第78話

『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?』



 全方位からの歓喜が、コクピットを駆け巡る。



『やったやったやった! やりました! やりましたぁーっ! 「母なる大地学園」が「ブラックサンター国立第三毒蜘蛛女子」を破り、優勝をキメましたっ! あの万年最下位だった無名の女子校が、奇跡の逆転劇を果たしたのですっ!!』



 モニターに映っている顔は、どれもが泣き、どれもが笑っていた。

 まるで、夢の中にいるかのように。



『やったやった! やったーっ! カリーフちゃん、やったんだよ!』



『最後にバシッとキメるたぁ、やるじゃねぇか! カリーフ! あれ、どうしたんだカリーフ?』



『目を開けたまま気絶してる』



 ……ガシャン。



『やりましたよぉーっ! ボーンデッド様の学校が、チャッカリ勝ちましたぁーっ!』



『ほ、ほんとに……ほんとに良かったです……わたし、心臓が止まるかと……』



『もう、相変わらず大げさなんですから、ルルニーさんってば!』



『そんな……ララニーさんこそ、汗びっしょりになって……』



『かったかった! かったよーっ! ボーンデッドさまが、かったんだー!』



『あたりまえだよ。ボーンデッドさまはかみさまなんだから、あたりまえ……えっ……ええっ、うぇぇぇぇぇぇーーーんっ!!』



 ……ガシャン!



『カリーフの特訓には、まさかあんな作戦のためであったとは……! さすがはボーンデッド殿! 我が岩石乙女のコーチにふさわしいお方だ!』



『まだそうと決まったわけではないです! このあとに控える「嫁とりメルカバトル」に勝たなければ、ボーンデッド様は渡せないのです!』



『そのとおりです! 私も、相手が雇い主だからって、手加減しませんよ!』



 ……ガシャァァァァァァーーーーーンッ!!



 突如、山が生えてきたかのように……黒い影が決勝のバトルフィールドを覆った。


 決勝の相手、ネフィラ・クラヴァータより遥かに大会、鉄の要塞。

 フェイスには、さんざんモニターごしに見てきた厚化粧。



『我が……我が誇り高きブラ女が負けるなど……! あってはならない、あってはならないのです……! キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!』



 般若のような顔を浮かべ、山姥のような奇声を発していたのは……!



『ああっ!? アレは、解説のヴェトヴァさん!? それにあの機体は……ヴェトヴァ三愛機、ブラック・ウィドウ!? 解説席からいなくなったと思ったら、あんな所に……!』



『決勝は、まだ終わっておりません! 参加できる機体は4機まで……! このヴェトヴァがブラ女のメルカヴァとして、飛び入り参加いたしますっ! キェェェェェェェェェェェェェェェェェーーーーーーーーーーーーーーーーイッ!!』



 まるで鉄塔のような脚を振りかざし、さっそく襲いかかってくるヒステリーオバサン。


 俺はとくに慌てることもなかった。なぜならば、



 『ネフィラ・クラヴァータ』を倒したので、あなたはディス・ベスタ王国のランキング10位になりました!

 ランキング10位の報酬として、『CAT2兵器』をさしあげます!



 とシステムメッセージが表示されていたから。


 俺はさっそくウインドウを操作して、『CAT2兵器』を実体化させる。

 局地的な雨のような、光の粒子が降り注ぎ、ボーンデッドのマニピュレーターの中に、無骨なハンドガンが現れた。


 CAT2兵器というのは簡単にいうと、火薬を使った武器のことだ。

 光学兵器がバンバン飛び交うゲームの中じゃ、ちょっと頼りねぇが……この世界なら、じゅうぶん役に立ってくれるだろう。


 さっそく天に向かって試し打ちしてみる。



 ……ダン! ダン! ダン! ダン!



 スパークとともに弾け飛ぶ脚。

 4本を切ったところでバランスを崩して倒れたので、こんどは地面に向かって撃つ。



 ……ドガ! ドガ! ドガ! ドガァン!



 それだけで、ブラック・ウィドウは地を這いつくばる蜘蛛となった。

 パイロットはなにが起こったのか未だわかっていないのか、雲の上から落ちた堕天使のように、派手なメイクの目をパチクリさせている。


 やっぱり、CAT2兵器の手軽な破壊力は、この世界には未知のものだったらしい。


 さっきまで熱狂の渦だったコクピット内が、ウソのように静まり返っている。


 このあとに続くモノから逃れるように、俺はローラーダッシュで走り出した。



『えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?』



 追いかけてくる絶叫から逃れるように、どこまでもどこまでも。


 そういえば、決勝のあとは「嫁取りメルカバトル」なるものがあったんだっけ。


 でも、ソイツはいいか。

 約束どおり、母大の廃校は免れたんだし。


 それに……ブラックサンターの関係者であろう機体をふたつもスクラップにしちまったんだ。

 長居をしたところで、JKたちに迷惑がかかること必至だろうからな。


 ……挨拶もせずに行っちまうのは、不躾な気もするが……許してくれよな。


 さぁて、お次は……どこへ行くとしようか……!


 まっすぐに森の中を伸びる一本道を、ひた走る。

 地図ではこの道を進むと、湖に囲まれた王城のそばに出るという。


 王城か……!

 キレイなお姫様がいるかもしれねぇな……!


 俺はスロットルレバーをさらに深く倒し、加速した。

 新たなる土地へと向けて……!

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ゲーマーおっさん、ゴーレムに引きこもる…でもソレ、実はスーパーロボットですよ!? 佐藤謙羊 @Humble_Sheep

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