第2話
「へへっ、今日は上玉のガキどもも手に入ったし、そのうえこんなキレイなゴーレムまで手に入るとはな!」
「まさしく今日は『新品祭り』だな! 新品大好きなお頭も大喜びしてくださるはずだ!」
「さっそく持って帰って、バッキバキに壊して、パーツ取りしようぜ!」
「女もゴーレムも、新品をメチャクチャにするのはたまんねぇーよなぁ! イーッヒッヒッヒ!」
カメムシみたいにボーンデッドにへばりついて、下卑た笑い声をあげるオッサン軍団。
こ……コイツら、山賊っぽいヤツらじゃねぇ……!
ガチの山賊じゃねぇか……!
「これも、普段の行いが良いせいだ……! 我らが『ブラックサンター』に栄光あれっ!」
馴れ馴れしく肩に乗ったオッサンが叫ぶと、モニターが反応した。
【ブラックサンター】
闇の神『ドゥンケ』を崇拝する国家組織。
固定の領土は持たず、国民は他国を不法占拠して暮らしている。
首都は『移動城塞エルキ・トロン』。周囲50kmを領土と主張し、各国を渡り歩いている。
首都の周囲や、国民たちが占拠した土地で略奪や大量殺人を行い、それが主だった収入源となっている。
『アウトラインネットワーク』を取得すると、あとは音声を拾って自動的に意味を表示してくれるようになるんだ……って、何だって!?
コイツら……山賊なんてかわいいモンじゃなかった!
マジモンの犯罪組織じゃねぇか!
なにが『ブラックサンター』だよ……!
チョコレートじゃあるまいし……!
チョコレートのほうはゲームプレイの合間によく食ってて好きだけど、お前らみたいなのは大っ嫌いだ……!
俺は激情に任せ、操縦桿をめいっぱい振り切った。
ボーンデッドが両手をバンザイさせた瞬間、
……バキィィィィーーーーーーーーーーン!!
身体に巻き付いていたチェーンが粉々になり、山賊どもが振り落とされる。
地面に叩きつけられたヤツらは腰を抜かし、目を白黒させながら俺を見上げていた。
「こっ……コイツ、動くぞ!?」
「くそっ、『ミンツ』のエネルギーがまだ残ってやがったんだ!」
「構うこたぁねぇ! ヌシのいねぇ『ゴーレム』にできることなんざ、たかが知れてる! 痛めつけて、大人しくさせるんだっ!」
棍棒やナイフを手に手に、わぁーっと向ってくる原始人ども。
足元にたかり、ボーンデッドのカカトやくるぶしをカンカンカンカン叩きはじめた。
耳障りな音は、コクピットのほうまで虫歯のようにキンキン響いてくる。
……うぜえ……! 踏み潰してやりてぇ……!
しかし、それはそれでやりたくない。
ゴキブリを踏み潰すのって、なんか嫌じゃん?
靴が汚れるものそうなんだけど、踏み心地が嫌なんだ。
枯れ葉みたいなパリッ! とした感触のあと、グチャッ! とした感触があって……。
やべぇやぇべ、想像しただけで鳥肌が立ってくる……!
俺はやむなく初期スキルポイントの最後の1ポイントを使い、『サンダーアーム』のスキルを獲得した。
これは、腕に電流をまとうことができるスキル……!
操縦桿を操って、マニピュレーターを足元にかざす。
そしてトリガーを引くと、青白い光が走る。
刹那、溶接のような火花がたちのぼった。
バチンッ! 「ぎゃん!?」
電撃殺虫器にかかった蛾のように、動かなくなる名も知らぬオッサン。
よし、もういっちょ。
バチイッ! 「ぎゃあっ!?」
吸気ユニットのスイッチをオフにしてるから匂ってこないが、チリヂリになった髪の毛からプスプスとたちのぼる煙は、いかにも焦げ臭そうだ。
よし、残りもこの調子で……と思っていたら、山賊どもは蜘蛛の子を散らしたかのように離れたあとだった。
「こ……コイツ……! 手から電撃魔法を出してきたぞ!?」
「バカな……!? ゴーレムが魔法を使うなんて、ありえねぇだろ!?」
「そうだ、魔法なワケがねぇ! だって詠唱もなかったんだぞ!?」
「だったら何なんだよ!? アイツの手、今もバチバチしてるじゃねぇーか!」
ボーンデッドの両腕を走る、ひび割れのような稲妻にすっかり驚いている原始人たち。
そうそう、このままどっか行け。
ゴーレムだか何だか知らないけど、俺をそっとしといてくれないか。
しかし……期待どおりの展開にはならなかった。
「こうなったら……メルカヴァでブッ潰してやるしかねぇっ! おい、『ジャイアント・バンディット号』を起こせっ!」
キャラバンの最後尾にあった、布がかけられた積荷がいきなり動き出す。
……ギギギギギギギギ……!
巨大なブリキのオモチャのような、きしむ音とともに起きあがったのは……ツギハギだらけのロボットだった。
これがもしかして、『メルカヴァ』……?
頭上に、コクピットにいるオッサンの顔……『フェイス』が投影されているから、間違いないだろう。
名前は悪くなかったから期待してたんだけど……あまりに貧……いや、野性的だった。
なんていうの? あのハンバーグ屋……。
そうそう、『ぴったりドンキー』がロボットになったらこんなカンジ、っていうのを体現しているかのような、貧乏くさ……いやいや、ワイルド過ぎるヤツだったんだ……!
立ち上がったメルカヴァは、がちょーんがちょーんとコミカルな音をたてて向かってくる。
ぐるぐるパンチのように手を振り回し、ボーンデッドにパンチの雨を降らせてきた。
……ゴン! ガン! ゴン! ガン! ゴン! ガン!
雹が降りしきる屋根の下にいるかのような、やかましい音がコクピット内を包む。
山賊どもは大盛り上がり。
「でたぁーっ! 我らがジャンアント・バンディット号の、ローリングパンチ!」
「これをくらったヤツで、生きてるヤツはいねぇ!」
「ああ! ゴーレムだろうが建物だろうが、ボッコボコにぶっ潰されるんだ!」
……いい加減、俺はキレそうになっていた。
いや、もうキレていた。
俺……大っ嫌いなんだよ……やかましいのが……!
人が寝てる昼間っから工事なんてやってたりしたら、プロキシを使って苦情のメールを大量に送りまくるほどに……!
電話はしゃべんなくちゃなんねぇから、一度もかけたことねぇけど……メールだけはその建設会社のサーバーがパンクするほどに送ってやるんだ……!
思い出すだけでムカムカしてきた。
そして鳴り止まない金属音と、『フェイス』に映るオッサンのドヤ顔が、さらにそれに拍車をかける。
まるで「部屋から出てこい」と、ノックされ続けてるような気分だぜ……!
「……うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
俺は無意識のうちに、声をかぎりに吠えていた。
「俺の利き手が光りに光るっ! お前を倒せとバチバチ叫ぶっ……!!」
そして、あるロボットアニメの名台詞が口をついて出ていた。
……バチバチバチバチバチッ!!
俺の高ぶりに呼応するかのように稲妻が這い、右の手のひらに集まる。
『サンダーアーム』は費やしたスキルポイントが多いほど、電撃の威力もあがる。
だがこうやって一箇所に集めることにより、局地的に強い電撃を発生させることができるんだ……!
「シャイニング……!!」
……そして、俺は今世紀最大の肩透かしをくらう。
技の名前を叫びながら右手をかざしたんだが、それが軽く触れただけで、あっさりとジャイアントなんとか号が四散しちまったんだ。
バラバラになった胴体から、
チリチリパーマになったオッサンが、着座したまますっ飛んでいくのが見えた。
それとほぼ同時に、
……ドンガラガッシャァァァァァァーーーーーンッ!!
落雷のような轟音をもって、帯電したパーツがあたりに叩きつけられる。
それはオーディエンスをも巻き込み、骨が透けて見えるほどの電流を別け隔てなく与えていた。
俺は期待ハズレのあまり、思わず不満が口をついて出てしまう。
「ええっ……なんだよぉ……! 技名、全部言ってなかったのに……! 途中でやられるなんて、クソアニメにも程があんだろ……!」
がっくりとうなだれた俺の耳に、ふと、悲鳴がかすめる。
「ひ、ひぃぃぃぃ~っ!? なんなんだ、なんなんだアイツ……!?」
「バケモンだ……! バケモンに違いねぇ、あのゴーレムっ……!」
「帰ってお頭に……お頭に知らせねぇと……!」
ドリフの爆発コントみたいに真っ黒になったオヤジたちが、ほうほうの体で逃げているところだった。
ソイツらはもうだいぶ離れた所にいる。
このまま逃がすとなんだか面倒なことになりそうな予感がしたが、追いかけるのも面倒くさい。
山賊どもをやっつけたおかげで、レベルアップしてスキルポイントが増えていた。
ちょうどいいやと思い『ロケットリム』のスキルを獲得する。
これはゲーム初期に手に入る、唯一のミドルレンジ武器……!
「ロケットパァーンチ!」
お決まりの台詞とともに放たれる、空飛ぶ拳。
といっても岩のように巨大な拳だ。
逃げるドリフターズの足元に着弾すると、
……ドォォォーーーーーーーンッ!!
と派手な土煙をあげていた。
特撮ヒーローものの戦闘員のように吹っ飛ぶ人影。
よし、っと。
これでようやく静かになったな。
……あ、そうだった……あのパンチ、回収しなきゃいけないんだった……。
ロケットパンチなんて長いこと使ってなかったから、すっかり忘れてた……。
なんだよ、結局あそこまで行かなくちゃなんねぇのか……。
俺はやれやれと思いながら、キャラバンの横を通って右手の回収に向かう。
……その途中、ふと目に入ったんだ。
木の檻に入れられた、女の子たちの姿が……!
――――――――――――――――――――
●レベルアップしたスキル
武装
Lv.00 ⇒ Lv.01 ロケットリム
Lv.00 ⇒ Lv.01 サンダーアーム
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