第4話

 女の子たちとキスすると、ボーンデッドの功績値バーが今までにないほどにぎゅんぎゅんと伸びていき、一気に数レベルアップした。


 功績値ってのはボーンデッドの活躍に応じて入手できるポイントのこと。

 ゲージの最大までためるとレベルアップし、スキルポイントが手に入るんだ。


 しっかし、ボーンデッドコイツって、キスでも功績値が入んのか……。

 しかも尋常じゃねぇ量だったぞ。戦艦撃破したときと同じくらいだったような……。


 コイツとは長いつきあいで、もう知りつくしているつもりだったんだが、そんなスケベな特性があるとは知らなかった……。


 俺はちょっとしたショックを感じながら、ガションガションとあぜ道を歩いていた。

 こんなふうに脚で歩行するのも久しぶりなので、この振動も懐かしい。


 そして俺の肩や腕には、女の子たちが乗っている。

 もちろんコクピット内の俺じゃなくて、ボーンデッドのほうに。


 女の子たちのリーダーに頼まれ、街まで送ってほしいと頼まれたんだ。


 断る理由なんかない。

 だって俺には目的なんかなくて、この夢から覚めるまでボーンデッドコイツで遊ぶつもりだったんだからな。


 とはいえ歩くだけってのも退屈で、面倒になってきたのでスキルポイントを使って『オートパイロット』を獲得。


 さらにアプリケーションの『地図』を獲得。

 レベルアップさせるとナビ機能がつくので、2ポイントを費やす。


 さらにこのふたつのスキルを組み合わせれば、目的地まで自動で歩かせることができるんだ。


 さっそく地図を開いてみると、やっぱり見たこともない地形が広がっていた。

 まずはリーダーの子が言っていた、近くにある『ロッガスの町』を目的地に設定する。


 余裕ができたところで、地図をじっくりと眺めてみた。


 ここはどうやら『ディス・ベスタ』という国らしい。

 クグってみると、『地の神ゼムリエを崇拝する国家』とのこと。


 うーん、やっぱりここは『戦闘墓標ボーンデッド』のSF世界じゃなく、どっか別のファンタジー世界みたいだな。

 かといって、俺の知ってるファンタジーRPGにはどれにも当てはまらないし……。


 まぁ、そんなことは別にいっか。

 どーせ夢なんだから、なんだってかまやしねぇ。


 なんてことをやってるうちに、目的地の『ロッガスの町』に着いた。

 中世ヨーロッパの片田舎みたいな、レンガ造りの家が立ち並ぶ小さな町。


 門に近づくなり、時計台の鐘が転げ落ちたような、けたたましい雄叫びが聞こえてきた。



「るるにぃさぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!! みなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!! ぶじだったんですねぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーっ!?!?」



 声の正体は、プリーストローブを着た高校生くらいの女の子。

 ショートカットにらんらんと輝く瞳で、いかにも活発そうだ。


 しかもリーダーの子にひけをとらないくらい可愛い。

 印象は真逆だが、どこかリーダーの子と似ているような……?


 なんてことを考えていると、その子がボーンデッドの前に当たり屋のように飛び出してきたので、危うく蹴飛ばしちまうところだった。


 しかし彼女は怯まない。

 なにかに取り憑かれたかのようにボーンデッドの脚にしがみつくと、土俵際の力士さながらに踏ん張りはじめたんだ。



「ぬぎいいいいいいっ!! いけませぇぇぇぇぇぇんっ!! ごぉれむさんっ!! ルルニーさんを!! みなさんを離してくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!」



 なんだコイツ!? と思っていると、



「お待ちくださいララニーさんっ! こちらのゴーレムさんはわたしたちを助けてくださったんです!」



 リーダーの女の子、たぶん『ルルニー』は、慌ててボーンデッドの腕から飛び降り、『ララニー』をなだめた。



「えっ……? そうだったんですか?」



 ぴたり、とララニーの動きが止まる。


 ルルニーのほうを向いた彼女は舌を出し、ハッハッと息を切らしていた。

 ドッグランでさんざん遊んだ犬みたいだ。



「よ……よかったぁ……みなさんがチャッカリ無事で……!」



 そのまま地面にへたりこむ犬娘。

 どうやら絶叫と相撲で、スタミナを一気に使い切ってしまったらしい。



「ふふっ、ララニーさん、それをおっしゃるなら、『ちゃんと無事で』ですね」



 ルルニーが困り半分、呆れ半分の笑顔で訂正すると、ボーンデッドに乗っていた少女たちがどっと笑った。



  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 ルルニーとララニーは双子の姉妹で、町はずれの川沿いにある聖堂院を営んでいた。

 まだふたりとも高校生くらいなのに、しっかりしてる。


 聖堂院というのは、簡単にいうと教会みたいなもの。

 この国の主神である『地の神ゼムリエ』に祈りを捧げる場所らしい。


 聖堂院は身寄りのない女の子たちを養護する施設でもあるらしく、たくさんの幼い少女たちがいた。


 俺が訪ねていくなり、みんなワーワーキャーキャー大騒ぎ。

 遠巻きに見つめる子、そっと近づいてちょこんと触って逃げる子、よじ登ろうとする子、様々だった。


 どうやらこの町では『メルカヴァ』も『ゴーレム』もかなり珍しい存在らしい。

 それは町のヤツらの奇異なる視線でもわかった。


 そもそも『メルカヴァ』自体が一般の人には手に入らないシロモノらしく、こんな小さな町には存在すらしないようだ。

 聖堂院に向かうまでの道すがら、一体も見かけることはなかった。


 それから俺は聖堂院の少女たちから、お礼の歌やら花飾りを受け取り、ささやかながらも熱烈な歓待を受けた。


 ……そこまではよかったのだが、問題はそのあとだった。


 彼女たちは夕食の準備があるとかで聖堂院の中に引っ込んでしまったので、俺はやることがなくなっちまったんだ。


 出入り口の扉は小さすぎて、ボーンデッドでは中に入れねぇし……。

 それに、俺もいい加減ハラが減ってきた……。


 聖堂院の窓ガラスの向こうでは、小学校低学年くらいの子たちまでもが、お手伝いをして厨房の中を行ったり来たりしている。


 俺もいちおう料理をするのでわかるんだが、あんまりいい飯でもなさそうだった。

 たぶん……貧乏なんだろうな。


 最初見た時は気づかなかったが、着ているプリーストローブもツギハギだらけだ。


 う~ん……メシの一回分くらいは厄介になりたかったが、しょうがねぇなあ。


 俺は聖堂院の中庭から離れると、すぐ側を流れている川へと向かった。


 ……金がありゃ、そのへんでなにか買って食うんだが、あいにく俺は一文無しだ。

 一応気になってこの国の通貨を調べてみたんだが、エンダーというらしい。


 なんにしても、自給自足をしなきゃならねぇ。

 ゲームのほうでも、ボーンデッドのパイロットには空腹と眠気のパラメーターがあるくらいだからな。


 そしてサバイバルなら慣れっこだ。

 ゲームでは今よりもっと過酷な環境で戦うミッションがいくらでもある。


 なにもない砂漠でサソリを取って食ったり、極寒の地でアザラシを捕まえて食ったり……。

 まぁ、こんなリアルな夢じゃやりたくねぇけどな。


 なんてことを考えながら俺は、聖堂院を見上げる川のそばに立っていた。

 水はかなりキレイらしく、夕日を受けた水面は燃えるような輝きを放っている。


 俺はスキルポイントを使って『サーチ』のスキルを獲得した。


 これは指定したものをカメラが捉えた場合、モニター上に強調表示してくれるようになるスキルだ。


 『魚』と指定すると、川の中にいる魚のシルエットが大量に浮かび上がる。


 おお、いっぱいいる……!


 シルエットをタッチすると、その魚の種類が表示された。


 名前はちょっと違うけど、ヤマメとかイワナっぽいのがいる……!

 コイツは塩焼きにしたら、かなりイケそうだ……!


 『サンダーアーム』で電流を一極集中し、魚群に向かって稲妻を降らせる。


 ……バシイッ!!


 ショートするような弾けた音のあと、腹を上にした魚がぷかっと浮いてくる。


 よし、うまくいった……!


 流れてくる魚たちをすくいあげ、河原に置く。


 おお、大漁だ、一気に30匹も獲れちまった。

 こんだけあれば晩メシにはじゅうぶんだろう。


 さて、次はコイツらを捌くとするか。


 刃物はないから、石器のナイフを作ることにした。

 河原の岩どうしをガンガンぶつけて形を整える。


 岩を鋭利にするのはかなり細かい作業なので、指だけマニュアルモードに切り替えて、操縦桿を絶妙な力加減で操る必要があるんだ。


 カン! カン! カン! カン! と規則正しい音が、河原に響きわたる。


 技術の粋を集めた最先端ロボットで石器を作るなんざ、なんだか妙なカンジではあるが……これは超一流パイロットでもマネできない芸当なんだ。


 多くのヤツらが超一流どまりなのは、オートモードしか使っていないから。

 武器を握るのと銃のトリガーを引くくらいしか指を使ってないからな。


 そのクセ「マニュアルモードはネタ、ヌータイプでも制御できない」なんてぬかしやがる。


 この俺のようにマニュアルモードを使いこなしてこそ、世界一のパイロットになれるっていうのに。


 できあがった石器のナイフで魚を捌き、落ちていた流木を削って串を作り上げる。

 ボーンデッドのサイズからすると、料理というより米粒に般若心経を書くような作業だが、難なくこなす。


 木串に魚を刺せば、あとは塩をまぶして焼くだけ……。


 あっ、しまった、塩がなかった!


 さすがに世界一の俺でも、塩は作れねぇなぁ……。


 しょうがねぇ、塩くらいならもらってもバチは当たらねぇだろう。


 聖堂院に戻ってドアをノックすると、ズバアンと必要以上の力加減でドアが開いた。



「はぁーい! どなたー!? ぎょわっ!?」



 ララニーは俺を見るなりひっくり返る。

 来客が想像以上にデカかったことに度肝を抜かれたんだろう。


 その後からしずしずと、ルルニーが続く。

 ルルニーは俺を見なりパッと顔を明るくした。



「あっ、ゴーレムさん、まだいらしてたんですね、お姿がなかったので、もうどこかに行かれてしまったのかと……」



『オレノ ナハ』



「はい?」



『ボーン デッド』



「ああ、ゴーレムさんのお名前は、ボーンデッドさんとおっしゃるんですね」



 祈るように胸の前で手を組み合わせ、おっとりした微笑みを浮かべるルルニー。

 その可憐さに、思わず惚ちまいそうになる。



「あっ、そうそう! ボーンデッドさん! 晩ごはん一緒に食べましょう! ねっねっ!?」



 復活したララニーは、ニコニコしながら俺の手をぐいぐい引っ張ってきた。

 その人なつっこい笑顔に、またしても惚れちまいそうになる。


 ついお呼ばれしたくなっちまったが、室内の長テーブルに並べられたメシはパンにスープだけという、質素すぎるものだった。

 みんな女の子とはいえ食べ盛りだろうに、量も少ない。



『イヤ イイ』



 俺は丁寧にお断りする。

 彼女らの食べる分を、あれ以上減らすのは申し訳ない。

 それよりも、



『シオ クレ』



「シオ? お塩のことですね。かしこまりです。今すぐお持しますね」



 そうルルニーが言うなり、「んぎぃぃぃ~!」と塩の入った大きなかめを奥から運んでくるララニー。


 落ち着いているルルニーに比べ、ララニーはかなりせっかちのようだ。

 どっちもトップアイドル級の美少女だが、性格は似ても似つかない。


 おそらくこの聖堂院の何年分かの塩が入っているであろう瓶が、どすんと床に置かれる。


 こんなにはいらねぇんけどな……と俺はコクピットで苦笑しつつ、ひと握り……ボーンデッドからするとひとつまみだけもらうことにした。



――――――――――――――――――――

●レベルアップしたスキル


 アプリケーション

  Lv.00 ⇒ Lv.02 地図


 機動

  Lv.00 ⇒ Lv.01 オートパイロット

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