魔法使いなのよ
少女は山野乙女といいました。
「やっぱり出来ないわ……もう死ぬしかないわ……」
そんなことを呟きながら、とぼとぼと歩いていると、何処から来たのか、クリームヒルトが道の脇に立っていました。
「山野さんっていい人ね、誰も誘えなかったのね、私が一緒に行ってあげるわよ」
「……なぜ……」
「誰かを連れて来いって、脅されているのでしょう?」
「来ちゃいけない!私みたいになるわ!」
「だからいくのよ、いいから私に任せて」
山野乙女さんの家は母子家庭、母親が悪い男に騙されて麻薬中毒、その男が夫と偽り、家に居座っているのです。
山野乙女もいわゆる麻薬依存、そして男の情婦まがいの日々を送っていた。
その男は母子を物にしたのに飽き足らず、超エリート女子校の、聖ブリジッタ女子学園山陽校の生徒を物にしようと、山野乙女を聖ブリジッタ女子学園山陽校に入学させ、女生徒をつれて来いと命じたのです。
連れてこなければ母親の麻薬は絶たれる。
すでに母親は麻薬を断たれ禁断症状で半狂乱。
山野乙女は母親の為に、なんとかしようとは考えたのですが、何の関係もない人を地獄におとすのは出来ない。
とうとう母親を刺して、死のうと覚悟を固めたのです。
必死で止める山野乙女さんを、振り切るようにクリームヒルトは歩みます。
まるで山野乙女の家を知っているように……
そして家の前までやってきて、山野乙女の腕を取ると、クリームヒルトは耳元で囁いたのです。
「私に任せてね、ただ見たことは口外しないようにね」
「それから驚かないでね、私は魔法使いなのよ、さぁドアを開けてね」
山野乙女は、クリームヒルトの有無を言わさぬ迫力に負けたのかドアを開け、
「ただいま、お友達を連れてきたわ」
と、云いました。
「おじゃまします」
と、いうと男が一人出てきて、「友達か」といい、山野乙女に「ドアを閉めろ」などと命じました。
山野乙女がドアを閉め、鍵をカチャとかけました。
その瞬間、あたりの空気が一気に下がります。
「私を手籠にでもしたいようね、でも無理ね」
男の手足がその瞬間に、あらぬ方へ折れてしまいます。
「うるさいから、その口も縫っておいてあげます」
針と糸が浮き上がり、本当に縫ってしまいました。
「ところでお母さんはどこ?」
乙女さんが案内しました。
半狂乱の母親を、取りあえず寝かせたクリームヒルト。
「電話を借りるわよ」
というと、返事も聞かずに受話器を取りあげたのです。
「もしもし、内閣調査室アウロラ対策室ですか、クリームヒルトです、声紋認証をして下さい」
しばらくして、
「実はお願いがあります……そう麻薬組織の男と思います、両手両足をたたき折っています……」
「そうそう、強盗ということで取り繕って下さる……ありがとうございます」
「警察として引き取りに来る?警察には?話をつける?ではよろしくお願いします」
「警察がやってきます、強盗として処理するそうです」
「麻薬についてのお母さんの記憶は全て消去します」
「この程度の禁断症状なら私でも治せます」
しばらくすると、サイレンが近付いて来て、パトカーが家の前に止まります。
警官が何人も出てきて、『階段から落ちた』強盗を引き取って行きました。
そのあいだに、クリームヒルトは山野乙女の禁断症状を治し、母親の禁断症状を治し、麻薬の記憶を削除、強盗の記憶を加えたのです。
山野さんの母親は婦人服の会社の社長、特に下着などで有名な会社です。
この一年ほど、業績が低迷していたそうです。
女性社長の体調がすぐれないのではと、噂がたっていました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます