第19話 新たなるメスガキ


 四月、未来から戻ってきたのは入学式の前日だった。

 五月、様々なことがあった末に、デート(脚本取材)で、俺は海沼と、明日太は千寿との関係を少しは進められたのだと思う。

 そして、あれからだいたいニヶ月――ゲームの方で大きな進展はないが、演劇部の方では着々と準備が進んでる。

 六月二十六日――俺は今、明日太の家に向かっている。

 明日太が《リーパー》と判明して、共闘関係となってからは、定期的に集まって今後の方針を決めているのだ。

 月見家のインターホンを押す。

 はーい、と可愛らしい声がしたかと思えば、ガチャリとドアが開いて――


「げぇっ……、『裏切り者』……」


 出てきたのは長い髪をツインテールにした少女。

 身長は低めで華奢。最近暑くなってきたのもあって薄手のキャミソールにミニスカート。肩紐がちょっと危うい。子供らしい肉付きの少ない体。

 月見紅葉(モミジ)。中二(モモの一つ下)。明日太の妹だ。

 ま、こいつの紹介とか外見描写とかどーでもいいか。恐らく話に関係のない子供だ。

「失礼な……、根に持つやつだな。子供なら昨日のことは寝たら忘れろ」

「誰が子供だっ! 失礼なのはおまえだ裏切り者!」

 むきーっと怒り出す顔を真っ赤にして怒り出す紅葉。紅葉って名前、ぴったりだと思う。

 ――裏切り者。

 なぜそんなセンセーショナルな呼ばれ方をしているのかと言えば、かつて俺は明日太と野球をしていたが、やめてしまったからだ。少年野球時代、紅葉は明日太に連れられて練習を見ていて、兄の応援をしていた。ついでに俺の応援もしていた。

 で、俺が野球をやめたので、裏切り者ということらしい。知らんがな……。

 そういや、紅葉と違って明日太はあっさり俺が野球やめるの認めてくれたな。まあ明日太には『別の夢ができた』って話をしたからかな。

「お前に用はない、子供。お兄ちゃんを呼んできなさい」

「子供ゆーなばかっ!」

 げしっ、とスネを蹴られた。いってえ。メスガキが……、わからせてやる。このへんのワード、たぶんまだこの時代では流行ってないから口にはしないけど。いや、どっちみちしない。

「……裏切り者、なに飲む? いつもの?」

「ん……? 麦茶とかでいいよ」

「やだねー。水道水」

「別にいいけどさ」

「……張り合いないなあ。お兄ちゃん、部屋にいるよ。いつものな、持ってってやる、仕方がないから」

「おっけーさんきゅー、あいしてるー」

「……なっ。ぐっ、黙れ裏切り者!」

「なんだよ……嬉しくないのか?」

「嬉しいわけあるかバーカ! アホ! 裏切り者! クズ! お前やっぱり水道水!」

 長いツインテールの毛先をくるくると弄びながら、苛立たし気に吐き捨てる紅葉。

 なんだろう……すごい突っかかってくるからついからかいたくなっちゃうんだよな。たぶんモモと同じカテゴリーなのかな。

「……ん……、」

「な、なによ?」

「いや、別になんでも。じゃーな」

 ま、子供のことはいいだろう。

 おじゃましまーすと言って、二階へ上がる。背中に「裏切り者ーっ!」という声をぶつけられるが、子供の罵倒はノーダメージ。

 一周目ではあんま気にしてなかったけど、良い家住んでんだよな明日太。イケメンで金持ちとかほんまに……。千寿の前でキョドるという弱点を治すのは、バランス調整的によくない気がする。明日太ナーフしろ。

「おいす」

「おー、いらっしゃい」

 明日太の部屋に入ると、机の上にノートを広げていた。

「勉強か?」

「いんや」

 ノートを見ると、そこには『リーパー』だとか『スキル』だとか、ゲームに関するワードが書いてあった。明日太なりにゲームについてまとめていたのだろう。

「勉強もしろよ、期末ちけーぞ」

「春哉教えてくれよ」

「なんでだよ、お前も二周目だろ……。まあ、あとでな。それよか本題な」

 本題――迫る期末テスト対策……ではなく、当然ゲームについてだ。

「……あれからどうだ、ホシの様子は」

 ホシ――警察の隠語とかで容疑者ってことだ。目星から来てるらしい。

 そう。俺達は既に、《リーパー》であろう人物に行き当たっていた。

 さて、それは誰か?

 あのデートの日に来ていたメンバーの中にいる人物だ。

 俺と明日太を除くと、あの日来ていたのは――。

 海沼ひまわり、雪草エリカ、千寿マリ、太田ヤマブキ――この四人の中に、《リーパー》がいた。では、誰が《リーパー》だったのか?

 答えに至るためのヒントも、あの日の中にあった。


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