ドリカム

CKレコード

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ケンジ・EYE:


昼メシに・・・と男2人で入ったソバ屋で、彼女はたまたま合い席になった。

その淑やかなルックスを裏切る豪快な食べっぷりに、僕達がジロジロ見すぎたからだろうか?

彼女はものすごい轟音をたててソバをすすりながら、僕達のほうを見てニッコリと微笑んだ。

僕達はそのバツグンの笑顔につられて思わず微笑み返し、負けずにソバをすすりあげた。


隣でうどんを食っていたゴータは、大学時代からの親友。ラクロス同好会のチームメイト。

ゴータはナンバー1ポイント・ゲッターの超スター選手。僕は控えのゴールキーパーだった。

ルックス良し、センス良し、スポーツ万能・・・ゴータは僕に無いもの全てを持っていた。

出会った女子は全てゴータに惹かれる。いつものことさ。僕なんてとてもかないやしない。


彼女の名前はキョーコ。インテリア・デザイナーをしているという。かっこいいな。

ヴァン・モリソンとロバート・フランクとアメリカの影の話で意気投合し、その夜にバーで一杯引っ掛ける約束をして別れた。


この出会いをきっかけに、僕たち3人は週末ごとに連れだって遊びに出かけた。

僕は、キョーコに会いたいがために、かっこよくておもしろいゴータを利用して彼女を誘いだした。

僕は、いつも明るく優しいキョーコに、会うたびに心惹かれていった。


でも、僕なんて・・・きっと無理だ。届かぬ思いさ。


いいんだ、キョーコみたいなカッコいい女性と会って話しができるだけで、僕はそれだけでよかった。

だけど、どうやらゴータも彼女の事を気に入っているようで、いつも「ケン、ヌケガケは無しだぜ」と言っては、指で作ったピストルで僕を撃った。弾は僕の心を貫通し、心に開いた穴は夜毎ズキズキと痛んだ。


ある夜、キョーコに突然呼び出された。

キョーコはいつになく神妙な調子で、ゴータから旅行に誘われていると言った。そして、その大きな濡れた目で僕を見つめ、


「私、行くべきだと思う?」


と言った。


僕は・・・


僕は・・・何も言う事ができなかった。

その日はどうやって帰ったのか覚えていない。気がつくとベッドに寝ていた。

夢か!?

いや、残念ながら夢じゃない。キョーコは行ってしまった。

昨日着ていた皮ジャンはボロボロに破れ、玄関で脱げずに部屋で脱ぎ捨てたと思われるブーツはかたっぽしかなかった。

その瞬間!全力疾走するダスティ・ホフマンの姿が頭に浮かんできた。

けれど、ダスティの走りは急に失速して、すっころんでガケから落ちた。

僕は力なく立ち上がり、ガンガンに痛む頭痛をこらえながらブーツのかたっぽを探して近所をさまよい歩いた。

雨だった。皮のブーツに雨はよくねぇよな。




キョーコ・EYE:


2人と出会ったのは、ソバ屋さん。

合い席になった2人は、さっきからずっと「ソバ派」か「うどん派」かで争っている。

ソバ派の私は、ソバ派のカレを応援していたけれど、どうもさっきからソバ派の旗色が悪い。今にもうどん派に転向してしまいそうな勢いの無さ。

そんなやりとりがおかしくて、思わず笑ってしまった。

それがきっかけで私達は仲良くなった。

うどん派がゴータでソバ派がケンジ。

ゴータはルックス良しのイケメンで、いかにも女の子にモテそうなタイプ。

ケンジはちょっとヴァン・モリソン似だけど、優しくておだやかで、何より趣味がよかった。

私はそんなケンジに惹かれた。同じソバ派だしさ。


「ごめん、ゴータさ、後から来るからさ・・・」


週末に会う約束をしても、ケンジはいつもゴータを連れてきてしまう。

しかも、いつも1人だけ先に帰ってしまい私とゴータを2人きりにしたりする。

私はケンジとたくさん話して、ケンジの事をもっともっと知りたいってのに・・・。

私はつい、遊び慣れたゴータの作る心地よいペースにのせられてしまう。

ある日、ゴータから旅行に誘われた。


「ケンジは?」


「うーん、実はあいつには声かけてないんだ・・・」


「・・・そう」


私は思い切ってケンジを呼び出した。


「私、いくべきだと思う?」


ケンジは、何も答えなかった。


その夜、大好きなヴァン・モリソンのキャラバンを繰り返し聴いて、少しだけ泣いて、

次の朝、ゴータの待つ駅へと向かった。

空は曇りだった。なぜか路上にブーツがかたっぽだけ落ちていた。

まるで"寂しげなサイン"のようなそのブーツを、

見なかったことにして駅へと急いだ。




ゴータ・EYE:


うどん屋で偶然出会ったキョーコ。

俺がじっと見つめていたせいか、こっちをみてニッコリと笑った!

話してみると、とってもいい子だ!

やっと出会えた運命の女性!

今度こそきっといい恋愛ができる。ケンジも応援してくれてる!

思い切ってキョーコを旅行に誘った。OKだった!

道路にかたっぽだけ落ちてたブーツを思いっきり蹴っ飛ばした。

ちょっと曇ってるけど、なーに今日は絶対に晴れるさ♪

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