第14話 並行世界で新生活【3】
「……実際問題……男の歌い手は見た事が、ない……。同じラミレスとはいえ並行世界の『ラミレス』でも効果があるか……それも、試すのは急務……」
「そうだね、ご飯を食べたら早速試してみよう!」
「え!? 待って待って! まだ協力してもらえるか確認してないよ! 『歌い手』は前線の俺たちより遥かに狙われ易いんだよ!?」
「え、別にいいよ。俺に出来る協力はやるって言ったじゃん?」
「軽いですよ決めるのーー!?」
「でも確かに一週間で世界救って帰るのは難しそうだな〜。収穫祭には間に合わないね……あーあ、お祭り楽しみだったのになぁ」
「え え え え え ……」
食事を再開する。
確かにえらい危険なところに来てしまったし、えらいとんでもない事に巻き込まれてしまったもんだ。
しかも命懸けとは……。
だが、それでも。
「アベルトが最初に言ったんじゃん? この世界のために協力してって」
「そ、そうですけど……でも本当に危ないですよ! 命懸けですよ!?」
「まぁね。でもこの世界の女の子の『俺』がやってて男の俺が出来ないとは言えないよ。さすがにカッコ悪すぎる。……それに、守ってくれるって言ってる人たちもいるし」
腕を組んで眺めていたロイヤルナイトたち。
満足げに微笑むカリーナとシュナイダー、強く頷くアルフィム。
ゆっくり目を閉じたスヴィーリオは、なにを考えているのだろう。
「嬉しいわ、ちゃんと守られてくれる気があるのね。姫はワタシたちに守られるの嫌がるんだもの」
「確かに自分の身は自分で守れる、と言い切れるくらいの実力はお持ちだったがな……それで護衛を否定されちゃあ立場ねぇ」
「命に代えてもお守りします。どうか、ご安心ください」
「……同じく」
「うん、なんかよく分かんないけどその辺りはお任せしまーす。俺、マジ戦闘能力ゼロなので!」
「きゃー、守り甲斐あるわ〜! 素敵よ殿下!」
「ええ〜…………」
そろそろピンクの縦巻きロールのお兄さん(オネェ)のテンションにも慣れて来た。
他人行儀な父と、無口なアルフィムには少し慣れるのに時間はかかりそうだが。
「…………だが、そうなるとシャオレイが問題だ」
喋った。
そんな事を考えていたらアルフィムが喋った。
驚いていると、父が恐ろしい程震えながら顔を背ける。
なんだ、あれは。
「…………そっ……、そう、ですよねぇ……」
「あの子はもう登録者になっちゃったんだし、護衛からは外してあげたらどうかしら?」
「ま、俺たちだけでも十分だろうしなー」
「…………(こくこく)」
「……地味に潰そうとするのやめてください。それは本人の意思も考慮して私が決めます」
はて?
パンをもぐもぐしながら後ろの四人の会話に聞き耳をたてる。
シャオレイが?
そういえばシャオレイもカネス・ヴィナティキの軍人らしいが。
ああ、だからロイヤルナイトの彼らとも面識があるのか。
「…………。あれ、今護衛って言いました? シャオレイが? この世界のシャオレイはこの世界の俺の護衛?」
「一応ね、彼もロイヤルナイトになっているのよ。軍学校同期で姫は主席でシャオレイは次席だったから……お互い複雑そうではあったけど」
「それは確かに複雑……」
主席と次席の関係で、次席の彼が姫のラミレスの護衛。
彼の性格が同じならば、相当嫌がりそうである。
「しかも姫はカネス・ヴィナティキの皇女。シャオレイは敗戦国の成り上がり」
「お、おおう……」
「でも男と女……」
「……………………」
なんかおかしくなってきたぞ。
カリーナの笑顔に空笑いをする一同。
けれど、シャオレイもまたロイヤルナイト。
(シャオレイが、俺を守ってくれるって事? うわあ、なんかそれ、すごいなぁ……)
けれど会った時から顔は背けられるし、無視されるし、目も合わせない。
嫌いな人間を守るなんてさぞや面倒だろう。
ラミレスは彼と友達になりたいけれど、彼もラミレスと友達になりたいとは限らない。
それはラミレスの世界とおんなじだ。
「ラミレスの護衛云々はロイヤルナイトに任せるとして、この後は歌の実験に協力して欲しいな〜」
「えーと、そうだな。うん、やるよ」
「……誰とやるの……?」
「俺でよければ……」
「えー、キミとザードは元々の同調率が他の三人より桁違いに高いから実験のしがいがないよ。却下」
「容赦がない!」
「そ、そうなんだ……」
多分いい事なんだろうけれど。
「やるとしたミン・シャオレイかシズフ・エフォロンかラウト・セレンテージだね。……ああ、でもラミレスの希望を最優先にしてあげるよ。初めてだものね、希望は?」
「え、えーと……」
選んでいい、と言われても。
「オススメはミン・シャオレイだよ。彼は最近登録者になったから、同調率が一番低いんだ」
なるほど、実験にもってこいなのか。
複雑さで半笑いになる。
「あ、同調率っていうのは──」
「機体とのシンクロが強い的なもの?」
「そ、そうですぅ……」
「高いとやっぱり有利なんだ?」
「そうだね、同調率が高いザードとアベルトは機体に搭乗していない時ですら、機体の操縦が可能みたい。まあ、かなり簡単な操作だけのようだけど」
「ああ」
寝る前に体験した、イノセンスが搭乗していないアベルトに手を伸ばしたあれか。
確かにあれはすごいと思う。
ザードも同じような事が出来るらしい。
「あとはギア上げだね。歌の補助なしでギアサードまで上げられるのはアベルトとザードだけ。ラウトとシズフはギアセカンドまで。シャオレイはギアファーストすら無理!」
「……相性的な問題なのかなぁ」
「その辺も謎だよね」
「ギアって上げると強くなるんだよね?」
「うん。今分かっているのは機体の運動性能向上、エネルギー生産性向上……つまりビーム兵器の攻撃力アップ。そして、ザードとアベルトが初めてギアフォースに上げた時に分かった『機械類への干渉』!」
「機械類への干渉?」
「どうやらギアが4まで上がると、GFシリーズ以外の機械類にGF電波が干渉して制御を奪うみたいなんです。……前回はそれで『α』の軍を完全に圧倒出来ました。だから……」
そう、それこそが『歌い手』による『歌声』がどうしても必要な理由。
そして、彼らがたった五機で世界と戦争し続けられた理由。
「歌の補助があれば、もしかしたら到達するかもしれない。前人未踏のギアファイブにね。そして、ギアファイブなら……『α』すらもその制御下に置くことができるんじゃないか、って、ボクらは考えているの」
「……それが戦争を手っ取り早く終わらせる最大の一手って事か」
「はい! 今のところ、その可能性が高いのは俺とザードなんです。だから……」
一発逆転の可能性。
ここで戦う人々はその可能性を信じている。
限りなくその可能性は高い。
だが、それを成すには必要なものがあるのだ。
『歌い手』の『歌声』が、どうしても。
「ギアを上げるための……歌の補助か……。で、俺が歌ってもその補助としての役割が果たせるかどうかが、今のところわからないんだよな」
「男の『歌い手』が初めてなのもあるけれどね」
「……まあ、女の子の応援の方がやっぱやる気出るもんな……」
「そ、そういう事じゃないような〜?」
「あらぁ、じゃあワタシも歌ってみようかしら? 結構美声なのよぉ〜♪」
「…………」
……もっとそういう事じゃない。
「もぐ。……ごっくん。……ボク、先に実験の準備に行くね。登録者に実験協力頼まないといけないから、今決めてもらっていい? 誰とどの機体にお願いするか」
「えっと…………そう言われても……」
「……一号機『インクリミネイト』……登録者はミン・シャオレイ……平均同調率2パーセント……一番低い……。ギアは上げられたこともない……。……二号機『ディプライブ』……登録者はシズフ・エフォロン……平均同調率は38パーセント……最高ギアはサード……彼は最年長…………」
「三号機は『アヴァリス』、登録者はザード・コアブロシア。平均同調率は79パーセント、最高ギアはフォース。五人中同調率は一番高いよ。四号機は『ロード・イノセンス』、登録者はそこのアベルト・ザグレブ。平均同調率は65パーセント、最高ギアはフォース。一番安定してるかな。そして五号機『ブレイク・ゼロ』、登録者はラウト・セレンテージ。平均同調率は42パーセント……なんだけど、彼は一番不安定なんだよね……。最高ギアはザードだよ」
この中から最初に実験に付き合ってもらう人と機体を決めなければいけないらしい。
わざわざ整理させる為に、機体と登録者を並べてくれたセーヤとギベインにお礼を言いつつ腕を組む。
一号機は『インクリミネイト』……あの『凄惨の一時間』を起こした機体。
登録者はシャオレイ。
二号機は『ディプライブ』……登録者はシズフ・エフォロン。
ラミレスには一番未知の機体と登録者だ。
三号機は『アヴァリス』……登録者はザード。
自他共に認める天才にして、この基地の持ち主。
四号機は『ロード・イノセンス』……登録者はアベルト。
なんだかんだ一番親身になってくれて、親しみがある。
イノセンスとも初対面?ではないし。
五号機は『ブレイク・ゼロ』……登録者はラウト。
まるで別人のようだったが……。
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