何者にもなれなかった小説家

柊 由香

第1話

 私は小説家にはなれない。

 初めての挫折は小学生の頃。

 読書が大好きで、いつかは自分でも小説を書いてみたかった。

 家族とお出かけをした時、一生懸命のおねだりの末、普段使う物よりもちょっとだけ高価なノートとペンを買って貰った時には舞い上がったものだ。

「私はいつか芥川龍之介や太宰治のようになる。」

 と息巻いて、暇さえあればペンをとり、自分だけが知る自分のための世界をノートの中に広げていくのが楽しかった。

 書くのは基本、恋愛小説。それ以外書けないし、書こうとも思わなかった。

 芥川龍之介や太宰治の書くような、文学的な小説を書くことはできないけれど、彼らの書いた小説を、文学を私は敬愛していた。

 小学生の子供が読んだって、内容なんて全然分からない。だけど、彼らの紡ぐ言葉は、私を魅了し、本の世界へと引き込んでいった。だからこそ、彼らへの思いも込めた恋愛小説を執筆し、それがいつの日か、出版社の編集者の目に留まって、私は若くして華々しく小説家デビューをする、という夢をこっそりと掲げていた。

 けれど、そんな夢はあっという間に散った。

 ある日、一番仲の良かった友人に小説を書いていることを告白し、執筆途中だった小説を見せることになった。

「本気じゃん。」

 と笑いながらも、私の小説ノートを受け取った友人は、真剣に読んでくれた。だから、尚更、友人は私の世界を受け入れて貰えるものだと過信していたし、逆に称賛してくれるだろうと思っていたのだ。

 しかし、次に友人の放った言葉は

「なんだかよくわからないね。」

 衝撃を受けた。

 分かってもらえると思い、何日、何か月もの間、必死にノートに書き溜めた恋愛小説は、この友人の一言でただの紙屑に姿を変えた。

 この時から私は小説を書くのをやめた

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