第2話

 巻き込まれた。好奇心猫を殺す。とはいえ好奇心をこじらせたぽい死に方をした猫はあまり見たことがない。人間はちょくちょく見る。ああいや現実逃避はやめよう。

 辺りを見回す。見た感じは土の壁。土の天井。なのに明るい。何の光だかよくわからない。通路という感じの細長い空間。どちらも少し先で曲がっているようだ。

 出口がどちらか見当はまったくつかないが、とりあえずここでとどまっていても何かよくなるとも思えない。とりあえず分岐か何かに行き当たるまで歩いてみるか……と、歩き出した。


「わっ!」


 いきなり壁が光ったかと思えば、先ほどの少女の顔が大写しになる。こちらを驚かせようとしたような声の掛け方だったが、あいにく壁が光った段階で警戒していたので、そんなに驚きもない。声だけだったほうがもう少し驚いていたかもしれない。

 少女はつまらなそうな顔をすると、「こんな遺跡に来るなんて、あなた何者?」と聞いてきた。お互い様じゃないのかそれ。

 名と素性を一方的に素直に教える気にもなれないのだが、だからといって情報が得られるチャンスに黙り込んでいても仕方ない。

「僕は大商人から追われているしがない逃亡者ってやつ。そっちは?」

 とりあえず聞き返してやる。

「普通の逃亡者は今どきここまでたどり着けないと思うけど……そういうレベルの話なら私は魔女よ。師匠に言われてやってきた」

 なるほど魔女。まあ魔力量と制御能力からちゃんと学んだ魔法使い系統だとは思ったけれど、魔女か。知り合いにはあまりいない。

「人がいるなんて思わなかったから、巻き込んでしまってごめんなさい」

 素直に謝ってきた。それなら驚かそうとなんてしなけりゃいいのに。心証悪くして得することはないと思うんだ。

「ここは危険?」

 とりあえず大事なことを聞いてみる。安全なら脱出前にいったん休んでおいたほうがいいかもしれない、と思った。遺跡がどうなってるかも分からないのだし。

「そこ? そこだと……しばらくは安全だけど、そのうち危険になると思う」

「しばらくってどのぐらい」

「そんなに長くはないかな……今のうちにこっちに来ない?」

「行っていいの?」未知の存在をそんなに近くに招き寄せていいんだろうか。

「大丈夫」

 彼女は小声でそのあとに何かつぶやいたようだけど、その中身までは聞こえなかった。まあ、別にそれはどうでもいい。向こうがいいというのなら、一回そちらに向かわせてもらうとしよう。

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