フィクションでエッセイ

外街 北

第1回 あの日のこと

手術を受けたんだった。


今日は、手術の後の経過を見るらしい

入院中のことは詳細に覚えている


入院して2日間

ただただの宿泊みたいだった。

場所が変わっただけで、ぎこちなく生活を送るみたいに

全身で変化に早く馴染んで、私だけの生活空間を築き上げようとしていた

ベッドに付属しているテーブルにDVDプレイヤーを置き

テレビが置いてある棚に携帯の充電を置くことで私の行動範囲が最小限に充実

生活をいかにして快適に送ることができるかの勝手知ったる頃


手術の日を迎えた

なるほど、確かに2日間必要だった。


―手術当日


現実逃避から睡眠欲が押し寄せベッドに横になっていると、

「手術着に着替えてくださいねー」

と、現実世界で優しい声がする

はい と返事しているのか定かでないが、とりあえずだらしなく開いた口を閉じて

頷く

手術着に着替え、また夢の中へ逃げた


手術の時間になり、手術室へ連れていってくれる看護師さんが忙しい空気を纏って、パタパタと私の個室へ入ってくると

私は、まどろみの中で立ち上がり、ただベッドを移動しに行くだけのような気分で歩き始めた。

普段は立ち入ることすら許されない扉を少しの興奮を覚えながら、スイスイ通過していく

あれ?これって、あれじゃね?テレビとかで見る、手術室特有の扉じゃね?かっこよ

とか考えているうちにもう、手術用ベッドの前に立っていた

少し冷えている。

いや、かなり寒い。

ベッドへ寝転がり、酸素マスクを付け、

何かガチャガチャと周りで準備の音か、

人の声か分からない雑音が入り交じり、

嫌になった挙句、麻酔がかかる前に眠ろうと試みた。


気づいた時の身体とのファーストコンタクトは強烈な痛みと倦怠感と

静かで暖かいベッドの上だった


終わってたんか、と実感する。

手術した箇所が酷く痛む

母が顔を覗きこんでいるのが瞼を閉じていても分かる

声を出すことも、うなずくこともままならない


「~~?」


母よ。

話しかけないでくれないか。

何言ってるんか分からんのや。

手術中の気道確保のために突っ込んだであろう管のおかげで、喉が荒れ模様な上に

普段は頭が爆発するんじゃないかと思うほどに気を遣う娘が、

看護師さんに敬語も使えないほどには、追い詰められているのだから

返答できると思うな。


「あ!!いいですいいです!」


今度はハッキリ聞き取れた。


すると、じっと私の顔に影をつくっていた母が明るく、

じゃっ!帰るで!

と声をかけ、私のもとを去って行った。

やっと行った。


嵐が去ったような静けさを堪能しようとしたが

嵐で気が紛れていたのか痛みが急に押し寄せ、

結局その日は寝れなかったんだった。


その日

私はほぼ1時間おきに起きては寝るを繰り返し、

寝返りするだけの為にナースコールを押しては、

短い文章しか発することができない声をひねり出して、

誰にもどうしようもない痛みを訴えていた。

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