師を覚めた視線で突き刺した。

 教師はカイトからの視線を気にすることなく、話を続けた。



「そして、当時こちら側に残って指揮を執っていた教皇様の元に一振りの剣が天から降りて来た。それによって、我々は初めてステータスという存在を把握した。なぜなら、その剣がステータスの操作を可能とするものだったからだ!」



 教師は声を張り上げていたが、あまりにも有名で誰もが知っている話だったがために生徒たちは退屈そうにしていた。



「ステータスとは力だ! 剣を振るうための筋力も、魔法を使うための魔力も、年齢や寿命でさえも全てステータスで操作できるっ! 当時の調査によれば、人間のステータスは成人の状態で平均値が百前後だった。巨人族は筋力のステータスが平均五百、エルフは魔力のステータスが平均五百、ドワーフは知力のステータスが平均五百、魔族は全てのステータスの平均が四百程度だった。あまりにも残酷過ぎる差だ。そこで、教皇様は全ての人間のステータスの底上げを行った。十五歳までの子供は全てのステータスを千に、十五を超えた人間のステータスは三千にした。筋力も、魔力も、そして知力でさえも我々人間は文字通り世界最強となった。そして我々は、人間を嘲笑っていた他種族への報復を開始した」



 現在の人間は子供の状態で他種族の二倍以上にも及ぶステータスを持ち、十五を超えればそれ以上の力を持つ。他種族からしてみれば、ただただ化け物だった。魔法で優れているはずのエルフは魔法によって、膂力で優れているはずの巨人族は膂力によって、平らなステータスを持つ魔族は全ての能力によって、圧倒的な技術と知識を持つはずのドワーフ族はより優れた道具によって、蹂躙されていった。ヒト族は今までの恨みを晴らすかのように、圧倒的な実力を見せつけるかのように、他種族に絶望を与えていった。



「それがある程度終わって、教皇様は力の使い方をそれぞれの意思に沿うようにした。十五歳でステータスを三千にする行為を『成人化』と呼び、その先はそれぞれの生き方によってさらに能力を与えることにしたのだ」



 知能を必要とする職に就く者には知能のステータスを、筋力を必要とする職に就く者には筋力のステータスを、魔力を必要とする職に就く者には魔力のステータスを、余分に渡した。

 治安を守ったり、外敵と戦うための兵士のステータスは特筆して高く、その平均値は一万に設定されている。無論、人々の三倍以上の能力を持つのだから、それなりの試験は受けさせられる。試験と言っても難しいものではなく、内容は性格や過去の行いを精査すると言うものだ。なぜなら――。



「人間は誰でも、好きなことを出来る! なぜなら全員が平等に能力を受け取ることが出来るからだ! 生まれた瞬間から能力に差がある、不平等で不自由な時代は終わった。君たちは平等と自由の名の元に、全てを受け取れるんだ!」



 ここまで来ると、生徒たちも色めき始めていた。

 何を隠そう、これらは成人化を直前にした人間が受けることを強制されている講義だからだ。この後成人化を行い、剣の使い方と魔法の使い方を学ぶ。

 生徒たちが話しているのはその先の話だった。



「兵士として、人間を見下していた他種族を蹂躙したい」


「筋力を少しだけ上げてもらって、農作業を延々としていたい」


「知力と魔力を上げてもらって、新しい魔法を生み出したい」


「知力と筋力を上げてもらって、カッコいい家を建てたい」



 そんな中、カイトは一人静かに佇んでいた。

 全てが平等で、自由で、望む道にならどこだって簡単に進める。



「なあ、シャリィ」


「何でしょうか?」


「今、楽しいか?」



 突然そんなことを聞かれ少し戸惑ったシャリィだったが、すぐに笑顔で答えた。



「勿論です。私はこうして生きていられるだけで楽しいですよ。人間であるご主人様と違って、永遠の時を生きられないのが本当に残念なぐらいです」



 屈託のない笑顔を見て、カイトは素直に羨ましいと思った。

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