私の責任、私の責務


 惑星蓬莱を管轄するバアル・ゼブルは、あっさりと協力してくれました。

「ルシファー様のお手を煩わせることもありません、コシャル・ハシスに対処させましょう」

「すこし手荒になりますが、構わないでしょう」


 コシャル・ハシスさんは戦闘狂とも呼ばれ、バアル・ゼブル直属の、ゼブル騎士団の幹部の一人。

 幾つものマイクロマシン群を使役し、手には破壊力抜群のメイスを持っています。


 コシャル・ハシスさん、使役するマイクロマシン群の一つ、ナイフ群を動員し、宇賀さんが用意したリストどおり、漏れた麻薬組織の構成員を瞬時に切り刻んだのです。


 かなりのアジア大司教区の政府高官、経済界の大物が切り刻まれて、謎の死を迎えました。

 組織から少女を買っていた顧客のようです。


 マイクロマシンナイフ群は、他の三つの大司教区でも、同じように血を要求していきます。

 麻薬組織と、人身売買組織の構成員は、無慈悲に切り刻まれていきます。


「宇賀一族の情報網は素晴らしい、これなら粛清は簡単、だがつまらん!」

 などと、云ったそうです。


 クリームヒルトは、後でこの話を聞きました。

「私の不手際でご迷惑をかけました」

 などと云ったクリームヒルト。


 怒るかと考えていた宇賀さんとしては、この大人の対応に感心するばかり。

 やはり美子様が可愛がるわけだと、森彰子に云ったのです。


「ねえ、宇賀さんからお聞きしたのですけど、田舎の廃校に女の子たちを住まわせるのですか?」

「とりあえずは、それしかないかと考えますが?」


「人数と年齢は?麻薬中毒と聞きましたがどの程度?」

 女たちは十五六歳から三十手前、約二十名程度、かなりの依存症で、薬のためなら何でもやりそうです。


 全ての女が売春をしており、堕胎した女たちもいるとのことです。

「闇から闇へ、始末されたものも多くいるようです」

 

「大寒波のとき、一部の人間は女神様のお声を聞かず、他人の犠牲の上に、生き残ったものがいるのは確かですが……」

「犠牲を最小限にするため、目をつぶったのがいけなかったのでしょう……」


「私の責任です……だからこの方たちの行く末を、良き日々とすることは私の責務です」


「……クリームヒルト……さま……」 

 森彰子さん、この年下の執政官を心底上司と認識した瞬間でした。


「で、どうされるのですか?」

「治します!」

「かなり重度の者が多いのですよ」

「治します!」


 ……こんなところは、まだまだ子供なのでは……薬物依存症は簡単には治せない、ここまで重度になると、クリームヒルトさまでは難しい……どうしたものか……


「人格を壊して、復元するしかない!」

 突然クリームヒルトが、見透かすように云いました。


「重度の薬物依存は、もはや人としては済んでいます」

「済んでしまっている人格を壊すことが、倫理的に問題ありとしても、依存前の人格に戻すのなら許容されるはずです、人として復活していただきます」


 クリームヒルトはこの後、土日に二人ずつ治療していきました。

 六月初旬までに、全員治療を終わりました。


「森さま、私たちを治して下さった方に、お礼を申し上げたいのですが……」

 クリームヒルトは治療するとき、患者である娘たちに睡眠を誘発させ、それから脳をつくり替えたのです。


 本来このようなことは、クリームヒルトではできませんが、美子にお願いして、治療イメージを授かったのです。

 ナノマシン群は人数分だけ、この特別の治療イメージを実行するように、美子が命令を出してくれました。

 いくら治療イメージを授かったとしても、このようなことは、クリームヒルトでは到底出来る事ではないのです。


「無用です、治した方は女神様の妹様です、皆さんの気持ちは、私の方から伝えておきます」

「……」

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