第33話 次の敵は誰だ?



 楽しい時間はあっという間に過ぎていく。そこから先の夏休み中、楽しいことばかりだった。


 ひまわりとデート、脚本制作、演技の稽古に付き合ったり、明日太と千寿も誘って海へいったり。なんという充実、なんというリア充。

 そして、最高の夏が終わって、新学期。

 九月の月末には、いよいよ文化祭だ。もう時間の猶予があまり多くはない。後顧の憂いなく

本番当日を迎えるためにも、早くゲームを終わらせなければ。 


 現状の目的まとめ 《ゲーム》について。


 ・太田先輩を仲間に引き入れる交渉

 ・疑わしい相手を片っ端から《リーパー》判定

 ・モモの持っていたメッセージについての捜査


  《ゲーム》以外


 ・文化祭に向けて演技の精度を上げていく

 ・脚本の大筋は決まってるけど、細かいところを調整していく

 ・ひまわりと付き合ってることをバレないようにする

 ・如何にバレないようにイチャイチャできるかの模索


 …………いや、イチャつくことを目的に入れるな。

 ……いやいや、でもそういうメンタルケアも目的に組み込むことは大事か?

 とにかく、ひまわりと付き合うこと、ゲームを終わらせる見通しが立ったことで、かなり精神的に余裕が出てきたな、いい傾向。

 さて、最初にまず太田先輩に関することから取り掛かろう。

 まず、太田先輩から信用されており、さらにシロ判定されているであろうひまわりが接触して、情報を引き出す。

 シロ判定されている、というのはひまわりの《スキル》によるものだ。

 彼女の《スキル》は《偽装演技》。

 その効果は、相手のあらゆる《スキル》による効果に対し、偽装された結果を出すことだ。

 明日太の《スキル》でひまわりが《リーパー》である証拠を掴めないのも当然で、あれはひまわりの《スキル》によって偽装された答えを見せられていたというわけだ。

 発動時間に制限があり、時間が切れると再チャージされるまで発動できなくなるらしい。

 俺とのデートの終盤、効果が切れていたのもそういうわけだ。

 俺が明日太の《スキル》を借りて、『目を合わす』や『体に触れる』だけで《スキル》が発動する以上、ひまわりの《スキル》の発動可能時間をすぐに削りきってしまったようだ。

 ひまわりもまた、太田先輩のことは怪しんでいたし、デートの際の『財布を見せる』という行為は、《スキル》に関係していると読んでいた。


 ――あの時の会話を思い出してみよう。


「財布を見れば金運がわかるってご存知かしら?」

「春哉さん、アナタの財布を見てあげましょうか?」

「あ、私も気になる。部長~、私が先に見てもらっていいですかー?」

「え、ええ……構いませんわ」


 ……このように、ひまわりはあの時既に太田先輩を警戒していたために、俺を守ってくれていたのだ。やるな……、本当に味方でよかった。

 ――で、作戦はかなり順調に進んだ。

 ひまわりは明日太の《スキル》を借りて、太田先輩から情報を引き出していく。

 それにより、《プレート》を奪うことにも成功。

 やはり太田先輩は《リーパー》だった。

 これでもう勝負はあっさりとついている。ここで《告発》すれば、太田先輩は脱落だ。


 明日太の時もそうだったが、問題はここから。太田先輩と交渉して、味方に引き入れられるかだ。交渉材料は揃えられているはず。

 あとは不測の事態がないかどうかだな……。

 不測の事態というのは、こちらの推理に穴があったとか、今までの推理自体は合ってたとしても、太田先輩も俺達と同じように組んでいる相手がいるとか。

 太田先輩を交渉できたとしても、その組んでるやつが拒否したら、交渉決裂だろうしなあ。

 そんな相手いるのかよ、って話だが……例えば、例えばだ。まあ、ないとは思うが、モモがそうだとか……。

 あの謎のメッセージの相手が、太田先輩という線の推理だ。

 ――――『例の件は、彼に知られずに進めてられていますか?』

 結局、ここの謎も検証して、この可能性も潰しておかないとな。どんなにありえなさそうな発想だろうが関係ない。もしものことがあってからでは遅い。

 そうなると、俺が以前聞いた謎の声も、ここと関連付けることができる。

 ――――「このままでは、絶対に勝てない……みんな消されて、それで終わりだ」

 『みんな消されて』……つまり、みんなを倒せるような圧倒的に強い《リーパー》がいるとして、その正体が太田先輩かモモという可能性だ。

 ……あとは、他の可能性として、雪草、紅葉、フォールあたりか。

 雪草と紅葉は、太田先輩やモモに比べ現時点で怪しさでは劣るが、ひまわりや明日太のような確実に信頼できる要素もない。

 確実に信頼できなければ、疑いから外すことはあり得ない。

 ただ、フォールに関してはどうなんだろうな……、こいつの様子がおかしいことはあるが、こいつがゲームにおいてこちらに不利益をもたらす場合、どうしようもない気がする。


 運営が敵。どんなクソゲーだよ。

 でも、そういう理不尽って考えると自然な気もするな。

 理不尽なクソ運営による粛清で、『みんな消されて』というわけだ。結構通るような気もするな……。その場合、どう対策したものか……。

 う――――ん、細かな可能性も気にしていくとキリがねえなあ。

 一度整理してみるか。



 【信用できる】


 ・月見明日太  今更だな。《スキル》で互いの心まで読んでる。確実に信頼できる。

 ・海沼ひまわり 彼女も同じ。絶対に信じられる。


 【まだ信用できる情報がない】


 ・千寿マリ

 怪しい点なし、シロ確定もないが、明日太次第で判定はできるだろう。警戒度は低い。


 ・雪草エリカ 

 一周目との差異あり。

 信用できそうな情報としては、以前グループで出かけた時に、捜査のために振った『過去へ戻れたどうする?』というトークの時に、率先して話していたこととかか。

 ……あとは、そもそも普段の挙動的に、人を騙すのに向いていない。普段の挙動自体全てが演技だとすれば大したものだが……、まあさすがにないだろうな。

 ひまわりから教えてもらったことや、自分がゲームを通して感じていることなどを踏まえた考えだが、『常に演技をする』というのは本当に疲れる。あまり現実的じゃないように思える。

 

 ・月見紅葉 

 怪しい点なし。シロ確定もなし。千寿と同じで、明日太が判定する分には楽な相手だろう。

 警戒度、低。


 ・フォール

 時折見せる不可解な言動。それが一体なんなのか。運営が敵に回るようなことがあるのか。

 正直対応のしようがないので、フォールに時間をかけてもしょうがない、後回し。


 ・桜庭モモ

 一周目との差異あり。謎のメッセージを受け取っている。ただ、俺がよく知っている相手の分、そのせいでどうしても疑いきれないのはあるな。

 そもそも、一周目を見る限り、こいつにやり直しをしたい程の後悔なんて……、いや決めつけはやめないとな。明日太のことだって、後悔がないやつだと思っていたのだから。

 モモが書いていた小説の件もまだ謎のままだ。

 紅葉の証言で得られた『塾を休んでいる』という件の詳細も謎。

 …………現状、太田先輩、フォールに並んで謎が多い不安要素だな。

 思い過ごしだとは思いたいが……。


 ・太田ヤマブキ

 彼女が《リーパー》なのは確実として、問題は他の《リーパー》と繋がっているのか、他の不可解な点と繋がるのか、だな……。

 モモと繋がってる説。

 フォールと通じてる説。

 最強の《リーパー》説(俺が聞いた声が示していた相手、ということだ)。

 





 ざっくりだが今の所は、


 【警戒度・低】 千寿、紅葉 

 【警戒度・中】 雪草 

 【警戒度・高】 モモ、太田先輩、フォール


 ってところか……。 





 とにかく、まずは太田先輩との決着だ。

 それでいろいろある可能性が結構絞れてくるはず。





 ――――そして、事態は急変した。





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