第23話 ポンコツクイーン
デートの提案以降、俺は日々そわそわしながら過ごすことになった。当日のプラン、どこへ行こうか、どういう順番がいいか、ルートはどうしよう、食事はどこにしよう、何を着ていけばいいのだろう……???
デートなんてしないので知らなかったが、デートプランというのは考え出すと本当にきりがない。どこまで考えても、まだ他のベストがあるような気がしてくる。
いや――知らないんじゃなくて、忘れていたんだな。
だって、一周目の俺だって似たようなことを考えたはずだし。だが、詰めが甘いのできっとプランもダメだったのだろう。
恋愛系の作品を書く時にも、キャラクターにデートをさせる以上ある程度調べるが、この辺りはいくらでも誤魔化しが効いてしまうからな。
実際に行くとなると、誤魔化しようがない。
――でも、現実でも創作でも、下調べが大事なのは同じだな、裏付けがあるだけ描写できるものは増える訳だし。
実際に行ったデートを元にすれば、さらに細かい描写ができる気がする。
デートシーンを書くならデートに行け、という海沼のリアル志向な考えも、かなり大事なことを捉えているのかもな。
うーん……作家じゃないのにすごいなアイツは……。自分で演じるからこそ、リアルを追求したいということなのだろうか?
という感じのことを考えながら日々を過ごし……、期末テストを終えて。
いよいよ、始まる。
「……夏休み」
「ん、どうしたの桜庭くん」
いつの間にか図書委員の仕事にも慣れてきた海沼が、手際よく本を戻してきた帰りだった。
聞かれちゃった。恥ずかしい。
「いやあ、もうすぐ夏休みだなあって」
ここ最近、海沼とはずっと一緒だった。
クラスでも、図書委員でも、放課後の演劇練習でも、休日にも脚本を一緒に考えたり、演技を見たり。考えてみれば、クラスも部活も委員会も同じってすごいな、学校にいる間はほぼ一緒だ……。
夏休みになれば、一緒にいる機会も減ってしまうけど。
「なーに、私と一緒にいられる時間が減っちゃって悲しいよ~って?」
「……え、……あ、いや……」
なんでわかるの?
まさか《スキル》……明日太と同じ……? いや、いやいやいや、仮にそうだとしたら、バレないように読心した内容を軽々しく口にしたりしないな。
どうしようもない、ただただバレただけだ。
「……はい、そうです……」
お手上げ。素直に認めた。
「……そ、そう……。ま、私みたいな女優のために汗水垂らすことは、桜庭くんとしてもクリエイター冥利に尽きるでしょう? その機会が減るのは寂しいわよね?」
「そ、そう、そうなんだよ」
なんか海沼も照れてるようにみえる。
女王様ムーブしようとすると照れるのかな……照れるのならしなきゃいいのに。そこ指摘するとまた怒られるのでしないけど。
二人して謎に赤くなってるのでおあいこかな。
「……確かに、機会は減るかもしれないけど、量が減るなら質で補えばいいでしょう? その分会える日には濃い時間を過ごさせてあげるわ……、デートの約束だってあるでしょう?」
俺の横に座って、テーブルの上に肘をつき、白い手の上の小さな顔を乗せる。
そうやって流麗な仕草で、こちらを覗き込みながら言う海沼は、やっぱりどこか現実感がない。
ただ生きているだけで、映画のワンシーンになってしまうような。
魅力を感じれば感じる程に、別世界の、別次元の、遠い存在に思えてくる。
そんな彼女が俺を必要してくれる。
この二周目の生活が始まってから、ずっと思っていることがある。
正確には、こうして海沼と上手くやれている間に、ずっと思っていることだ。
ああ、俺はずっとずっと覚めない夢の中にいる。
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