第10話

 晃さんと私たちが駆けつけてから10分程度で警察が駆けつけた。

 第一発見者と言うのだろうか、横たわる彼女の名前を何度も叫んでいた女の子は今、警察に事情聴取されている。

 そして私たちも現場に立ち会ってしまったから、一人ずつ警察に話を聞かれている。

 でも私も晃さんも悲鳴を聞いてから駆け付けたから、実際に何があったのかは何一つ分からないのだ。

 警察が帰った後、私を含む晃さん横瀬さんの3人は、マイさんと一緒にいた女の子である陽日あさひさんから話を聞いてみることにした。

 混乱し、友人を亡くしたばかりの彼女に話を聞くのは酷なものだろうと思ったけれど、彼女の方から「話したいことがあります。」と接触をしてきたのだ。

 事件により午後の講義が全て中止になったのも都合がよかったので、渡したちは近くのカフェで話をすることにした。


 「陽日さん、無理はしないでくださいね?」

 どう見ても顔色が優れない彼女にそう声をかけると、彼女はゆっくりとうなずき、

 「でも、私、マイが死ぬのを止められたかもしれないんです。」

 と前置きを入れてから語りだした。

 「私とマイは同じ心理学部の3年生です。ほぼ毎日一緒に授業も受けていて、私にとって彼女は親友でした。

 だから今日も、私はマイと一緒に授業を受けようと学校に来ました。

 来たときはこれと言って何か変わったことも無かったんです・・・

 ですが、マイが倒れる直前、マイからは普段と違う匂いがしました。

 香水を変えたのかなって思って聞いてみたら、マイは”おまじないだよ”って笑って言うんです。普段から占いとかそう言う類が好きな子だったんで、私はまた何かの占いにハマっているのだろうと思いました。だから大して気にしなかったんです。だけど、その数分後に、マイが・・・」

 そこまで話して彼女は泣き出してしまった。

 大粒の涙を零す陽日さんにハンカチとお水を差しだしてから、私は考えてみる。

 (普段と違う匂いに、おまじない・・・?)

 きっとその匂いがマイさんが亡くなった原因なのだろう。

 私が必死に思考を巡らせていると、横で静かに話を聞いていた横瀬さんが突然話し出した。

 「マイさんは、そのおまじないを見せてはくれたんですか?」

 「いえ・・・

 見せてって言ったら、持ってないって言うんです」

 「で、はなぜおまじないと?」

 「それが・・・無者屋が1滴だけくれたって・・・」

 ドキリとした。

 不意に出されたその名前は、今の私の就職先である。

 私が焦りと不安から小さく息を吸い込むと、今まで一言も発しなかった晃さんが喋りだした。

 「陽日さんは、その無者屋を信じているんですか?」

 「いえ、、、でもマイが実際に会ったならあるんだと思います。」

 「陽日さんは無者屋を知っていますか?」

 「噂程度なら・・・

 確か、そこに依頼すれば有名人になれるって・・・」

 「それなら、マイさんは何かで有名になりたがっていたのですか?」

 「そんなはずはないです。

 マイは普段から、ただ毎日を平凡に楽しく過ごせればいいって言ってました。」

 そうだ、無者屋は依頼をすれば有名にしてくれる場所だ。

 逆に有名になりたいという欲がないのに、無者屋に出会えるとは到底思えない。

 少し落ち着いた私は晃さんの方をそっと見る。

 私の視線に気づいたのか、彼はスマホをこっそりいじって、メッセージで『蓮華さんの所へ行きましょ』と言ってくれた。

 私の不安を読み取っているかのようなその内容に、私はまた心底安心したのだ。

 一方で横瀬さんは無者屋に興味深々で、陽日さんに無者屋について聞いていた。

 彼もまた、無者屋について都市伝説としての知識しか持ち合わせてはいないようで、ただ、彼の推理は無者屋が何かしら関わっていると読んでいるようだった。

 私と晃さんも不自然にならない程度に無者屋について聞いてみたり、陽日さんを含む4人でネットで検索したりして事件解決の糸口を探した。

 マイさんが無者屋から貰ったと言っていた何かの液体、それを身に着けた為に、彼女は死んだ。

 何を渡されたのかも、無者屋を名乗って彼女に接触した者も分からないけれど、私はこの事件に関わらなければならない気がして、それはきっと晃さんの7日間に必要な出来事なのだろうと私の直感がそう言っていた。


 きっと、この事件は晃さんにとっても私にとっても必要な出来事で、この事件に関わることで私は晃さんの諦めた夢を知れるのかもしれない。

 そう思うと、自然とこの事件を解決させようというやる気が湧いてきた。


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