第133話 やましいことはしていません

「いやあ今日は結構儲かったな」

「……そうね。まさかここまでとは私も正直思っていなかったわ」

「トキヒサ。物持ち」


 ヒースの一件の後、俺達は昨日と同じく町中に繰り出して、不要になった品を買い取るという事をやっていた。


 今回も収穫は上々。全員とはいかないが、ほとんどの人が半額の値段に満足してくれたようで助かった。満足しなかった人も少し色を付けたら売ってくれたしな。これからも最初は半分の額で良さそうだ。


「今日は純益で四千七十デンの儲け。元手ほぼ無しでこれだから笑いが止まらないなこりゃ」


 元手と言ったら自分で歩き回る労力くらいのもの。それでこれなら相当割の良い仕事だ。買取のついでに市場巡りをすることも出来るし、まだ見つかってはいないがお宝探しも継続中だ。趣味と実益を兼ねた実に良い仕事だな。うん。


 懐も温まり、意気揚々と俺達は都市長の屋敷への帰路についていた。雲羊には乗ってこなかったので、三人揃ってテクテクと歩く。


「ただ…………これで儲かっている俺が言うのもなんだけど、そんなに素材とかに分けるのは金や手間がかかるのかね? そこの所がどうもよく分からない」

「……そうかしら?」


 むしろ引き取ってもらうのに金を払う場合があるとか言われると、簡単に金に換えている身としてはピンと来ない。そんなことを言って悩んでいると、エプリが珍しく口をはさんできた。


「……例えば最初に串焼き屋から買い取ったもの。銅製のナイフや焦げ付いた金網なんてあったわよね。アレを加工するにはどうしたら良いと思う?」

「そうだなぁ。やはり単純に火で溶かすとか?」

「……そうね。間違ってはいないわ」


 エプリは静かにそう言って頷く。ただこの言い方は何かしら含みがありそうだな。間違ってはいないけど正しくもない的な。


「……でも素材ごとに加工に適した火力は違うし、下手に違う素材ごと入れたらどちらもダメになる可能性もある。なら入れる前に選り分ける必要があるけど、木材や鉄、銅、モンスターの一部といったように一つの物に使われている素材は様々。……細かく分けるだけで一苦労ね」

「それは……確かに手間暇かかるな」

「……それに、加工できるほどの火力が出せる炉は専門の鍛冶屋ぐらいにしかないし、それだけに使っていられるほど暇でもない。……さらに言えば、炉に火を焚き続けるのもタダではないもの。これだけ言えば納得できるかしら?」

「なるほど……納得した」


 これだけ言われれば大体分かる。これじゃあ逆に金を払って引き取ってもらうというのも道理だ。時間的コストも金銭的コストもメチャクチャかかる。


「じゃあ、何故やるヒトが、いるの?」


 今度はセプトも歩きながら質問する。こうして自分から普通に話しかけるようになったのはちょっと嬉しい。仲良くなったってことだからな。


 今の質問は……何でそんなコストがかかりそうなことを副業としてやる人が居るのかってことかな?


「……建前としては、誰もやらないのでは結局資源が減っていく一方だからといったところかしら。この辺りは多分私よりジューネの方が詳しいわね。……まあ本音としては、これで儲けられると判断したからでしょうね。……高位の火属性持ちか土属性持ちが居れば出費も抑えられるし、鍛冶屋だって仕事上多少手間でも素材を貯めておく必要があるだろうから。そういう伝手があれば割高でも買い取る場合はあるわ」


 ケースバイケースって奴かな。コストが抑えられるのなら、手間がかかってもやる人はいるってことか。建前の方も国の主導とかで本当にやっている可能性はあるからな。こういう流れが無くなると大局的に町全体が困るってことで。


「しかしそう考えると、俺の『万物換金』って資源回収に間してはとても使える加護じゃないか? 手間暇要らず出費もかからず」

「……今頃気付いたの?」


 何故か呆れられた。いやまあ俺もこれほど資源回収に向いている加護とは知らなかった。ある意味天職かもしれないな。日銭を稼ぐだけならまず不自由しないぞ。


 ……このやり方だと課題を終えるまで何年かかるか分からないけど。


「これで出発の日まで稼いでいけば、多少だけど元手が出来る。生活費が貯まって余裕が出来たらエプリにしっかり払うからな。それとセプトにも」


 何だかんだエプリの護衛代が溜まっているからな。それはしっかり払わないといけないし、セプトもいつまでも俺の奴隷という訳にもいかない。


 能力はともかくまだ子供だしな。いざとなったら最低限何とかなるくらいの貯蓄をさせる必要がある。……少なくとも俺が課題を終えて帰る一年以内に。そう言って笑いかけたのだが、


「……前にも言ったけど、本当に懐に余裕が出来たらね。この調子だと自分の分が無くなっていざと言う時に困りそうだから。……そうなると守る手間が余計にかかりそうだし」

「私も、今はいい。お金は、大事。トキヒサが、持ってて」


 なんか二人して逆に心配されたっ!? 俺ってそこまで散財しそうに見えるかな? 自分だとそんな自覚ないんだけど。むしろ“相棒”の方が必要とあれば金に糸目をつけないタイプで、俺がよく止めてたんだけどな。


 そんな風にワイワイと話しながら、俺達は都市長さんの屋敷に戻ったのだった。





 コンコン。コンコン。


「トキヒサ様。エプリ様。セプト様。よろしいでしょうか?」

「別に様なんてつけなくても良いですよ。どうしましたドロイさん?」


 都市長さんの屋敷に戻ってみると、アシュさんとジューネは出かけているようだった。俺達が出る時にはまだ屋敷に居たのだけど、向こうも向こうでやることがあったらしい。行く前に頼んでおいた件は上手くいってると良いんだけど。


 夕食までまだ時間があるので部屋に戻っていたら、突如ドアをノックする音と共に執事のドロイさんが訪ねてきた。


 四十くらいの穏やかな顔立ちで、いつもフードを被りっぱなしのエプリや表情が分かりにくいセプト相手でも、いつも丁寧に接してくれる人だ。


「はい。実はトキヒサ様方がお戻りになる前、一度ジューネ様方がお戻りになられまして。またすぐに出るけれど、もし自分達より先にトキヒサ様方が戻られたら言伝を頼みたいと。『こちらは順調。例の品も鑑定が終わったので、戻り次第細かな報告をします』とのことです」

「なるほど。……ありがとうございますわざわざ。助かりました」

「いえいえ。夕食まではまだもう少々お時間を頂きます。それまでどうぞおくつろぎください」


 ドロイさんは恭しく一礼すると、そのまま部屋を後にする。執事の仕事で忙しいだろうに余計な仕事を増やしてしまった。悪いことしたかな。

 

 しかし、ジューネが一度戻ってまで言伝を頼むとなると……予想以上にアレは凄いものだったのかな? 預かりものだとは言え何もしない訳にもいかないしな。


「…………ねぇ。今のって、今日出かける前にジューネと話していたものよね? わざわざ私やセプトまで遠ざけて、しばらく部屋に籠って話し込んでいたわね。……

「うん。私達を置いて、


 むぅ。やけに二人っきりでの所を強調するな。二人共微妙に目つきがジト~っとしてるし。なんだか分からないが視線と口調に若干のトゲがある。俺はやましいことなんかしていないぞ。


「だ、だから、ここを出る時にも言っただろ。ちょっと持っているもので気になる物が有って、ジューネに頼んで調べてもらっただけだって。俺が行ければ良いけど鑑定士の伝手なんてないし、じゃあ私が持っていくので俺は資源回収に行ってきてくださいってジューネが」


 出かける前にも一悶着あったっていうのにまた再発したっ! 何故俺がこんな浮気を問い詰められるみたいな状況に追い込まれなくてはならないのか? ただ普通に調べ物を頼んだだけなのに理不尽だっ!


 そうして俺はジューネ達が戻るまで、何故自分達を同席させなかったのかとか、結局何を隠しているのかとか諸々弁解する羽目になったのだった。

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