第4話 僕の事情(前)

 さて、ここから少し未練がましい僕の事情を聴いてもらいたいのだが、許してほしい。

 僕は向島こよりの幼馴染だ。

 僕が6月生まれでこよりが7月生まれ、一月違いで僕はこよりのお兄さんのように生きていた。幼稚園と小学校においては、こよりは僕の後ろをちょこちょこ歩いていた。

 こよりは女子にしても体格が小柄で、僕は男子にしても体格が大柄だった。身長差は、小学校六年生の時点で20センチくらいはあっただろう。

 こよりが前頭前野混乱症候群を発症したのは中学一年生。

 いきなり、僕に刃物を向けてきた。

 たまたま、おじいさんから教えてもらっていた柔道のおかげでこよりを押さえつけることができた。

「ごめんね、ごめんね」

 そんなことをこよりはずっと言っていた。

 あんまりにも様子がおかしかったので、押さえつけて、つたない腕でこよりをガムテープでがんじがらめにして、父親に相談した。

 父親は医師で、たまたまこの前頭前野混乱症候群のことを知っていて、こよりがこの病気だと判明した。

 愛という感情と殺意という感情が混乱している。

 だから、愛している僕を殺そうとする。

 それを知った時、僕はこよりを生涯守ろうと思ったのだ。



          続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る