魔女と幼神と迷宮と
歩野仁喜
第1話
追われるって面倒くさい。
近くの街をだいたい押さえられ、仕方なく人里離れたほうへほうへと向かいながら、心底そう思った。僕じゃなけりゃ、とっくに捕まるか、あるいは魔物の餌かなんかになっていただろう。
この先には枯れた遺跡があったはず、と記憶の中の地図を探る。追手の気配は近くにないけど、このあたりで野営するのも厄介だ。できれば一度休息を取りたい――遺跡まで押さえられていなければ。
早歩きしたり川を越えたり、そんなこんなで遺跡に辿り着く。前来た時にも思ったけれど、寂しい場所だ。緑が少ないせいだろうか。街もまあ緑は少ないけれど、あそこには人々がいる。つまり今は人々はいない。まあ、なんぼなんでもこんなところまで追手は来たりしないということのようだった。
ほっと息をつく。瞬間、奥のほうから人の気配を感じた。感じ取れたのは一人。なにそれ結局追手が来てたの油断して休息中を捕らえようって寸法か、と慌てたけど、気配は遠ざかっていく。疑おうとすれば増援を呼びにいくところだと疑えなくもないけれど、さすがに疑いすぎな気がする。
というか、先客の素性が気になる。さっきまで気配に気づかなかったし。どうせこの遺跡は枯れているはずだから、遺跡由来の変な罠はないだろう(先客が仕掛けた罠はあるかもしれないけど)。この好奇心のせいで追われることになったんだよな、と思いながらも、それでも好奇心は抑えがたく。そっと距離を詰めてみることにしたのだった。
ゆっくりとしたペースで動いている先客が視界に収まるまで、そう長くはかからなかった。帽子を被った少女(だと思う)。難しい顔をして遺物を調べているようすだった。集中しているようすで、たぶん気づかれていない。とりあえず追手なら単身こんなことしないだろ、という意味で安心した。
声をかけたりしてみるか、それとも離れようか、迷っているうちに、何かに気づいたような表情をして。そして、こちらにも分かるぐらいの魔力を遺物に流しだした。あれ、これもしかして巻き込まれるのでは。逃げようと思った時には、もう遅かったようで。ぐにゃりとゆがんだような感覚がして、次の瞬間には、知らない光景が目の前に広がっていた。
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