第32話 「……お前と結婚するのは、オレだと思ってた……」
「………………………………え、もう付き合ったの!?!?!?!?!?」
「うわっ、びっくりした……、声でけえよビビらせるなよ」
七月二十三日、海沼とのデートから数日後――俺はまた、明日太の部屋にいた。
付き合っていることは隠すとは言っていたが、明日太には報告しておく。海沼が《リーパー》であるということは情報共有しておかないといけないし、そうなると隠しきれないよなという判断。
もちろん、全部を細かく正確に話はしないけど。恥ずかしいし……。
「……お前と結婚するのは、オレだと思ってた……」
「しねえよ」
なにいってんだこいつ。
「……さすがに、オレと千寿さんより進行が早いとは思ってなかった」
「……は? ってことは俺とひま…………海沼が付き合うってことはわかってたってことかよ?」
つうかこいつ、さりげなく千寿と付き合える気でいる、へたれのくせに前向き~。
「へえ~、ひまわりって呼んでんだ」
「うるせえ質問に答えろハゲ」
「ハゲてませんー、ベリーショートです~」
殴りてえ~。喧嘩したら絶対負けるけど、それでも……!
「……まあ、普通にバレバレだったぞ? だってどうみても……なあ?」
「ええ……」
そんなわけあるか……?
客観的に己を振り返ってみよう。クラス、委員会、部活が同じで、常に一緒にいる……。
た、確かに、これはそう思われても仕方ないな?
でも俺は本当に自分では、恋愛とか無理だしって思ってたからね。俺がそう思っていたのだからそれは真実。
自分のことってわかんないもんだね。
「っていうか、こういうの主人公っぽいやつのが先に付き合うことあるんだな」
「は? お前のが主人公っぽいだろ?」
イケメン陽キャ野球部。まさに主人公じゃん。
「ジャンルによるだろ。春哉の好きなラノベとかなら、オレは親友キャラじゃん」
確かに……? なにその視点。
そうなるとまあ、明日太みたいな親友キャラは普通はモテるな。どうしてお前はそうなってしまったんだよ。
「なんでおまえそんな変なこと言うんんだ、イケメンのくせにラノベのお約束を理解するな」
「春哉の影響だなあ」
俺の責任じゃないと言いたいとこだが、意外とオタクな明日太が嬉しい。それ自体ってよりか、頑張って俺に合わせてくれるのが。……いや、彼女じゃないんだからさ。もうこういうのはいいってホント。俺もうひまわりと付き合ってるんだから、マジで勘弁だ。
――――ドンッ
その時、なにやら部屋の外から物音がした。
□
物音がした部屋の外へ様子を見に行ってみるとそこには、
「……なにしてんだ、子供」
ドアを開けると、明日太の妹――紅葉がこけてた。さっきの物音はこれだろう。
「べ、別に……なんもしてないけど……? 裏切り者、なに飲む? コーラ?」
焦って立ち上がると、ツインテールの尻尾、その毛先をくるくるしながら聞いてくる。こいつ……誤摩化す気か、無理だろ。
……こっちの部屋の様子を伺ってたのか? なぜ? どういうつもりだ……?
「ああ、それで頼む」
ま、いいか別に。今の会話を聞かれたところでだ。
その後紅葉は逃げるように一階へ降りて、ちゃんとコーラを持ってきてくれた。優しい。
「あ、そういえば子供」
「子供じゃないっ! …………なに?」
「最近、モモのことでなんか気づいたことないか? 変わったこととかなんかないか?」
「……は? なんで? シスコン?」
「ちっげーよ……ッ」
いらっとくる勘違いだ……。まあ妹の詮索をしようとするなんて不自然だとは思うが。今まで紅葉にこんなこと聞いたことないしな。
……どうすっかな……。
仮に紅葉がシロだとしても、モモが《リーパー》である場合、紅葉の方からこちらがモモを探っていたという情報が漏れる可能性がある。
「なんか少し最近変でさ、気になったんだよ」
仕方がない。ここはそれらしさを出すために嘘をつく。実際のところ、モモはまだわかりやすい違和感を覚えさせるようなことはしていない。――が、もしもモモが不審な行動をしてるとしたら、こちらが『最近変だ』と感じることに対して『ありえない』とは断定できないはずだ。なので鎌をかけるのも兼ねておく。
紅葉がモモへ今のことも漏らしても構わない。
「裏切り者はいつも変だけどな」
「そういうのいいから、真面目に」
「……うーん……、モモ先輩は、最近よく塾休むな。裏切り者が知りたいのがこういうことか知らないけど」
「塾を……?」
紅葉とモモは同じ塾に通っている。中二と中三だから、同じ教室とかではないだろうけど、モモの動向は把握しているようだ。
新情報だ……塾の時間、家にもいないが、塾にも行ってない? なにやってんだ……?
「……ありがとうな、紅葉」
「…………ん、別に……。じゃあな、裏切り者」
「おー、じゃあな子供」
一度は『紅葉』と呼んだが、すぐに呼び方を戻すと「うるさい裏切り者!」と捨て台詞が帰ってきた。
□
「またなんか紅葉と仲良さそうにしてたな……春哉が俺の弟になる日も近いか?」
「ならねえよ」
変な茶化し方してくる明日太。いいのかお前は兄としてそれで……。
「……なんでそんな発想できるんだお前、こえーよ……、俺にはひまわりがいるんだよ」
「なんつーリア充オーラだ。言ってみたい台詞すぎだろ」
「なんか俺と明日太のキャラがどう考えても逆だと思う」
「オレもそう思う」
「千寿と頑張れ、な……」
「頑張る……」
素直かよ。応援してるぞ。
さておき――いい加減、本題。
「――夏休み明けにでも、このゲームに決着をつけようと思う」
「……え、そんなことできるのかよ……!?」
「できる。俺達にはひまわりも加わったんだ、これでやれることの幅も増える。例えば、明日太の《スキル》をひまわりに渡せば、《スキル》による判別できる相手がかなり増える」
正直、明日太の《スキル》は強すぎる。
これがあれば、時間さえかければ確実に怪しいやつを
現状、疑わしいのは俺達が通う沼ヶ浜高校の生徒だけ。なら生徒全員を調べればいいだけの話なのだ。
大変そうな作業に思えるが、それで勝てるなら安いものだろう。
「確実なのは、俺達三人で明日太の《スキル》を回して、片っ端から《リーパー》かどうかを判定していく。たぶんもっと簡単な方法もあるが、そこらへんはもうちょい検討だな」
「……マジか、そうか……、これ、終わるのか……!」
明日太としても、このいつ終わるかもわからないゲームはかなりストレスだったのだろう。
ついに終わりが見えてきたことで、声もどこか弾んでいる。
「あとは当面の問題は太田先輩だな……。でも、太田先輩も引き入れられれば、さらに効率は上がる。先輩の《スキル》も、たぶん明日太と近い、相手が《リーパー》か判別できる系だと思うしな」
「……だけど、太田先輩が金で動く場合は、懐柔できないんじゃなかったか……?」
不安そうな表情になる明日太。
確かに以前俺はそう考えていたが、それも簡単な解決策を思いついた。
「だったら、金で懐柔すればいい」
「でも、そんなのどうやって……!」
「《スキル》を売るか……そうじゃなくても、俺達は未来の人気作家と一流プロ野球選手だ、金には困らない予定だし、金より大事なもんがあるだろ?」
「…………」
一瞬ぽかんとして固まる明日太。少しの硬直の後に、
「そうか……確かにそうだな! なるほど、じゃあもうゲームには勝ったようなもんだな」
「ああ。明日太の《スキル》が強いこと。それに、チームを組むって発想ができること。残ってるやつに、この辺りを覆せるやつがいなければ、もう確実に終わりだし、仮にいたとしても、そん時はまた対策を考えるさ。このゲーム、俺達の勝ちだ」
振り返ってみれば、ほぼ俺達の圧勝といっていい気がするが、別に構わないだろう。
流行りの俺TUEEってやつだ。俺達は最強、無敵、というわけでゲームは終わり。
元からこんなゲーム必要ないのだ。やり直し生活に専念させろって話だ。
俺も明日太も、もうゲームのことより自分のこと、そして大切に想う相手のことを考えたい。
だからこんなゲーム、さっさと終わらせるに限るし、そういう算段がついていることで、未来に希望が見えていた。
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