振られド変態

みなと

ド変態

「好きです、付き合ってください! そしてその透き通るような白さ、程よい肉付きの太ももで膝枕してください!」


あらかじめ決めていた告白の文言を述べ、綺麗に腰を折り手を差し出す。

告白の返事を待つのは何度経験しようが落ち着かないものだ。

今回はいい返事がもらえるといいけど。


「あなたのことは正直嫌いではありませんでした――」


よし、嫌いじゃないってことは意外と好印象なんじゃないか?

今回こそは付き合ってもらえる。


「――ですが、先ほどの告白を聞いてどうしようもない程の吐き気がしました。ごめんなさい」




 × × ×




「なんでだ! なんで誰も付き合ってくれないんだ!」


自分の願いを伝えつつ、相手を褒めることをしっかりとしているはずなのに。

これ以上何をすればいいんだよ……!


おっぱいの大きな人にはその胸を揉みしだかせてほしいと言い、黒タイツの人にはそのタイツを匂わせてほしいと伝えて、貧乳の人にはほんとに男と同じくらい絶壁なのか見せてほしいとお願いした。


なのにどれもダメだった。

どうしてだ。どうして誰も俺と付き合ってくれないんだ。

こんなにも精神誠意告白してるって言うのに。


「いきなり連れてきたと思ったらそんなことかよ」

「そんなことってなんだ。彼女とイチャイチャするくらいなら幼馴染を助けようと思えよ」

「最近付き合い悪かったのは、康輔が彼女いる奴は敵だ、とか言ってたからだろ」


俺の幼馴染でイケメンの大樹が、彼女ができて幼馴染との関わりが減ったのにそれをあたかも俺のせいだとと言ってくる。

だから彼女持ちは敵なんだよ。

彼女いるのがそんな素晴らしいのか。

彼女いなくたって一人の時間が楽しければいいんだよ。羨ましい。


「というかあの告白で付き合えると思ってたことが不思議だよ」

「どこがだ。なにも間違ってないだろ。相手に誠意を持って告白してるなら成功しない方がおかしい」

「え! あれで誠意あったのかよ」

「誠意しかない。褒めることしかしてないんだぞ」


全くこのバカは。

あれ以上の誠意の見せ方なんてあるわけないだろ。

告白されて付き合ったからわかんないんだろうな。

イケメンはそういう所がダメだ。


「……あれで褒められてると思う女子いないと思うけどな」


だが、それでもこいつに彼女がいるのは揺るぎない事実なので、この言葉が間違ってないように聞こえてしまう。

さっさと別れればいいのに、腹立つなぁ。


あれじゃ女子からしたらダメなのか。

あれだけ誠意を見せても褒められてると思えないってことは、もしかしてそういうことか。




 × × ×




「こんな朝早くからなんだよ」


隣で大樹が愚痴を漏らしているから説明することにする。


「お前がどうすればいいかアドバイスくれたから、成功するとこ見届けさせてやろうとしてるんだろ」


あれのおかげで俺はこの方法を思いついたんだからな。

流石は彼女持ち様、発想が童貞とは違いますね。


「つまりだ、お前の言いたいことは、昨今はSNSの発展により直接思いの丈をぶつけることが減っている。だから面と向かって告白されると、恥ずかしくてついつい断ってしまうってことだよな」


わかる、わかるなぁ。

言われてみれば本当にその通りなんだよ。

いきなり呼び出されて自分への思いの丈をぶつけられると、驚きがまず最初に来るとよく言われているが、そんなことはなかった。

照れだよ、照れだったんだよ。

まず最初に自分へこれだけの好意を持ってくれているという恥じらしいが来ていたんだ。


そう考えると、今までの振られ方も中々良いものに思えてくる。

恥ずかしくて自分の本音を伝えられなかったツンデレさん達だったってことだろ。

可愛すぎるだろ。

俺が好きになった人達みんな可愛いな。


「え、は、なんでそうなった」


まさか非リアにリア充の考えがわかると思ってなかったらしく、大樹が驚きの声を上げる。

ふっ、まぁそれも無理はない。非リアとリア充ではどうしようもない大きな壁があるからな。

だが! 俺は今日! リア充へと進化する!

そんな俺だからこそリア充のアドバイスを理解することができたわけだ。


「だから大樹のアドバイス通りこれを机に入れておけばいいってことだ」


俺は手に持ったピンクの便箋、つまり恋文を大樹を見せつける。

前時代的だと思われるようになってきた恋文が、SNSの発展により今こそ活躍の時というわけだ。


俺は大樹のリア充からの賞賛を聞かず、委員長の机に書いてきた恋文を入れる。

賞賛は今でなくとも彼女ができた後でゆっくり聞いてやる。


「ほら、はやく出るぞ。そろそろ委員長が来る」


大樹を連れベランダに出て、隠れて教室内を確認する。


「……なんでそんなこと知ってんだよ」

「当たり前のことを聞くな。好きな人の行動くらい知ってて当然だろ」


うわぁ、という顔をしてくるので俺はこいつ頭おかしいんじゃないかと思った。

まさかこいつ彼女のそんなことも知らないで付き合ってるのか?


「……それじゃあ机の中に入れたのも見つけてくれる確信があるってことか?」

「そりゃな。勤勉な委員長はいつもこの時間に来て、持ち帰っていた教材を机の中に入れる。だから当然気づくってわけだ」

「…………気持ち悪いな」


はぁ? どこがだよ! と文句を言いたくなったが、丁度よく委員長が来てしまった。

ここからはバレないように静かにしなければ。

一応大樹に喋ったら殺す、という目線を送っておく。


委員長は教室に着くと、さっそく持ち帰っていた教材を机の中に入れていく。

そのとき、机の中に入れておいた俺からの恋文に気づいてくれる。

そしてそれを開封していく。


面と向かって告白したときとは違ったドキドキ感だ。

なにより、今回こそは彼女ができるという確固たる自信が俺の心臓を早める。


落ち着け。冷静になれ。

こんな状態で返事を貰って大丈夫か?

彼氏になるんだから、しっかり落ち着いてかっこよくしておかないとな。


俺からの思いの丈がどんどんと読まれていく。

その度に心臓がうるさいくらいに音をたてながら脈打つ。


そんな時間を過ごしていると、とうとう読み終わったようだ。

さぁ、返事はなんだ。

当然オーケーだと言うことはわかっている。


返事について考えていると、委員長は立ち上がって恋文を持ったまま移動する。

向かう先は、俺の席!

来たぞ、今度こそいい返事だ。

わざわざ俺の席に移動したんだ。これは勝ち確だろ。


リア充のアドバイスは流石だな、と心の中で軽く大樹を賞賛していると、ビリビリといったおかしな音が聞こえてくる。

え、なにあれ。

なんで俺の席にピンク色の紙くずが散らばってんの?


「あーあ、やっぱり振られてんじゃん」


ぐっ。

なんでこいつ躊躇いなく人の傷抉れんの?

せっかく考えないようにしてたのに。


「ちなみにだけど、康輔あのラブレターになんて書いた?」

「そんなのどういうところが好きで、付き合ってどうしたいかってことだけだ」


なんでそんなこと聞いてくる。

これ以外のことを書くわけがないだろ。


「それだけ聞くと悪くないんだけどなぁ。もっと詳しく言ってみ」

「そりゃ委員長はあの綺麗に手入れされた黒髪が良さなんだから、その髪を触らせてほしい、付き合ったらクンカクンカして髪を食べてみたいってのを書けるだけ書いた」

「…………マジで気持ち悪いな。そりゃあんなことされて当たり前だ」


なんでだ。意味わからん。

理不尽に気持ち悪い言い過ぎだろ。


「お前、幼馴染のくせに高校入学から三十回振られた男を慰めようとは思わないのか! マジでイケメン最低だな!」

「……そんな振られてんのかよ」


この学校なんで可愛い子が多いからな。

誠心誠意告白をしまくった結果、こんなにも振られてしまった。

運命のイタズラってやつか。


「お前の変態性受け入れてくれる人が見つかるまで彼女なんてできないってことだよ」

「俺が変態なわけないだろ!」

「はいはい、そう思ってるうちは絶対彼女できないな」

「こうなりゃ男行くしかないか……!」

「…………それはマジで引くぞ。幼馴染やめるレベル。気持ち悪すぎ」

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