非常識が日常です


「疲れたわ……フランソワーズさんのおかげで、冷や汗が出たわ……」

「でも私も側女……美子様との逢瀬の順番が、定期的に回ってくるのね♪」

 少し喜んだ森さんでしたが、歓迎しない男がやってきたのです。

 まったく、今日は厄日のようです。


「久しぶりだな」

 危険な雰囲気の男が、『油揚げ専門店コン太』一号店にやってきました。

 午後三時、お客さんは誰もいません。


「紀藤さん……」

「長居はしないさ、あんたの上司に伝言を頼む」

「『役所の依頼を受けて、山野の件は全て処分した、ただ似たような女が残った、引き渡したい』、これだけだ」


「上司の誰でもいいのですか?」

「誰でもいい、あの方にはそれで十分だろう?」

「そうですね……」


「では頼む、あまり長居をすると、消されるからな……」

「でも、あの方は評価されているようですよ」

「世界には表も裏もあり、成り立つためには共に必要、ただ裏は陽の下を歩くな、麻薬と人攫いはするな、あの方の言葉だ」

 男はそんな言葉を残して、そそくさと帰って行きました。


 ……似たような女が残った、引き渡したい……

 ……この間の山野さんの件といったわね、麻薬組織を粛清したのね。

 美子様が乗り出す前にですか……


 そんな事を思いながら、森彰子は電話をかける事にしました。

「『油揚げ専門店コン太』フランチャイズチェーンの責任者の森彰子です、宇賀オーナーはおられますか?」


 かけた先は『宇賀不動産開発合名会社』、極めて事務的にしゃべらなくてはなりません。

 なんせこの会社には、関係者はほとんどいない上に、内調の人間が多数入り込んでいるのです。

「オーナーに御取次致します」


「森さん、何用でしょう?」

「『油揚げ専門店コン太』フランチャイズチェーンの、経理上の問題で御相談があります」

「そうね、私がいまからそちらへ行きましょう、お店も見てみたいし」


 宇賀ビルへ、宇賀さんがやってきました。

「何用かしら」

 森さんは、紀藤さんからの伝言を伝えました。


「困ったわね……すこし詳細を聞きますか」

 宇賀さんが、紀藤さんへ電話をかけます。

「宇賀ですが、伝言は確かに聞きました、こちらに引き渡したいとのことですが、本人達はどう云っているのですか?」


「帰るところがない少女?このままいくと自殺しそう、それで困っている……」

「自殺でもされたら、とばっちりが来る?」

「まぁ可能性はありますね、いい判断とおもいますよ、だからあの方は、貴方を評価されているのですから」


 紀藤組は麻薬組織を粛清したようですが、どうやら組織的に、山野さんの事件のようなことを起こしていたようです。

 そして『似たような女が残った』。

 どうすればいいのか判断に困った紀藤組としては、内調にゆだねようとしたけど、逃げられたとの事だそうです。


「処分したとの事ですが、この組織の構成員は全員ですか?」

「そうですか、では漏れていた場合、当方で処分してもよいのですね」


「それから問題の女達ですが、内調にはどこかの施設を提供していただき、その上で希望者は、こちらで引き取りましょう」

「ただし女奴隷との覚悟を、申し渡しておいてください、この件はこちらの森彰子を窓口とします」


 宇賀さんはそのあと、内調に電話をして、山陽の山奥にある、閉校した女子校を提供させていました。

 准看護婦養成校だそうで、寄宿舎などもありますが、先ごろ学園が倒産し、裁判所が管理している物件だそうです。


 あとで資料を森さんあてに送るようにと、云っていました。


「さて、この際、ゴミは片付けましょう」

「クリームヒルト執政官が苦心して、ここまで引っ張ってきたこの世界、私たちの故郷、蓬莱の存続のためですからね」

「少し蓬莱ステーションに行って、バアル・ゼブル様に協力をお願いしてきます」


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