丸刈りをお手本に?
放課後ラウムと一緒に学校近くの公園へやってきた。ここは大きな遊具があるほど広い公園だけど、この近所の人たちはみんな僕の学校の生徒だから学校の校庭で遊ぶので使う人があまりいない。
どんなYoutuberも動画が完成するまでの舞台裏は最後まで見せないから、飛行訓練には好都合だ。
「さあ飛んでみて」
「オッケイ」
この前ラウムが見せてくれた動きを思い出しながら翼を動かす。
バサバサ。バサバサ。
背中の翼を素早く動くと体がふわりと浮かぶ。もっと早く動かせばもっと上へ飛べるはずと、翼をもっと早く動かす。ふわっと地面から前進しながら足が離れて離陸を始める。
よしっ、このままいけば。
喜んだのもつかの間、浮いた瞬間体が右に傾いてしまいぐらりとそのまま背中を向いて地面に着地してしまった。
「ちょっとは飛べたかな」
「飛べたのはいいけど、左右の翼が振り下ろすタイミングがずれているよ。ほらアクフォを見て」
顔を乗り出して画面をのぞくと、僕が飛ぶ動画が映っていた。いつの間にかラウムは僕が飛ぶのを撮影していたようだ。画面の中の僕が地面から離れようとする瞬間画面がゆっくりになる。ラウムが「翼のところをよく見て」と指をさすと右の翼が左と比べて早く振りすぎていて、体が右に傾いていた。
「ちゃんと同じタイミングで翼の動きを合わせないと飛ぶことなんてできないよ。左右の翼の動きで方向も変わるんだからそこをしっかりしないと」
「難しいな」
「難しいじゃないの。やらなきゃいけないの」
優しい言葉をかけることもなく、ラウムに背中を押される。僕だって一生懸命やっているのにがんばれとか大丈夫の一言でもかけてくれてもいいのに。
もう一度翼を広げてバサバサと大きく羽ばたく。今度はバランスよく早く動かして。けどバランスよくバランスよくと考えていると両翼の動きが遅くなり、強い風が起こるだけでぜんぜん体が宙に浮かない。
これじゃあ飛ばない。そうだ! 飛行機のように助走をつければ浮力で少しでも浮かぶんじゃないか。思ったら実行、翼を動かしながら地面を
翼の羽ばたきで顔のあたりから風が流れてくるのを受け止めながら走る。徐々に背中が浮遊していくような感覚が起こり、あとちょっとだと期待感がわいてくる。
けど、だんだんと太ももの後ろや背中が石でも積まれたかのように重くのしかかり足も翼も動かなくなってしまった。
ぜーぜーとひざに手をつきながら肺の中の空気を入れ替えていると、ラウムがあきれた顔で近づいてくる。
「カナタあんたアホウドリになりたいの? そんな飛行機みたいに頭を屈める飛び立ち方、疲れるだけだしアホウドリぐらいしか飛べないよ」
「鳥が飛ぶのと飛行機とでは違うの? 昔の人は鳥を観察して飛行機を作ったのに?」
「航空力学っていうのは、しょせん人の作ったでかい鉄の塊がどうやって飛ばせるかを考えたもの。飛行機には飛行機の、鳥には鳥の飛び方があるの」
くるりとラウムが背中を向けてコウモリのような黒い翼を広げると、翼の端と根元を指さした。
「いい。鳥の翼にはみんな
なるほど、翼と一緒に助走したからあんなに疲れてしまったのか。そうなるとアホウドリってものすごい体力持ちなんだな。
すると僕がラウムにお願いした翼の形状を思い返した。
「大きさは鷹ぐらいに」
振り返って自分の翼を見る。鷹のように両手を広げたよりも大きな翼。あれ、僕の翼、羽ばたくのに一番体力使う大きさじゃないか!
「ラウム、僕の翼って変更できるかな」
「受け付けないよ。契約した内容は変えられないもの」
「じゃあどうすれば」
「だったら体力をつけて慣れるしかない。そして私の動きをよく見る。それにその大きさでないと高いところになんて飛べないんだから。ほらまた変身するからよく見てなさい」
ポンっとまたラウムがカラスの姿に変化し、大きく翼を広げる。ラウムは僕の時と違いその場で止まったまま、すばやく翼を動かして飛び立った。
そのままぐるりと公園を一周して飛んでいくラウムの動きをよく見てみると、翼の動きやタイミングが同じ……ような気がする。いや、動いているのはわかるけど参考にならない。
ラウムの動きが違うとかじゃなく飛ぶ動きが完成されていて、飛び立つことすらできてない僕と比較が難しすぎるからさっぱりなんだ。でもそれを言ってもどうしようもない。僕のように背中に翼をもっている人なんていないのだから。
ラウムが地上に降り立つとまた飛び立つようで、もっと目を凝らしてじっとラウムの翼の動きを見ようとする。すると一羽の小さなカラスがどこからともなくやってきた。
あれ、あれって丸刈り?
バサバサと危なげにバランスを崩しながら丸刈りが公園に着陸して、ぴょんぴょんとまるで親子のようにラウムの後ろに寄り添い同じ動きをマネしていた。そして丸刈りの存在に気付いたラウムは変身を解いた。
「クァ」
「なにこのちびガラス」
「丸刈りだよ。こいつよく僕の周りについてくるんだ」
ぴょこんと丸刈りが僕の方に飛ぼうとバサバサと翼を動かすが、短い距離しか飛べず僕がいる位置からまだ二メートルもずれがあった。相変わらず上手く飛べてないなこいつ。それにこいつの翼の動き、さっきの僕みたいに左右のバランスがバラバラだからちゃんと飛べてないんだ。
「カナタこの丸刈りちゃんのまねをしてごらんよ」
「え!? 丸刈りのまねを」
「そう。どうせなら完成されている私よりも、似たように上手く飛べない鳥同士どこができないか補完すれば上達するのが早くなるはず」
腕を組んでこれは名案とラウムは意気込んでいる。
正直カラスの動きを参考にするだなんてごめんこうむりたい。でかくて怖くしてしつこい。それも丸刈りとだなんて、もし怒らせでもしたら親ガラスを呼んで何をされるかわかったもんじゃない。
「丸刈りちゃんは『カナタと一緒に練習するのなら大歓迎だってさ』」
「大歓迎って、そいつの言葉わかるの? というか見えているの?」
「動物には悪魔の姿が見えるんだ。それに悪魔は動物の声だってわかる。私はカラスの悪魔だから、鳥の言葉もお手の物だもの」
「僕は鳥の声なんか聞こえないけど」
「契約範囲外だからね。でもカラスの言葉なんか聞いても大していいことないわ。カラスなんてだいたいエサ場のzゴミ捨て場の場所とかよく眠れる木の場所とか中身のないことばかりだから別にどうでも……痛い痛い! えっ馬鹿にするなって! そんなに突かなくても。いたたっ!」
丸刈りがホバリングしながら、コツコツとラウムの頭を赤っぽいくちばしでつっついた。やはり小さくてもカラスはカラスで、しつこくラウムの頭を追いかけた。大丈夫かなと思っていると、ぐぇぐぇぐぇと気味の悪い笑い声が後ろから聞こえてきた。
「またラウムは高飛び希望者と契約か。微妙な悪魔は微妙な願いをする人間に
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