まんざらでもない森さん
この反響をクリームヒルトは見逃しません。
この技術は、女神様にお仕えする数ある世界の一つの技術であると、マスコミなどを通じて世論誘導します。
人々はうすうす感じていた現実を実感したようです。
そして『蓬莱』は、女神様にお仕えする世界の一員になるべきだ、と……
いまや女神の実在を疑う者はいません。
女神に出会えるのは蓬莱御巫(ほうらいみかんなぎ)、または蓬莱阿礼少女(ほうらいあれおとめ)だけとなります。
蓬莱阿礼少女(ほうらいあれおとめ)から、蓬莱御巫(ほうらいみかんなぎ)にも、資格が有れば昇進可能となります。
蓬莱阿礼少女(ほうらいあれおとめ)制度の影響は絶大で、一気に蓬莱世界は、女神アウロラによる四大司教区による神政政治を受け入れたのです。
蓬莱はこのときを境に、ヴィーナス・ネットワークの一員になれる、社会体制に変質していったのです。
蓬莱の繁栄は、森彰子の社会的弱者への配慮の一言から始まったと、のちのちまでいわれるようになりました。
それほどすばらしい提案だったのです。
「どうやら蓬莱は、ヴィーナス・ネットワークの一員になれる、社会体制に移行を始めたようです」
「それにしても、あっという間でしたね」
クリームヒルトが森彰子に呟きました。
宇賀ビル一階のエレベーター前喫茶ルームで、お茶をしている時です。
「そうですね、あっという間でしたね」
「稲田様がご担当された、聖女女学校も前倒しで開学できましたし、蓬莱御巫(ほうらいみかんなぎ)制度と、蓬莱阿礼少女(ほうらいあれおとめ)制度も発足しました」
「クリームヒルト様のご尽力のおかげです」
「私は何もしていません!全ては森さんと稲田さんと宇賀さんのお力です」
「私は行き当たりばったりの、口だけでした!」
「そんなことはありませんよ」
……本当にそんなことはありません、私も稲田様も宇賀様も、皆クリームヒルト様だから働いたのですよ……
貴女は賢いだけではない、人を動かす何かを持っている……
「森さん……これからも私を助けてくださいね……それから……」
すこし、いいにくそうにしたクリームヒルト。
「なんでしょうか?」
「フランソワーズさんと、ヴァランちゃんのこともお願いします……」
「それはもう、美子様からも、云われておりますので」
……
クリームヒルトが、蚊の泣くような声で何かをしゃべりました。
「申し訳ありません、すこし聞きとれなくて?」
「実はフランソワーズさんが……その……山野五十鈴さんの……ファッションモデルに森さんを……」
よくよく聞くと、山野五十鈴さんがまたファッションモデルを探しており、フランソワーズさんが勝手に森さんを推薦したとの事でした。
「私がモデルを?別にかまいませんが?」
……
「えっ、ビキニのモデル、私がですか?」
「お願い!」
で、結局承諾させられたわけです。
なんで私がこんな恥ずかしい恰好を……
クリームヒルトが、
「良くお似合いです、スタイルいいのですね」
「なにもでませんよ!」
「でね、お願いがあるのですが……」
……
嫌な予感がして、黙っている森さんです。
「実はヴァランちゃんが……」
で、森さんはヴァランちゃんのお友達、浮田明子ちゃんの、誕生日パーティーのお菓子を大量につくる羽目になったわけです。
「まったく人使いが荒いのだから!」
そんなことを言っていますが、実はまんざらでもない森さんでした。
ろくでもない日々を過ごした経験がある森彰子としては、このような日々に、なんとなく癒しを感じているのです。
FIN
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