第129話 金で繋がった関係

 串焼き屋のおっちゃんに諸々のお代を払うと、おっちゃんはホクホクした顔で受け取った。


 そりゃあ不用品の買取だけでなく、結局合計二十本も串焼きが売れたのならかなりの儲けだろう。……串焼きが美味いのと、エプリが一人で五本も食うのが悪いんだ。

 

 おっちゃんは他の客にも話しておいてくれると言ってくれたので、また明日にでもまた顔を出そうか。受け取った荷物は別れた後にこっそり換金する。


 さて。こうして一人目が終わったところ、串焼き代や買取代を差っ引いた純益はおよそ三百デン。元手無しでいきなり約三千円儲かったと思えば悪くはないのか。


「トキヒサ。これから、物持ちになるの?」


 次に話しておいた人の所へ向かう途中、セプトがふとそんなことを口にした。


「物持ちって言うか……俺名義で預かっているものが増えるだけって感じだけどな。持ってても金が無いと引き出せないし」

「でも、お金があれば、引き出せる。すごい」


 そりゃあまあそういう能力だからな。素直にすごいと言ってくれるセプトにこそばゆいものを感じるが、貰った加護のおかげなので喜びづらかったりする。同じ加護が有ったら大抵の奴が出来ることだし。


「……ねぇ。一つ気になったのだけど、金に換えた物は一体どうなっているの?」

「ああ。これは前にも言ったけど、全部アンリエッタの所に送られるんだ。時間経過やなんかで劣化しないよう見てくれているらしい。まあ個人的に欲しい物の品定めも兼ねているようだけどな」

「……以前一度見た彼女ね。そう言えばその査定の額も決められているのだったわね。……つまりあんなものでも何か使い道があるという事か。でも大量に物を送り続けて気分を害するという事は無いかしら?」


 そう言えばそうだ。元手無しに金が入ったので浮かれていたが、もしこれからもこういうのを換金し続けていたら、アンリエッタが気分を悪くするというのは充分考えられることだ。エプリの言葉に少し考えさせられる。


「一応こういう事をするっていうのは事前に説明しておいたから大丈夫だとは思うけど、あとで連絡を取る時が少し怖くなってきたな。『よくもワタシのところにこんな物ばかり送り付けてくれたわね』とか怒り出しそうだ」


 これは本当に品物の中にアンリエッタの気に入る物が入っていないとマズいかもしれん。どうか掘り出し物の一つでも出てくれよ。





『…………で? 結局ワタシの所にはそういった掘り出し物は一切来ていない訳なのだけど……何か申し開きはあるかしら? ワタシの手駒』

「いやあ元から望み薄ではあったけど……やっぱ無理だった」


 その夜、いつもの通り定期報告である。予想通りと言うか、大量に物を送り付けたことでアンリエッタは出だしからご立腹だ。


「しかしまあ話を聞いてくれ。なんと今日一日で純益が二千四十デンにもなったんだ。日本円に直すと二万四百円だぞ。一日の稼ぎにしては中々のもんだろ」

『それは……まあ否定しないけどね』


 あのあと俺達はいくつかの場所を回って不要な物を買い取っていった。


 驚いたことに、物を処分できずに困っている人はそれなりに居て、おっちゃんと同じく半分ほどの額を提示しても皆喜んで売ってくれたのだ。おまけに他の人も話しておいてくれるというのでまだ稼げそうだ。


「安全だし、今日は初日ってことで早めに切り上げて戻ったけどこの稼ぎ。移動時間や交渉時間を考えても実質三、四時間でこれだけいけたんだ。もうしばらくは稼げると踏んでいるけれど……どうだ?」


 ちなみにこういう商売で問題になるのは商売敵。つまり同じような商売をしている人とぶつからないかという事なのだが、その点はジューネ達に別行動をして調べてもらった。


 以前キリに貰ったこの町の店や商人などの情報と照らし合わせたところ、いるにはいるのだが大半が副業程度に行っているものばかり。あまり長期的かつ大々的にやらなければ目を付けられることもないだろうとのことだ。


『ずっとこれだけで稼ぎ続けることは出来ないのは分かってるみたいね。まあここに滞在する間くらいなら問題ないでしょう。だけど』

「だけど金を稼いで貯めることは大前提。肝心なのはその内容……だろ? 分かってるって。だからこの稼ぎだけじゃなく、都市長さんに今日アルミニウムの売り込みをしたじゃないか」


 結局今日もドレファス都市長が返ってきたのは夕食後のことだった。都市長さんが食事を食べ終わるのを見計らい、ジューネ達を伴って早速売り込みを開始したのだ。


「長く激しい戦いだった。都市長さんも疲れていただろうに真剣に話を聞いてくれてな。まあ話の流れ上加護の実演をしてみせることになったけど」

 

 やはりこの『万物換金』の加護は都市長さんから見ても珍しい物らしい。アルミニウムとは別に何やら大分驚かれた。


「結局のところ、都市長さんの協力により、アルミニウムの出どころをダンジョン産として売り出すという事はなんとか出来そうだ。いくつかの条件付きではあるけどな」

『まず都市長の選んだ職人にアルミニウムについて調べさせること。それで特性などをはっきりさせたうえで、危険性が無いと判断すれば許可する……だったかしらね』

「その後も取引の際の優先権やら色々あった。そこはジューネやアシュさんにフォローしてもらって、何とか交渉らしきものにまとめ上げた。俺一人だったら確実に良いように使われてたな」


 流石は都市長さんと言うべきか。交渉事でもビシバシ突っ込んでくるもんだから気が抜けない。逆に言えばこれくらい出来ないと都市長として働くなんてことは出来ないのかもしれないが。


『今回はアナタの手腕が悪いというよりも、相手の方が一枚も二枚も上手だったと褒めるべきね。ジューネもなかなかのものだったけど、都市長は更に上を行ったわ。あれは才能もあるけれど、踏んだ場数の差が圧倒的に違うという所ね』


 あのアンリエッタが珍しく普通に褒めている。言うまでもないことだけど、それだけ都市長さんが凄いってことか。


「サンプルとして現物をいくつか渡したから、数日後にはひとまずの結果が出るらしい。それによって値段交渉にも相当影響が出るだろうからな。上手い方に転がってくれると嬉しいんだけど」

『上手く転がりすぎても困るんだけどね。今回の一件で確実に都市長に目を付けられてるわよ。向こうが友好的に接していることだけが救いね」

「目を付けられてるって……まだこの時点ではなんか不思議な加護だなくらいしか考えていないと思うぞ。それかアルミニウムがもし良い物だったら手を付けておくくらいじゃないか?」

『だと良いけどね。まあここの都市長は中々に悪くない人材だから、せいぜい仲良くしておきなさいな。ワタシの手駒』

「そうさせてもらうよ」


 その言葉を最後に通信が切れる。もう一回分通話できるが……すぐにはしないでも良いか。こちらが話すことをまとめてからだ。


「…………向こうもおおよそ知っているでしょうに、何故わざわざトキヒサに聞いていくのかしら?」

「前にもそう聞いたんだけど、俺の主観も込みで聞きたいんだとさ」


 相変わらず俺の会話で目が覚めてしまったのだろう。ソファーにもたれて眠ったままの体勢で薄目を開け、エプリがそうポツリと口にする。というかむしろ毎回起きているんじゃないだろうな? セプトなんかぐっすり眠っているのに。


 起こしてしまうのも悪いのでアンリエッタに説明して時間を変えようかと言ったのだが、エプリは別にいつもの時間で良いと譲らない。この場合は譲り続けていると言うべきか? 


「そうだ! 忘れるところだった」


 俺は貯金箱を呼び出すと、中から銀貨十枚を取り出してエプリに差し出す。エプリはそれを見て少し困惑しているようだった。


「…………これは?」

「これまでの依頼料だ。今日はちゃんと金が入ったしな。溜まっている分全部は無理だけど、少しずつでも払っていこうと思って」


 一日ごとにドンドン溜まっていくからな。払えるうちに払っておかないと、そのうち借金で首が回らなくなりそうだ。エプリは銀貨を静かに受け取ると、そのまま服の中に仕舞いこむ。


「……確かに受け取ったわ。だけど、次からはもう少し懐に余裕が出来てからにした方が良いわよ。……いざと言う時に金が無いとマズいでしょう? 能力的にもこれから稼ぐにも」

「まあな。だけど、いつまでも払いを待ってもらってばかりというのも悪いからな。支払う意思はあるってとこをしっかり見せておこうと思って。それに……そのいざと言う時にこそエプリがいてくれたら助かるしな」

「………………受け取った分の仕事はするわ」


 そう言ってエプリは再び目を閉じる。……相変わらず寝つきがものすごく良いな。十秒もしないうちに寝息を立て始めたぞ。


 金で繋がった関係。俺とエプリを一言で言い表すとそれだろうな。だけど、字面こそ悪いけど中身はそう悪いもんじゃないと思う。


 どんなものであったとしても、繋がりは繋がりだからな。まあこんなことが言えるのはエプリの気質によるものも大きかったりするけど。


「……さあてと。今度はアンリエッタに明日の予定でも説明しようかね」


 明日は資源回収とは別に、ヒースとアシュさんの鍛錬に協力するって約束があるからな。早いところ報告を終わらせて寝るとするか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る