稲田先生奮闘中


 逃げる体制だった茜さんの手を、ぐっと握った稲田さんでした。

「美子を置いていくから!」

「ひどい!」

「二人で働いて下さい!」


 諦めたような顔をした二人でした。

 美子さんが、

「何をすればいいの?」

「グラウンドの下に、プールをお願いします、茜様は寄宿舎の5階の改修を、5階には作業員は入っていません、紛らわしいので閉鎖しているはずです」

 二人が肩をすくめながら、歩いて行きました。


「すごいですね、あのお二人を叱るなんて……しかもタダ働きでしょう、尊敬します」

「冷や汗ものですよ、でも今が正念場、お二人も分かってくださったのでしょう」

 真野さん、結構笑いました。


「とにかくこの二人を、部屋に案内してくるわ、せっかくだから隣合わせがいいでしょう」


「稲田先生、お聞きしてもいいですか?」

「あのお二人の事は忘れなさい、それ以外のことなら答えましょう」

「……」


「二人とも良く聞きなさい、西田真理亜、貴女は必ず女神様にお仕えしなさい」

「自分でも分かっているでしょう?そのリングがなければ、また同じことになります」


「それから益子和子、貴女も西田真理亜ほどではないけど、何が何でも卒業しなさい、それしか生きる道はないのよ」


「幼い貴女たちに言うのは気が引けるけど、二人とも賢いですからね、この学校はそこらのお嬢様学校ではありません」

「最初の一年で何人かは、ホームシックで脱落すると思われますが、貴女たちは歯を食いしばっても耐えてね、期待していますからね」

「はい」


「夏休みはありませんが、それでも一週間ぐらいはあります、それまでには、本格的に女神様の世界が垣間見えてきます」

「その時に、あのお二人の事も分かるでしょう、この話、しゃべってはいけませんよ」


 もっともリングをした以上、秘密保持の力が働きますがね……


「分かりました、ありがとうございます」

「ここよ、制服や下着、靴などの支給品が置いてあるはず、シャワーも動くでしょうから、さっぱりして、身じまいしてから、先ほどのロビーに降りてきなさい」

 この二人なら、一人でも間違いないでしょう。

 明らかに世の中を知っている、そんな口ぶりですものね……


 一階に降りると、まず茜さんが戻って来ていました。

「やれやれ、稲田さんにはこき使われるわ」

「申し訳ありません、でも非常事態ですから……」


 茜さん、何事もない顔をしながら、

「次はなに?」

「そうですね、今日の午後から教員さんの面接が有るので、明日に色々お願いしたいのですが……」

「かなり厄介そうな事ですかね」


 黙ってしまった稲田さんを見て、小さくため息をついた茜さんでした。


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