第8話

 人目もはばからず、プリーストローブを脱いでいく少女たち。

 まわりには人目もないし、いちおう岩陰ではあるけど、男の俺が側にいるんだぞ……!


 って、そうか!

 彼女らはボーンデッドのことを、中の人がいない『ゴーレム』だって思ってるのか……!


 実は中にいるんですよ……!

 あなたたちの倍以上、人生を生きてきたオッサンが……!


 そんなことを念じてみても、脱衣は止まらない。

 彼女たちにとっては見ず知らずのオッサンにガン見されているとも知らず、生まれたままの滑やかな肌を次々と晒していく……!


 ルルニーが背中に手を回し、今まさにブラを外そうとしている瞬間が目に入った。

 白くて細い肩に、長く艷やかな髪の毛がかかる。


 彼女は聖堂院のリーダーとはいえ、まだ高校生。

 ゆくゆくは稀代の聖女になるのは疑いようのない、清らかで整った顔立ちなのだが……今はまだまだあどけない。


 しかし胸のほうは真逆で、早く大人になりたいと背伸びしているかのような大きさ。

 なんだかブラもキツそうだ。サイズが合ってねぇんじゃねぇのか?


 って、俺はなに高校生の胸を凝視して、ブラのサイズを心配してるんだよ……!

 完全に変態オヤジじゃねぇか……! 相手はまだ子供なんだぞ……!


 俺は自分を厳しく律する。

 左手でボカボカと頭を殴っていたのだが、右手は知らず知らずのうちに『ズーム』のスキルを獲得していた。


 レース編みのブラめがけ、ぐぐぐぐっとズームすると、モニター一面に見るからに柔らかそうな谷間が映し出される。


 そしてホックが外された次の瞬間、


 ……ぽよん。


 と音が聞こえてきそうなほど、柔らかに弾んだ。

 波打つミルクプリンの持ち主は、ブラが落ちないように腕でサッと受け止める。


 そこでルルニーの動きが止まってしまったので、何事かとカメラを引きにしてみると……彼女は俺の視線に気づいたかのように、顔をあげてじっとこちらを見ていた。


 モロに目が合ってしまう。


 もちろんモニターごしなんだが、俺の心臓は急襲を受けたようにドキリ! と高鳴った。


 や……やばいっ! 気づかれた!?


 と焦ったんだが、彼女はボーンデッドに……いや、きっと俺に、はにかむような微笑み返してくれたんだ……!


 まるで、脱衣所に入ってきた彼氏にするようなリアクション……!


 もちろんモニターごしなんだが、俺の心臓はキュン! と高鳴った。


 「もう、エッチなのはいけませんよ」という空耳が脳内に響き、「いや、エッチなのはお前のほうさ」なんて妄想に突入しそうになる。


 ほっ……惚れてまうやろぉぉぉぉっ!!



「ああっ!? ルルニーさん、またチャッカリ胸を大きくして!?」



 ひょこっ、とモニターの端からララニーが顔を出す。

 すでにマッパの彼女は、小さい子のローブを脱がせてあげながらルルニーにチョッカイをかけてきた。



「チャッカリって、ララニーさん……これは自然に大きくなってしまったんです……」



「アハハハハッ! ジョーダンですって! ルルニーさんの胸が大きくて、あたしも鼻が高いです! ゼムリエ様みたいにボイーン! ってなってくださいね! ボイーンって!」



「もう、ララニーさんったら……」



 弾けるような笑顔のララニーと、困り笑顔のルルニー。

 まわりの女の子たちも、わあっと笑った。


 違いはあれど、みんなみんなまぶしい笑顔だ。

 きっと、これから入る温泉が楽しみでしょうがないんだろう。


 ボーンデッドのまわりには、生まれたままの天使たちであふれている。


 ……や、やっぱりダメだ……!

 こんな無垢な少女たちを、覗き見するだなんて……!


 俺は自分を厳しく罰する。

 左手でバチバチと頬を叩いていたのだが、右手は知らず知らずのうちに『カメラ増設』のスキルを連打していた。


 『カメラ増設』はボーンデッドの身体に埋め込まれているカメラを解放するスキル。

 俺は主に、脚部あたりのカメラを一気に解放した。


 カメラとともに、モニターも増設される。

 デイトレーダーの部屋のように、モニターだらけになるコクピット。


 360度、全方位が肌色にまみれた。



「くうっ……!」



 顔がカッと熱くなり、うめき声とともに鼻から鮮血が吹きだす。


 や、やべぇ……! こ、こんなの……やば過ぎるだろ……!


 前を見ても裸、右を見ても裸、左を見ても裸、後ろを見ても裸……!

 ボインとしたのとか、ペタンとしたのとか、ツルンとしたのとか、スジンとしたのとか……!


 まるで、透明人間になって女子更衣室にいるかのようだ……!

 吸気ユニットはオフにしてあるはずなのに、むせかえるような肌のニオイを感じる……!



「みなさぁーんっ! ちゅうもーく!」



 ひと一倍元気なララニーの声がする。


 今のモニターは幼女目線。

 華奢な背中と剥きたての卵みたいなつるんとした臀部が並ぶ向こうには、岩の上で仁王立ちになるララニーの姿が。



「チャッカリ服はたたみましたかぁー!?」



「はぁーいっ!!」



「では、温泉にはいりましょー! 大きい子は小さい子を入れてあげてくださぁーいっ! では、チャッカリゆっくり浸かりましょー!」



「はぁーいっ!!」



 このまま温泉に向かうんだろうなと思い、俺は少しだけ気を抜いた。


 しかし、さらなる刺激にさらされる。

 周囲の少女たちが、なぜか一斉に俺のほうを向いたんだ。



「……うおっ!?」



 幼女目線だったので大事なところをモロに見てしまい、俺は思わずシートから飛び上がっちまった。


 恋人にしか見せないような所を知らないオッサンに見られているとも知らず、少女たちは無邪気に合唱する。



「ボーンデッドさん、いっしょにはいろー!!」



 「へっ?」と呆気に取られていると、岩の上の元気っ子の声が割り込んできた。



「ああっ! それはグッドアイデアです! ボーンデッドさんも一緒に温泉に入りましょう! さあさあっ!」



 言うが早いが岩から飛び降り、ボーンデッドの脚をうんうん言いながら押すララニー。


 もちろんびくともしない。

 ちょうどカメラがある位置に、ある部位がぺちょっと密着してこれでもかと大写しになる。


 顔や性格だけじゃなくて、そっちも控え目な子が止めるように寄り添った。



「あの、ララニーさん。ボーンデッドさんにご迷惑なのでは……?」



「そんなことありませんって、ルルニーさん! ボーンデッドさんだって温泉に入りたいに決まってますって! ねっねっ!?」



「ねっねっ、ボーンデッドさん!」



 ララニーのマネをする小さい子たちが、ぴとっと脚に張り付いてきた。

 ツルツル包囲網の前に、俺は失血死寸前まで追い込まれる。



『ハイル』




 朦朧とする意識の中でそれだけ打つと、「やったー!」という歓声が沸き起こった。



  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 この滝のまわりには温泉がいくつかあるのだが、ボーンデッドでも入れるプールみたいに広々とした温泉を見繕って、そのど真ん中で膝を抱えて座る。


 お湯のカサは人間でいうところの膝上くらいまでしかないので、座ったところでボーンデッドの尻と脚くらいしか浸かれていない。

 まあ、おままごとみたいなもんだからこれでいいだろう。


 それに女の子たちも、俺と一緒に入れて満足そうだ。

 温泉は他にもあるというのに、みんなボーンデッドのまわりから離れようとしない。


 ちょこんと正座したまま湯につかり、もみじのような手でボーンデッドの身体をぺたぺた触っている。


 ちなみにボーンデッドは鉄とかではなく『モリオン』という物質でできている。

 『ナノマシン』のようなすげーちっちゃいコンピュータの集まりなんだ。

 

 だから、たとえ強酸性の温泉であろうとも錆びることはない。

 それに低い位置のカメラを増設したおかげで、コクピット内では温泉に浸かっているような気分を味わえている。


 と、いっても……あくまで気分だけ。

 いかんせん音と映像だけなので、イマイチなんだよな。


 いや、女の子のあれやこれやが眺められるのは最高だよ?

 水中カメラもあるので、正座してるナマ脚も拝めるし……。


 でもみんな、そんなにお行儀よくしなくてもいいんじゃないかな?

 せっかくの温泉なんだから、もっとリラックスして……もうちょっと脚を崩してみてもいいんじゃない?


 いやいや、何考えてんだ俺は。


 あ……そういや、内装スキルにちょうどいいのがあったような……。


 俺はモニターの一部をスキルウインドウに変え、『内装』ツリーを眺めてみる。

 あった、『バスユニット』。これでもっと温泉気分が味わえるはず……。


 スキルポイントを1ポイント使って獲得し、さっそく使ってみると、コクピットの足元が水浸しになった。

 正確には温泉浸しか。


 『バスユニット』は外部の水やお湯をコクピットに取り入れるスキル。

 ゲームのほうでは内部パラメーターであるストレス値を下げる役割があるんだが、あまり役に立たなかったのですっかり存在を忘れていた。


 コクピット内にもうもうとした湯気が広がる。

 シートに座っている俺の、胸のあたりくらいまでお湯が満たされたところでスキルの効果は止まった。


 操縦桿なんか、完全に水没しちまってる。

 でもボーンデッドは内装も外装も高い防水性と水密性を誇っているので、こんなムチャをしてもなんともないんだ。


 そんなことよりも……ああっ、すっげー気持ちいい……!

 よく考えたら、久しぶりの風呂じゃねぇか……!


 身体のどこかに溜まっていた疲れが、じんわりとお湯に溶けていくような気がする。

 両手でお湯をすくい、顔にばしゃっとひっかけ、ゴシゴシとこすった。



「あぁ……!」



 シートに倒れ込んで肩まで浸かると、思わず声が漏れる。

 声は聞こえてないはずなのに、ボーンデッドの隣に座っているルルニーが「ふふっ」と微笑んだ。



「うふふ、ボーンデッドさん、なんだか気持ちよさそうですね」



「ですよね!? ですよね!? やっぱりゴーレムさんも温泉に入ると気持ちいいんですって!」



 ルルニーに比べて控えめな胸を、得意げに反らすララニー。



『キモチ イイナ』



 俺は、彼女たちとの温泉を楽しむ。

 男女比がずいぶんとアンバランスな混浴だったが、気分は最高だった。



――――――――――――――――――――

●レベルアップしたスキル


 内装

  Lv.00 ⇒ Lv.01 バスユニット


 カメラ

  Lv.00 ⇒ Lv.04 増設

  Lv.00 ⇒ Lv.01 ズーム

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