第5話
塩をもらったところで再び河原に戻り、料理の続きをやる。
串に刺した魚に塩をまぶし、焼く……と、そういえば、火もなかったな。
でも火を起こすのは『サンダーアーム』があれば簡単だ。
乾いた流木を握って、電流を流してやればいい。
落雷で木が燃えるのと同じ原理で発火する。
集めた流木で焚き火をして、そのまわりに魚の串を立てた。
あとは、焼けるのを待つだけ……っと。
俺はシートの背もたれにどすんと身体を預け、違和感に気づく。
そういえば……このシート、座り心地が悪ぃなぁ。
初期状態だから当たり前っちゃ当たり前なんだが……。
それにずっと興奮しっぱなしだったから気づかなかったけど、ちょっと寒い。
まぁ、俺の格好が格好だから、無理もねぇか。
うーん……夢ならすぐ醒めるだろうと思ってたんだが……まだ醒めないなら好都合だ。
ちょっと腰を据えてやってみっか。
俺は魚が焼けるまでのヒマつぶしに、スキルウインドウを操作する。
ボーンデッドで魚獲りやら石器作りやら料理やらをやってる間に、功績値がたまってレベルアップしたんだ。
おかげで、スキルポイントはいっぱいある。
これで快適な住空間を作り上げよう。
まずは基本中の基本、『コクピット安定化』。
これはボーンデッドが大きく傾いたりしても、コクピットだけは水平に保ってくれるんだ。
そして『空調』。コクピット内を快適な温度湿度に保ってくれる。
これで暑さ寒さ対策はオッケー。
さらに『シートクラス』。これでシートの座り心地が改善され、リクライニングができるようになった。
ポイントを費やせばマッサージ機能も付くんだが、いまは1ポイントでいいだろう。
あ、あと肝心なのを忘れるところだった、『便器クラス』。
ボーンデッドの初期状態はポットン便所だから、臭いったらありゃしねぇんだ。
ウンコのニオイが気になるコクピットって、どんなハードSFだよ。
それに俺は温水便座じゃないとダメなんだ。
レベル1だと水洗になるだけなんだが、レベル2だと温水便座になる。
ここは惜しみなく2ポイントかけよう。
あとは……そうだなぁ、『食料ストレージ』も取っとくか。
あまった魚を貯蔵できるからな。
……こんなもんかな。
ああ、スキルポイントを一気に6ポイントも使っちまった。
でもゲームでスキルポイントを使うのって、リアルで金を使うのに似てるよな……なんかスッキリするんだ。
おっと、そろそろ魚が焼けてきたかな?
こんがりとしたいい色の魚をつまみあげ、ボーンデッドの口に運ぶ。
パカっと開いた口に魚を放り込むと、それと同じものがトレイに乗って頭上から降りてくる。
ボーンデッドの口は、外部のものを取り入れることができる装置。
口に入ったものはコクピットに運ばれるか、または『ストレージ』と呼ばれる貯蔵庫にしまわれるんだ。
美味しそうな焼き魚が現れた瞬間、コクピット内に香ばしいニオイが広がる。
吸気ユニットはオフにしっぱなしだから、これが初めての外のニオイだ。
俺はその薫香をめいっぱい鼻で吸い込んでから、魚の胴体にかぶりつく。
皮のパリッとした食感のあとに、ホクホクの身がほろりと解ける。
ジューシィな旨味と塩味が、口いっぱいに広がった。
「う……うんめぇ~っ!」
それは、思わずヒザを打つほどの旨さ……!
俺は、料理をよくやる。
引きこもった当初はコンビニの弁当とか宅配ピザだったんだが、なんとなくネットで見た簡単レシピをやってみたら、なんだか楽しくてハマっちまったんだ。
魚を三枚におろすのは当たり前、今やバースデーケーキとかも自作する。
料理ってゲームとかと同じで、作ってる最中は何もかも忘れて無心になれるから好きなんだ。
とはいえ、こうやって川魚を食べるのは初めてだ。
あ、いや、ガキの頃キャンプで一度やったかなぁ……。
おおっと、いかんいかん。
イヤな思い出が蘇ってきそうだったので、頭をブルブルして振り払う。
けっきょく俺は15匹の魚を平らげた。
残りの15匹は食料ストレージに入れておく。瞬間冷却してくれるから、長いこと持つんだ。
まぁ、さすがにそれまでには、この夢も終わってると思うけどな……。
ふわぁ~あ、と大きく伸びをしてシートを倒す。
『戦闘墓標ボーンデッド』ではログアウト中も機体がそこに残り、敵に襲われる。
だからなるべく安全な場所でログアウトする必要があるんだが、俺くらいになるとつけっぱなしで寝て、敵襲の警報が鳴ったら飛び起きるんだ。
だが、こっちの世界は平和そうだから、その心配はいらなそうだな……。
今日はいろいろあって疲れていたのか、俺はあっという間に意識を失っちまった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
次に目覚めてもまだ俺はウテルスの中にいて、昨日と同じ川べりにいた。
朝日が目に染みる……。
それにしても、こりゃかつてないほどの長大な夢だぞ……。
まぁ、別にいいけど……。
そしてその日から、俺の『ボーンデッド暮らし』が始まった。
ずっと魚ばっかり食ってても飽きるから、近くの森に入って木の実や果物を採ってみた。
そんな俺を、町のヤツらは怪訝そうに見る。
そりゃそうだ。ロボットが魚や木の実を採って、川べりで焚き火をして暮らしてるんだからな。
しかししばらくすると慣れてきたのか、町ですれ違っても逃げられなくなった。
それどころか果物をいっぱい抱えて町の中を歩いていたら「売ってくれ」と頼まれる始末。
そして俺は、初めてこの世界の通貨である
紙幣ではなく、どの額面もすべて硬貨。
価値は世界共通でも、発行する国によってデザインは異なる。
この『ディス・ベスタ』の国の
物価は日本円に近く、瓶に入ったジュース1本100
あと、ちょっと驚いたことがあるんだ。
それは、この世界はかなり『魔法』が発達しているということ。
なんと、水晶の板みたいなのに映像を映し出す技術があるんだ。
そりゃ『メルカヴァ』や『ゴーレム』なんていうロボットが魔法で動く世界だから、あってもおかしくねぇような気もするけど……。
それはテレビとほぼ同じもので、『
ただ一般家庭には普及していない高級品のようで、街頭テレビみたいに町のところどころに設置されているのをみんなで観る、という形がとられていた。
ボーンデッドのスキル一覧の中にも『魔送』があったので取ってみたら、モニターでこっちの世界の放送が観られるようになった。
テレビと同じく、今の風俗が凝縮しているようなソイツおかげで、俺はこの世界のことにだいぶ詳しくなれたんだ。
そして今も、『メルカバトル』という『メルカヴァ』同士のバトルを中継する番組を垂れ流しながら、俺は晩メシの準備をしている。
自然と鼻歌が出た。なんたって今日はカレーを作るんだ。
カレーをずっと食いたいと思ってたんだが、町を探してもカレー粉が売ってなかったんだよな。
だから木の実探しのついでに、カレー粉の材料となるハーブをコツコツ集めた。
そしてついに全部揃ったので、大量の肉と野菜、そして米を買い込んでカレーづくりを決行したんだ。
カレーはたくさん作ったほうが美味しくできるからな。
大量に作っても『食料ストレージ』に入れておけばいつでも食べられる。
これでカレーに困ることは、当分なくなるってわけだ……!
カレー不足は深刻な問題だったから、それともようやくおさらばだ……!
もう俺の家と化した河原。
台所と化したスペースで、巨大な鍋に入れた具材をグツグツ煮込んでいると……ものすごい視線を感じた。
気配がするほうに顔を向けると、そこには……。
じっと俺……いや、鍋を凝視する聖堂院の幼女集団がいたんだ。
――――――――――――――――――――
●レベルアップしたスキル
内装
Lv.00 ⇒ Lv.01 魔送
Lv.00 ⇒ Lv.01 食料ストレージ
Lv.00 ⇒ Lv.02 便器クラス
Lv.00 ⇒ Lv.01 シートクラス
Lv.00 ⇒ Lv.01 空調
Lv.00 ⇒ Lv.01 コクピット安定化
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