第21話 ノイズ
その夜――俺は改めて《プレート》を取り出し、自分の《スキル》を確認してみる。
今んとこ明日太の《スキル》に比べて、俺のは役に立ってない。
もちろん、使いようは思いつく。
例えば、記憶を消して、『他の《リーパー》に操られているように見せかける』とか。
相手が明日太みたいに心を読む系の《スキル》を持ってるのなら効果的な気がする。その《スキル》で俺を勝手にシロだと思いこんで、架空の《リーパー》をでっち上げる、とかってのもできるからだ。ただ、明日太に比べて、やはり使い所が限られるな。
何か他に使い道はないのか。それを考えるために、改めて自分の《スキル》と向き合ってみようと思ったのだが…………。
《スキル》 《記憶跳躍》
・効果 選択した記憶を一時的に忘れることができる。忘れている記憶は、他のプレイヤーの《スキル》によって確認されることはない。効果時間に関しては、『日付指定』と『時間指定』がある。
『日付指定』――特定の日付、時刻まで、記憶を忘れる。
『時間指定』――設定した時間の間、記憶を忘れる。
――――そこで、俺はあることに気づいた。
「あれ? これ……、……を、指定できるのって、なんで……、づッ、あ……ッ……!?」
刹那、頭に鋭い痛みが走った。
思わず《プレート》を取り落して、頭を抑えてしまう。
――――「このままでは、絶対に勝てない……みんな消されて、それで終わりだ」
誰かの声。誰の声だ? 不明瞭なノイズ混じりの声。それに……これは、なんだ? 記憶? 感情? わからない。これはなんだ? 頭に浮かぶのは、深い絶望。もうどうにもならない、暗い暗い闇に飲まれていく感覚。その感覚なら、俺は知っている。だって俺は、一度自殺しているのだから。
「……はぁ……っ……、はぁ……、なんだよ……これ……?」
謎の声と、それに付随する謎の感情。
悪夢を見てとび起きた時みたいな粘ついた不快感に支配されていた。
これも俺の《スキル》の能力? 発動条件?
だとしたらどうして説明がない?
「フォール……、なんだよこれ、説明しろよ……っ!」
《プレート》を操作して、フォールを呼び出す。
「……なによ、どうしたの?」
「《スキル》を使うと……いや、使ってすらいないな。使う前の条件か? なんでもいい、とにかく《スキル》の発動条件とか副作用とか、そういうので嫌なイメージを見せられるとかって効果があるのか?」
「……はあ? なにそれ……、そんなのないと思うけど……どういうこと?」
俺はたった今起きたことをフォールへ説明した。
だが、どういうわけか彼女も俺の説明を聞いて怪訝な表情になっていく。
「……なにそれ、ありえない……あるはずない、と思う……。そんな危険は《スキル》は、ゲームの趣旨に反するもの。《スキル》に関して、危険な副作用だとか、そんなのはあるはずないわ」
「……だったら、これはなんだったんだ……?」
フォールですらわからないことが起きている?
だったら誰にわかるっていうんだよ。
今のは一体、なんなんだ?
あの声は誰だ?
『このままでは勝てない』? 『みんな消されて』?
なんだよ……、なんなんだよそれ……。
モモへの疑惑。
謎の声。
何かが起きようとしている気がしてきた。
ここまでのゲームにはなかった、恐ろしい何か。
デートの件で上手くいっていたからだろうか。
ああ、そうだよな……そうなんだよ。俺が書くとしても、そうするよ。
最初の方は上手くいかせておいて、調子に乗ったところで、何か恐ろしいことを起こす。
そっちの方が、面白いもんな。
……上等だ。
俺は、存在するかもわからない、俺を苦しめようとする何者か対し想う。
お前には負けない。
海沼を救う。
そう決めたのだ。
――――この先何が起きようが、それだけは揺らがない。
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