強盗事件の余波


「乙女、ママ、こんなことで負けないわよ!」

 つい先ごろまでボーッとしていた母親でしたが、その昔の母親に戻っていました。


「クリームヒルトさんといったかしら、こんなことに巻き込んで御免なさいね、できたらこれからも乙女と仲良くしてくれない?」

「勿論、乙女ちゃんは大事なお友達ですから」

 

「吉川さん……」

「クリちゃんでいいわよ」

「明日の入部体験回り、誘ってくださる?」

「私、貴女が入るクラブなら、必ず一緒に入るわ」


「あら乙女ちゃん、吉川さんに首ったけね、いいわよ、この頃は女同士の恋愛もとやかくいわれないし」

「えっ……」

 クリームヒルトの慌てる事、真っ赤になって下を向いてしまいました。


「吉川さん、変わり者の娘をよろしくお願いしますね、ほら、貴女もお願いしたら」

「クリちゃん、ふつつか者ですが、末長くよろしくお願いします♪」


 山野乙女さんは豹変したのです。


 翌日、山野乙女さんは浮田京子さんに、

「昨日は失礼な態度で御免なさい、出来たらお友達に加えてほしいの」

 この言葉を、皆がいる前で言ったのです。


 驚いた顔をしたお京ちゃんでしたが、ドギマギしながらも、「クリちゃんさえ良ければ……」と、クリームヒルトにふりました。


「山野さんは、私のお友達と思っているわ」

 この一言で三人はお友達、クリちゃん、お京ちゃん、乙女ちゃんと、呼びあう仲となりました。


 三人は放課後、精力的に入部体験回りをしましたが、乙女ちゃんは誰が見ても、クリちゃんの侍女のようです。

「乙女ちゃん、そんなに気を使わなくても……」

「いいえ、私は決めたの、絶対にクリちゃんとは離れない、ママにも言っておいたわ!」


 お京ちゃんが、

「あら、なら私も宣言するわ、クリちゃんとはいつも一緒よ」

 ここでさらにお京ちゃんが、とんでもないことをいいました。


「私、クリちゃんの侍女でもいいと思っているわ、このあいだ、お母さんにいったの、好きな人がいるのよって」

「お京ちゃん、大胆ね、お母様は何と云われたの?」

「ご時世だから、クリちゃんならいいって、云ってくれたのよ♪」

 

一度クリームヒルトは『油揚げ専門店コン太』で、浮田さんのお母さんと会ったことが有ります。

 どうやらお母さんは、クリームヒルトをいたく気に入ったようなのです。


「もう二人とも……私の侍女になんか、ならなくてもいいのよ、私が有る人の侍女みたいなものなのだから……そんなにいうなら、一緒に侍女になる?」

「クリちゃんに任せるわ」


「私ね、アウロラ女神さまに奉仕する女官なの……お京ちゃんの知っているミチちゃん、シズちゃん、マチちゃんもそうなの、だから仲が良かったの、二人とも良かったら推薦するけど……」


「女神さまの女官?」

「今度発表されるわ、私が推薦出来るのは一番下の位になるけど……『舞女(まいひめ)』というのだけど」

 浮田京子さんはあっさりと望みましたが、山野乙女さんはすこし渋ったのです。

 クリームヒルトには理由が分かります。


「乙女ちゃん、女神さまにお仕えする条件は心が綺麗なことなのよ、私が保証する、乙女ちゃんは十分に資格があるわ」

 クリームヒルトは宇賀真琴と相談して、蓬莱の女官制度、蓬莱御巫(ほうらいみかんなぎ)制度を、前倒しで発表したのです。

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