第39話

 『母なる大地学園』は『すくすく冒険学校』を破り、3回戦進出を果たした。


 ウチの部員たちはもうお祭り騒ぎ。



「ウソ! ウソ、ウソぉーっ! まさか勝っちゃうだなんて! あぁぁーーーんっ! もう踊りが止まんなぁーいっ!!」



 俺の左肩をお立ち台みたいにして、狂ったように踊るサイラ。

 いつもは見ているだけのラビアも、隣で身体を揺すっている。



「最後はもうダメかと思ったけど、やるじゃねぇかボーンデッド! あんなすげぇ技を隠してただなんてよぉ!」



 右肩のほうには、人心を惑わすような踊りを振りまくシター。



「ボーンデッドの正体に対しての疑念が深まり、反比例するように興味が湧き上がってきた。観察を強化せねば」



 俺は右手を差し出していたんだが、手のひらの上では見よう見まねの踊りでアタフタしているカリーフがいる。



「あわわわわ……! それよりもシターさんっ! あたしはいつまで踊っていればいいんですか……!?」



「ボーンデッドの右腕の謎が解明するまで」



「そ、そんなぁ……!?」



 情けない声をあげるカリーフの真下では、輪になった少女たちが盆踊り大会さながらに踊りまくっている。


 『岩石乙女高校』のメンバーだ。

 勝利したとわかったとたんヤツらまでやってきて、一緒になって喜んでくれたんだよな。



「ああっ……! ボーンデッド殿……! あんな巨大な火の玉に対しても一歩も退かず、しかも立ち向かい、粉砕してみせた……! あなたはどこまで底知れぬお方なのだ……!」



 ブソンはひとり幸若舞こうわかまいのような踊りを披露しつつ、惚れ惚れした様子で俺を見上げている。


 ……俺がやってのけた『コールドアーム』による火の玉粉砕はかなりの衝撃だったようで、試合を終えたばかりの頃は質問攻めにあった。


 あれは何なのか、どうやったのか、魔法なのに無詠唱だったのはなぜか、と。

 岩石乙女の整備班のメンバーに至っては、血眼になって俺を分解しようとする始末だった。


 それらをごまかせたのは、サイラが始めたお祭り騒ぎだったんだが……途中で大会のスタッフらしきヤツがやってきて、次の試合の準備があるから退場してくれと注意されちまった。


 祝いの続きは合宿場でやるってことになったんだが、そこでは意外な人物……メルカヴァたちが待ち受けていた。



「やいやいやい、ボーンデッド! 勝負だっ!」



 勇ましいかけ声とともに、ビシッと俺を指さしたのは……先ほどまで戦っていた『すくすく冒険学校』のリーダー、『戦士ファイター』だった。


 1機だけじゃなくて、両隣には『僧侶プリースト』と『盗賊シーフ』もいる。

 エースである『魔法使いウィザード』の姿は見当たらなかった。


 リーダーの言い分はこうだ。


 俺が『赤耀の裂球噴カーディナル・ブラストボール』を粉砕したのは何かの間違いだ。

 録画で何度も確認したけど、この目で見ない限りは信じない。


 でも肝心の魔法使いウィザードはあれから落ち込んでいて、何を聞いても答えるどころか目も合わせてくれないらしい。


 我が部のエースをこんなにしたゴーレムを、このまま許すわけにはいかない……! と意気込んで乗り込んできたというわけだ。


 リーダーはフェイスからまっすぐに俺を見据えながら、宣戦布告をはじめる。



「僕たち私たちと勝負しろっ、ボーンデッド! もしお前が勝ったら、お前の実力はホンモノだと認めてやる! ただし、お前が負けたら……!」



 ハチマキの下のワンパク少年のような瞳が、カッと見開かれた。



「ウィザ……魔法使いウィザードに、ちゃんと『ごめんなさい』しろっ……!」



 顔立ちだけじゃなくて要求まで子供じみていたので、俺はズッコケそうになっちまった。

 ようは謝れってことだ。なんで謝らなきゃいけないのか知らんが。



「過去にも試合に負けたことはあったが、魔法使いウィザードがあんなになったことはなかった! だからお前はきっとなにかをしたんだ! それをちゃんと謝るんだ!」



「その通り……! 魔法使いウィザードを悲しませたままだなんて、絶対に許しません……!」



 隣の僧侶プリーストが賛同する。


 ……なんか、いつの間にか俺が悪者にされちまってるみてぇだな。


 なぜかまわりにいるヤツらも止めようとはせず、ウンウン頷いている。



「うーん、よくわかんないけど……女の子を悲しませちゃだめだよ! ボーンデッドさん!」



「そうだぞボーンデッド! どーせまたなんかやったんだろう! 思い当たるフシがあるんだったら、さっさとゲロっちまえよ!」



「きっと、口に出すのもはばかられるエッチワードを見せたに違いない」



「ええっ!? えっちなワードってどんなのなんですか!? シターさん!?」



「……六文字なら『マンゴスチン』とか『チンゲンサイ』とか」



 足元から、ざわわっ……! とざわめきが巻き起こる。



「み……! 見損ないましたぞ、ボーンデッド殿! そのような卑猥な言葉を試合中に投げかけるなど……!」



 よく通る声で、俺に向かって抗議をはじめるブソン。


 ……なんか、話がどんどん変な方向に行ってねぇか?

 なんで俺がセクハラしたことになってんだよ。


 それに、なにがマンゴスチンだ。なにがチンゲンサイだ。

 俺がマジでエロい言葉をかけたとしたら、そんなんじゃすまねぇぞ……!


 ストロングランゲージにかけちゃ、俺の右に出るヤツぁいねぇ……!

 おかげで危うく何度アカウント停止になりかけたことか……!


 一瞬ヤケになって、その実力を遺憾なく発揮してやろうかと思ったが……やめておいた。


 非難の目を向けるJKたちに向かって、ごく短い言葉を返す。



 『ショウブ ダ』



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 合宿所のそばにある、いつも練習に使っている草原に移動し、果たし合いとあいなった。


 いや、正確には違うか……。

 相手は戦士ファイター僧侶プリースト盗賊シーフの3体なのに、こっちはボーンデッド1体なんだからな。


 その数の不平等については、特に物言いは入らなかった。

 セクハラゴーレムのハンデとしては、そのくらいは当然だと思っているんだろうか。


 まぁ、なんでもいい。

 どのみち俺も、なにも言うつもりはなかったからな。


 言葉でアレコレ語ることはしねぇ。

 なにかウダウダ言ってるヒマがあったら、行動で示したほうがいい。


 ずっとそうして生きてきた。

 ネットでプレイスタイルが叩かれようが、逆恨みで晒し上げられようが……俺はいつも、己のゲームプレイだけで反論してきた。


 百の砲台に武装なしで立ち向かえるかと問われた場合、多くのヤツは千の言葉を駆使していかに自分ができるかを語る。


 でも俺は違う。

 実際に砲撃をかいくぐって、アームパンチを食らわせてやるんだ。


 そのほうが手っ取り早くて簡単なうえに、効果も絶大……。

 砲台も民衆ガヤも、一発で黙らせることができるんだからな。


 でもこうやって火の粉を払うのも、久しぶりだぜ……!

 そんじゃ、一発かましてやるとするか……!

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