第16話 初戦闘【2】
『……! ……貴方が……。……ご心配なく……五号機は装甲硬度と耐熱性はシリーズ中最強です。ザードさんの計算上では問題ないと思われる、だそうです」
「そ、っ……だからってそんな事……あんな子どもにやらせるのかよ……!」
まだ十五歳の子どもに。
クジラのような戦艦の腹の中に入って自爆しろなんてあんまりではないか。
「落ち着いてよ、自爆は誤解だよ?」
「そうよ、殿下。五号機は超重火器型の機体なの。バズーカとか大砲とかあちこち仕込んでる冗談みたいな奴なんだから」
「……私もあの機体ならば無事にその任を実行出来ると思います。データでしか見てはいませんが、あの機体は一度一つのステーションを内部から破壊して無事だったと言いますから……」
「……え……」
自爆ではない?
振り返ると全員が神妙な面持ち。
「…………あなたはGFがどんな兵器か、まだよく知らないんだね……」
「え、そ、それは……だって……でも……」
「……『凄惨の一時間』の映像は見ただろう? 近接戦闘型な『インクリミネイト』ですら、あの所業を一時間で成すのだよ? 重火器型の『ブレイク・ゼロ』ならばもっと容易いさ。……あの『凄惨の一時間』が『ブレイク・ゼロ』だったら『凄惨の十分間』になってただろうし、死者行方不明は街の人口八割に上っていただろう」
「そ、そんなに!?」
「ええ。……事実、ステーションの破壊は宇宙空間だった事もあり生存者は十人にも満たなかった。五号機は運動能力や速さはシリーズ中でも最も劣っていますが、火力はどの機体よりも凄まじい。この『デュランダル』の主砲ですらも、あの機体の火力には及ばないのです。そんな火力を扱う機体が、軟弱な装甲であってはならないのでしょう。防御力もまたシリーズ中最高。特に五号機の持つ盾は戦艦の主砲などいくらでも防いでしまう。動く難攻不落の要塞と言ってもいい……」
想像以上にすごい機体のようだ。
そんな機体の、パイロット……。
あの無邪気で愛くるしいラウトが。
「……ザードが『ブレイク・ゼロ』なら大丈夫って言うのなら大丈夫なのかもね。……けれど、ボクはあんまり機体に傷が付くのはイヤだなぁ。それでなくとも物資不足なのに……誰が修理すると思ってるのー?」
『ですが他に方法はない。作戦開始は七分後です。それまでにどこか近くの部屋に入って下さいね』
「待って! ホントに他に方法ないの!?」
『! ……他に方法というと?』
キッ、と睨まれる。
やはり、ラミレスの知ってるマクナッドとは別人のようだ。
軍人なのだからラミレスの知るマクナッドと同じではいられないのだろう。
ラウトも。
戦争をしているのだ。
その渦中にいるのだ。
だから、仕方ないのだろうと。
けれど――それじゃあ何のためにラミレスはこの世界に呼ばれたのだ。
「俺が歌ってみても、同じ方法しかないの? ……って聞いてるんだけど」
『……え……、……で、ですが並行世界のラミレスさんが歌ってGFに影響があるかどうかはまだ分からないと……』
『へえ、なかなか面白い話になってるじゃねぇの』
マクナッドのウインドウの端に被さるかのように新しいウインドウが現れた。
こちらはザード。
体にぴったりタイプの宇宙服を着ている。
深海のような背景に、アベルトの言葉を思い出した。
GFのコクピット内は機体ごとに違う。
ザードの背景は深海のようだと。
つまり機体の中……。
『チビガキが膨れっ面だがな』
『俺と『ブレイク・ゼロ』だけで十分だ。デコ艦長の作戦で問題ない。あと、チビは余計だ。俺はガキじゃない!』
ザードのウインドウからラウトの声。
確かに不機嫌そう。
『でもラミレスさんの歌がラミレスさんの歌と同じようにGFに効果があるならギアを上げられるかもよ? 俺もラミレスさんの考えに賛成だな』
『喧しい』
アベルトの声も同様。
そして、一蹴されとる。
『大体歌の補助がなくともギアは上げられる』
『同調率が一番不安定な奴が大口叩いてんじゃねぇよ』
『時間が惜しい。マクナッド、並行世界のラミレスの提案を採用だ。いいな、ラウト・セレンテージ』
『……貴様の指図も命令も受けない』
ブチン、と何かが消え途切れる音。
もしやザードの機体と通信を切った?
(え……えええええ……? だ、誰にでもああなのあの子……?)
初対面で銃を突き付ける厳しい態度。
他の登録者たちにもつっけんどん。
ひたすらに困惑する。
ラミレスの知るラウトと、本当に別人過ぎるんですが。
「……えっと……」
『……シズフ・エフォロンだ。早速だが貴殿の提案を実行してもらいたい。艦橋のマクナッドと合流して、歌の援護を頼む』
「……は、はい……」
『……巻き込んですまないな。だが、助かる。マクナッド、彼のサポートはお前に任せるぞ』
ザードの顔の映るウインドウの横に、別な人物のウインドウが現れる。
白と赤の戦闘用宇宙服。
ヘルメットで顔はよく見えないが声も口調も大人の男の人だ。
二号機の登録者……は最年長とセーヤが言っていたので恐らくこの人が……。
『は、はぁ……分かりました……。相変わらず無茶苦茶な事ばかり言うんですから、貴方は……』
『お前を信頼してこそだ。あんな大型ガーディアンでは、どうせ俺は出番もないしな』
『それを言われると俺たちもですよ……』
『大人しく乾電池にでもなっていようぜ〜』
『なに言ってるんですか! シズフ隊長とザードさんは出撃して下さい!』
『うえ!? なんでだよ……!』
『狙撃型の『アヴァリス』は万が一の追撃阻止! シズフ隊長は『ブレイク・ゼロ』回収をお願いします。どちらにしろ、あの巨体は『ブレイク・ゼロ』の火力でなければ破壊出来ないでしょう。……そして、作戦は貴方方が艦橋に来るまでに新しく考えますので早く来て下さい!』
「わ、分かった! ありがとうマクナッド!」
とりあえず七分後のお腹の中から大爆発作戦は取り止めて頂けるようだ。
ギベインに「良かったね、お互いに」と微笑まれるが、そんなに修理が大変なんだろうか。
しかし、急ぐと言われても実際問題艦橋までどのくらいかかるのだろう。
小島くらいの巨大な戦艦は、それでなくとも迷路のようなのに。
「なんか浮いて移動してるだけなのに疲れてきた気がするよ〜……後どのくらい〜?」
「……ここは第八区域……。……艦橋は第一区域の一番上……。……多分あと五分くらいかかる……」
「遠いよ……」
「この辺りは非戦闘区域なんですって。動植物の育成で食料の生産区域なのよ」
「戦艦だよね!? そんな事してるの!?」
「まあ、三分の一はガチで島だからね……これ」
「やっぱり島なんだ!?」
「食料に関して自給自足が出来るようになっているんだよ。ザードが何考えてこう作ったのかは、ボクには分からないけれど……」
「そいつぁ、後で教えてやるよ。ほーれ、お喋りする暇があったら急いだ急いだ!」
「うわあ!?」
ひょいっといきなり現れた大男の肩へと担がれるラミレス。
無重力なのでラミレスの重さなどないに等しいのだろうが、それにしたって一応ラミレスは成人だ。
「ななな!?」
「サイファー殿……!?」
「おう、遅いから迎えにきたぜ。初めましてだな並行世界のラミレス。俺はサイファー・ロン・ガイラオ。『ジークフリード』の営業担当だ! がははははは! ……まあ、元々は傭兵なんだけどなー」
「やあ、サイファ。来てくれて助かったよ。道が分からなくなっていたからね」
「ええ!?」
「おいふざけんなよ、お前! 先陣切ってズカズカ進むから普通について行ってたんだぞ!?」
「近道が分からなかっただけでちゃんと中心には進んでたよ」
「ははは、お前さんも仲間になったのは最近だものな。仕方ないさ。だが、その分艦橋では活躍してくれよ〜?」
「ご希望には添えよう」
迷っていたのか。
ギベインの事もセーヤの事もひょいひょいっと肩に乗せる、サイファーという大男。
青い短髪と瞳、焼けた肌。
なんというか、サイファーというよりはサーファーのような風貌だ。
しかし元傭兵というたけあってかなりのガッチリ体型。
この中でも比較的高身長のカリーナよりも高い。
そして、移動もとても速い。
抱えられておいてなんだが、非常にサクサク進んでいく。
「あ、と、父さんたちが離れちゃうよ!?」
「大丈夫ですよ、ちゃんとついていきますので」
「うおう!?」
右へ左へ曲がりくねって、あわや離れ離れにと思ったら……父たちは足元からブースターのようなものを使って付いて来た。
「はは、心配ねーさ。スヴィーリオの旦那たちはカネス・ヴィナティキ最強のロイヤルナイトだからな……!」
「……とはいえ、この艦は道が組み変わりますからね……我々でも迷いかねません。貴方が迎えに来てくださって助かりました」
「ま、事態は刻一刻ヤバくなってるからな。今はデブリのゴミに隠れながら進んでいるが……このナリでもあのガーディアンに勘づかれるのは時間の問題だろう。デブリ帯をデカ口で腹にかっ込みながらだから、速度は遅いがな〜……」
「実際、残りの時間や距離はどのくらいなんだ?」
「あの速度だと約二十分後には接触するな。第三基地が喰われるのは十三分後の予想だ」
「武装は? 戦闘用ではないとはいえ、『α』軍のものなら護衛艦なども付いているのでは?」
「今のところ見当たらねーなぁ。……つってもガーディアンは基本輸送機だ。がぶがぶ食ってる腹の中に、戦闘機の十や二十抱え込んでても不思議はねぇなぁ」
「……ボクとアナタの機体はまだ使えないの……?」
「実践はまだ無理だ。今は根本的にエネルギーも足りねぇしな。ついでにフィールドスプライトシステムがまだ完成してねぇ」
「……そう、だよね……」
「前から思ってたけど、それどんなシステムなの? それが完成すれば『α』に対抗出来る巨兵器が使えるって言ってたわよね?」
「ん? ああ、悪いな。まだ社外秘だ」
「……この秘密主義企業……!」
「おやめなさい。お互い様なんですから」
入り組みまくった艦内を進む事、約五分。
大きなエレベーターホールに辿り着いた。
「はぁ、やっと知ってる場所に着いたわね……!」
「……つーか、そもそもなんでわざわざ最下層の植物園エリアから入って来たんだ? 居住区エリアの出入り口から入ってくればここまで時間食う事もなかっただろーに」
「え? そんなのあったっけ?」
「このヒューマノイドどものせいでな!」
「そ、そうか……まぁ、分かりやすい出入り口から入るともれなく迷宮エリアにご案内だからなぁ。ギベインはそれを覚えてて、分かりにくい植物園エリアの扉から入って来たんだろうさ」
「そ、そんな恐ろしいエリアが……」
十分迷子になった後なので素直にゾッとする。
この広さの、さらに迷宮。
出られる気がしない。
「うちみてぇな一団体がカネス・ヴィナティキみてぇな大国に狙われても無事でいるためには、ここまでする必要があったのさー」
はははー、と笑っているが、後ろのカネス・ヴィナティキのロイヤルナイトは笑っていない。
笑ってるというか、笑顔は笑顔だが目は笑ってない。
もしかして、うっすら思っていたけれど……。
(……いろんな国の人がいるから……意外とまとまって、ない?)
ラウトの態度や、ロイヤルナイトたちのギベインたちへの態度とか。
世界の危機なのにみんな仲良くしなくてどうするんだろう。
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