第2話

 時代は令和。

 平成が終わり、新たな年号を迎えも何も変わることのない街、東京・新宿。

 その新宿のとある雑居ビルの二階、一番端にある店。

 そこは

「何者にもなれない者たちのための場所」通称―無者屋(ないものや)―

 がある。

 何をするための場所なのか、だれが経営者なのか、だれが働いているのか、そもそも仕事をする場所なのか、だれも知らない。それなのにも関わらず、この無者屋には常に客足とでもいうのか、訪問客が途絶えない。そしてこの訪問者たちは店から出た後、数日で何かしらの形で有名になっているのだ。

 何をしてそうなったのか、なぜ平凡だった人間が、突然、有名になったのか、どの有名になった人も、雑誌やテレビのインタビューで必ず無者屋の名前は口に出すけれど、なぜかそれ以上の情報は一切喋らない。

 正確に言えば、喋れない。

 理由は簡単だ。彼らは無者屋に行ったことは覚えていても、なぜかその間のことを鮮明に思い出せないのだ。

 夢を見ていたような感覚で、現実にいたとは思えない。

 誰もが口を揃えてそう言う。だから、聞かれても曖昧にしか喋れない。

 その為、名前だけが一人歩きし、存在自体は誰しもが知っているものになった。

 更には、ここに行けば必ず有名になれる。

 そう噂が広がり、有名になりたいと思った人は必死に無者屋を探した。

 けれど、不思議なことに凡人が必死になって探しても、そんな名前のお店はどこにも存在せず、みつからない。

 気づけば無者屋は、都市伝説のようになっていたのだった。

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