クラブ紹介週間


「クリちゃん、どこのクラブにはいるの?」

 昼休みにクラスメートが訊いてきましたが、

「まだ決めていないの……お京ちゃんはどこか決めたの?」


 このクラスメートは前からの知り合いで、浮田京子さんといい、皆からは『お京ちゃん』と呼ばれています。


 仲良し三人組と離れて、寂びそうにしていたクリームヒルトに、仲良くしてくれたのです。

 なんでも友達になりたかったけど、仲良しの輪に入れなかったとか、すこし恥かしがり屋さんなのです。


 お京ちゃんはクリームヒルトと親しくなってから、明るく活発な女の子になったようです。

「クリちゃんスポーツ万能だから、体育会系が狙っているわよ、特に陸上部がね」 


「体育会系はね……走るだけならまだ良いけど、すぐに投擲をいわれるし……」

「二の腕なんかにお肉がつくのはね……ただでさえ『馬鹿力』って、いわれているのに……」 


 お京ちゃんが品よく笑いました。

 たしかにクリームヒルトの怪力は有名なのです。

 何年か前に、五百円ショップのドアの取手を握りつぶした事が、あっという間に広まったのが原因です。

 

「私、運動は苦手なので、文化系のクラブに入ろうと思うの……」

 と、お京ちゃんが云います。

「文化系?」

「とにかく、どこかに入らなくてはならないでしょう?あと二日しかないのよ」


 そう、この春から聖ブリジッタ女子学園山陽校では、部活は授業の一環として必修となっているのです。

 前に入っていたクラブは担任が退職、メンバーも転校して、廃部になっています。


 超エリート女子校のクラブですから、結構真面目なクラブしかありません。


 始業式から一週間がクラブ紹介週間、週明け月曜日の朝に、ホームルームで担任に報告となっています。

「放課後、クラブの入部体験を幾つか回りませんか?」

「クリちゃん、私と一緒でいいの?」

「勿論よ、友達でしょ!」


 放課後になりますと、クラスメートはクラブの入部体験巡りに、早速出かけてしまいます。

「皆早いわね、私たちも早く行きますか」

 と、お京ちゃんが声をかけます。


「そうね、早くいきましょう……ねぇお京ちゃん、あの人誰かしら、外から入ってきた人よね」

 窓際でポツンと座っている少女がいるのに、クリームヒルトは気がつきました。


「確か……山野さん……」

 その少女はかなりの美少女ですが、近寄りがたい雰囲気があります。

 なんというのか、怖いと皆に囁かれているのです。


 クリームヒルトはお構いなし、美子と茜が姉ですからね。

 究極の近寄りがたい二人を相手にしてきたのですから、当然ではあります。

 

「ねぇ山野さん、私たちと一緒に入部体験を回りませんか?」

 クリームヒルトはつかつかと近寄り、このように言いました。


 突然声をかけられた少女は、驚いた顔で、

「ありがとう……でも、私にかかわると酷い目にあうわ……それに今日は人と会わなければならないし……」

「じゃあ明日は?」

「約束できないわ……ご免なさいね……」

 山野さん、慌てて帰って行きました。


「失礼ね、それに変ね、彼女、泣いていたような……」

 お京ちゃんがそんなことを言いました。


「お京ちゃん、悪いけど私も用事を思い出したの、入部体験回り、明日にしてくれない?」

「いいけど……」


「明日、帰りになにかおごるから、ね!」

「じゃあ明日ね、明日中には決めなくてはならないのよ、絶対よ!」

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