第9話 炎と氷2

「なぁ、さっきの話、なんの事だ?」


「ん?メロくん達と話してた事?」


一同が帰ったリビングで、俺はソファで仕事。明日夢は俺の隣でハーブティーをお供に、お気に入りの動画を飽きる事なく鑑賞中だ。

たまに笑いながら俺の腕に抱きついてきたりするから堪らないのだが。


「なぁ、そろそろ教えてくれてもいいだろ?この東京で何が起こってるんだ?お前達は何者なんだ?」


「んー。どっから説明したものやら。今、東京23区内に怪物が出て人が襲われているって話は知ってるよね?」


明日夢は動画から目を離し、ソファの上であぐらをかいて考え込むそぶりだ。


「そりゃな。連日TVでもネットでもニュースになってるから。最近、また増えたらしいな。つか、巻き込まれた当事者だし。」


「そだね。僕らはそれらを魔界に追い返す為に精霊から力をさずかっているんだ。最初は精魔獣せいまじゅうと呼んでいる低級の魔物ばかりだったんだけど、段々様子が変わってきて。」


「この前のサンシャインシティが営業停止に追い込まれたのもそれか。警備をしていた警官は失神してるわ、屋上に穴は開いてるわ、館内のガラスはめちゃくちゃだわ…って、な?」


少しわざとらしく言ったつもりだが、明日夢はケロッとしている。


「基本的に普通の人間には姿が見えないから、何が起こったかわからず、余計に恐怖心を煽る。それも狙いなのかも。」


「あの蝙蝠とか、おっさんもか。俺には見えたけど。」


「僕らを含めて見えないはずの存在が、まれに見えてしまう人間がいるんだよ。波長が合っちゃうんだね。」


明日夢はハーブティーを一口のんで、ドサッとソファに体を預けた。


「彼らは、魔界の生物が精霊界を通って人間界にやってきた姿なんだ。魔物の力に精霊の力を吸収して変化してる。

本来は聖樹が侵入を防いでいるはずなんだけど、空間が歪んでしまったんだって。」


「聖樹って、この前のやつだよな?」


「そう、元からこの人間界と精霊界、そして魔界はちょっとづつ重なりあっているんだ。一部を共有しているというか…昔から妖怪が出るとか悪魔に取り憑かれたとかって話、あれは重なりあった部分から出現したんだね。」


「エク〇シストとか、鬼〇郎ってやつだな。そいつらがなんでまた急に人間界こっちにぞろぞろ出てくるんだ?」


「例えると、同じマンションに住んでるんだけど、それぞれの階にはそれぞれに住んでる人しか降りられな仕様になっている。その場合でも共有スペースはある。玄関とか。

それが誰でも好きな階に行けるようになっちゃったって感じかな?」


「わかったようなわからんような。んで、明日夢達は精霊界から来たのか?」


「僕らは…人造人間…的な?」


「お前何号だよ?」


「何号?どゆこと?」


「何って…知らないのか?つっかもぉぜっ!ド○ゴンボール!ってな。お前いくつだ?」


「僕?いくつに見える?」


急に猫撫で声になり、俺の膝にゴロンと寝転がる。やめろよ、硬くなるじゃねーか。


「つか、何でそのマンションは他の階に行き来できるようになったんだ?」


明日夢は少し硬くなった俺の股間に顔を埋めて匂いを嗅いでいる。だからダメだってば。


あっ…そうか!


「破滅の夜明け…か?アレはなんだったんだ?」


深夜、東京全体に光が差したと思ったら、地震の様な揺れが一回。停電などがあったが、すぐに復旧した。アレ以来だ。都内に化け物が出るようになったのは。


むっくり起き上がった明日夢の顔は、はっきりと曇っていた。何か言えない事があるのか?

それとも俺のアソコが臭かったのか?


「んー。僕もよくわからないんだ。ただ言えるのは、あの日に起こった事がきっかけでそれぞれの世界のバランスが崩れてしまったってこと。」


「そっか。まぁ、世の中には不思議な事はあるもんだしな。明日夢達が水だけで生きていけるのも人造人間ってやつだからか。」


「うん、ごめんね。ご飯とか一緒に食べれなくて。」


明日夢は心底残念そうに肩を落として、膝を抱えた。俺はそんな姿がたまらなくなる。

色んな事がありすぎて、明日夢が普通の人間じゃないってわかっても戸惑いがない。感覚が麻痺してんのかな?


「いいよ、んなこと。」


思わず明日夢を抱きしめた。





練馬区の奥、板橋区との境に位置する光が丘公園では、呪文の応酬おうしゅうが続いていた。木々の間に火の柱が立ち、黒い雪の結晶が吹き付ける。


「いー加減にしろよ!しつけーんだよ!さっさと凍っちまいな!」


「黙れ!このフレアカイザーでその首落として灰にしてやる!」


狼男こと、精魔人エンドルケンの大きな顎が吠える。


「俺様の力は心をも凍らせる非情の冷気!

ダラマン デルベル・バース

闇に打ち震える魂よ その絶望を吐き出せ!


凍叫吹雪ヴァレ・ミスト!」


高まる魔力と共に赤い鎧が輝きを増し、ディルフレンが対抗呪文を唱える。


「我が力は邪悪をほおむ魔滅まめつの炎!


リザベル ク イーダ 


舞え! 炎の輪舞曲ロンド


炎輪撃破アレクセイ!」



猛烈もうれつな勢いで黒い吹雪が広場に吹き荒れる。その吹雪を包むように炎の輪がひと回りふた回りと大きくなっていき、吹雪を飲み込みむと、力が拮抗して空中で爆発した。


余波をけるためディルフレンが後方に飛び体制を立て直そとしたが、片足が何かに引っかかった。


「くっ!」


右足が黒い凍りに包まれ地面に張り付いていた。

咄嗟とっさ死神鎌フレアカイザーを目の前に構え、余波よはを受け止める。


衝撃が収まる瞬間を見計らいすぐさま足元の氷を砕くと、飛び退いて一回転、再びモニュメントの上に仁王におう立ちになった。


「フン!この程度で俺の熱いハートは凍らないぞ!」


エンドルケンも少し距離を取り、息を整える。精魔人とはいえ、人間界このよに存在するために人間に似せたからだをベースにしているのだ。


「口だけは一丁前だな!子供ガキのようななりで!」


「なんだとっ?」


「知ってるぞ!魔法戦士の中で一番背が低いんだってな!」


狼男ワーウルフは大きな口をガバッと開いて、からかった。笑ったつもりなのだろうが、凶悪な牙と真っ赤な口の中が露呈ろていして恐ろしさ極まりない。


「んっだとぉぉぉぉぉ!誰に聞いた!」


我を忘れて飛びかかる!

フレアカイザーの一撃を5本の太く長い爪が受け止めると、衝撃が火と氷の形で弾けて蒸発しては消えていく。


「やっぱりそうか。人間界ではチビって言うんだってなー。」


「人が気にしてる事をぉ!よくもっ!」


激しい金属音を闇夜に響かせながら、せめぎ合いが続く。木々に紛れ、空に飛びながら牽制けんせいし合い、芝生の広場へと移動する。


「フン!所詮しょせん人間上がりだな!弱い!弱過ぎる!」


「何だとっ!」


再び広いスペースに降り立ち、距離を保って相対あいたいする。


「さっきの俺の呪文が効いてきたのさ…。ほれ、お前の心が寒がってるぞ!」


「なっ…!えっ?何で?」


鋭い爪で指を差された瞬間、ディルフレンの全身が光り変身が解けてしまった。

キャラモノの半袖シャツに短パン、夏休みの少年の様な姿だ。


「そんな…何で…?」


炎を操る戦士ディルフレンから、まるで中学生の様な羽生はにゅうれんに戻ってしまった。

ガクンと膝をつく。変身が解けたどころか、心の中にいつもの闘争心がわかない。


「言っただろう。俺の魔法は心も凍らせるとな。お前に魔力を与えている炎の精霊はお前のその血気盛んな心に引かれているのだ。それがなくなれば、ただのチビではないかっ!」


高らかに嘲笑され、ただただ呆然になる…


俺は…俺はもう何もできない俺ではなかったハズなのに…


体に力がはいらなくなり、頭を落としてうなだれる。


スキだらけだ。


「さぁ、コレで終わりだ!大人しくあの世に行け!」


エンドルケンは一気に跳び上がると、両手の爪を鳴らしながら煉に襲いかかった!

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