第5話 僕の事情(後)

 普通の人にとって、愛されることは安穏と愛されることだろう。

 相手からの愛情にゆったりとつかることが、愛されることだろう。

 だけど、僕の場合は違う。

 愛と殺意が混線しているこよりは、愛する人間を殺そうとする。

 こよりの両親や祖父母は、病院の判断でこよりと離れることになった。

 こよりは、両親や祖父母も殺そうとしたからだ。

 一方、僕は医者に相談した。

 こよりと一緒にいたい、と。

「なるほど、それは修羅の道だ」

 医者はそういった。

「やはり、難しいですか」

 僕はそう問いかけた。

「うん、そうだね。医者の意見としては、彼女は未来永劫織りの中に入れておくべきだと思っている。愛という概念と、殺意という概念。それが密接にマッチしている。彼女は、危険だ」

 僕は手をぎゅっと握る。

「だけど、君はそれを許さないんだろう?」

 医者はそれを見逃さなかった。

「……はい」

 すると、医者はけらけらと笑う。

「なら、やり切って見せろヒーロー。手助けは僕たちもしよう」

 こうして、僕は鍛えた。

 捕縛術を中心に、彼女が愛する人を殺そうとしたら抑えれるように鍛えた。

 僕は、こうして愛する人を制圧できるようになった。

 中学三年生の春から、僕も家族から離れてこよりと同棲を始めた。下手にこよりが僕の家族と同居すると、僕の家族が死ぬ。

「ごめんね……ごめんね……」

 手近にあった鉄パイプを振りかぶって、僕の頭を殴ろうとしたこよりはそういった。まぁ、僕が抑え込んでるんだけど。

「大丈夫だよ、こより。僕はいるから」

 こうして、僕はこよりと二人で生きるようになった。



          続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る