第17話 月夜、世界に二人きりのような静寂



 ――ここで一つ、大事なことを確認しておかないといけない。デート(脚本取材)の数日前に、ゲームマスターであるフォールから重要なお知らせがあつたのだ。

 フォールは最初にルールを説明した時に、まだ追加で説明があると言っていた。

 その追加説明が行われていたのだ。


「……っていうかアンタ、この追加ルールが来る前に他の《リーパー》と接触してるってありえないんだけど……しかも倒すんじゃなくて共闘って……なにもかも前代未聞よ……?」


「なんかマズいのか?」

 運営に潰されるとか?

「……別に。驚いたってだけよ。大抵のゲームでは、追加ルールが来る以前はお互い様子見のまま、って展開になるのよ。だってその時点じゃ、《リーパー》を探す手がかりがあまりにも少なすぎるもの」

「確かに。大変だった」

 ってことは、追加ルールとやらがあれば、《リーパー》を探しやすくなるのか? 

 逆に相手にも見つかりやすくなるということで、潰し合いが加速していき、ゲームが活性化すると。

 恐ろしい……。この手のゲームにありがちだな。コロシアエーってことだ。仮面ライダー龍騎で言うと、浅倉威が投入される的なね。

「結局倒さないし……。月見明日太のことを信用できるの?」

「ああ、ゲームマスターだから明日太のこと知ってるのか?」

「……っ。それは……そうね。知ってるに決まってるじゃない」

 一瞬たじろぐフォール。なんだ? 別に変なことは言ってない気がするが。

「で、信用できるのって聞いてるんだけど?」

「――できるよ。……ゲームマスター的にはされちゃ困るんだろうけど……まあ知ったこっちゃない。ルールに穴がある方が悪い」

「……ま、そうね。というか、どうせ誰も気づかないし、気づいてもやらないだろうし、やれるもんならやってみろ、っていう穴なんだと思うわ、たぶんね」

「たぶん?」

「別にアタシがルールを作ったわけじゃないもの。……ま、やってみるといいわ。ここから厳しくなるゲームの中で、そんな甘っちょろい考えが通るのか見物(みもの)よ」

「ふぅーん……? で、追加ルールの説明は?」

 厳しくなる、か……。

 そうやって脅かされても始まらない。なので俺は説明を催促した。

「簡単に言うと、《リーパー》を探しやすくするための特殊な能力――《スキル》が追加されるわ」

「……おお、ゲームっぽいな」

 スキル……RPG的なことだろうか?

「ま、あれこれ言う前にとりあえず見てみるのが話が早いと思うわ。《プレート》を確認してみなさい」

 促されるまま、俺は《プレート》を取り出す。

 そこには《スキル》というアプリが追加されていた。それを開いてみる。


 《スキル》 《記憶跳躍》


 効果 選択した記憶を一時的に忘れることができる。忘れている記憶は、他のプレイヤーの《スキル》によって確認されることはない。効果時間に関しては、『日付指定』と『時間指定』がある。

 『日付指定』――特定の日付、時刻まで、記憶を忘れる。

 『時間指定』――設定した時間の間、記憶を忘れる。


 効果制限 一日に発動可能な回数は、一回。総使用可能回数、二回。

 総使用可能回数は、他のプレイヤーを一人■■するごとに■■する。


「…………なるほど……?」

 これ、強いのか?

 要するに、基本的には防御にしか使えないって感じに思えるな。他の《スキル》がどんなものなのかわからないので、なんとも言えないが。

 記憶を飛ばすって……そんな酔っ払いみたいな……。

 でも相手の記憶を見ることができる、とかってやつがいれば、そいつの《スキル》に対する防御としては有効だよな。

「……なあ、この《スキル》って強いのか?」

 とりあえず、直球で聞いてみる。ダメ元だけどね。

「さあ? 自分で考えたら? それもゲームの内でしょ?」

「そっすよねー……」

 うーん、わからん。明日太に相談だな。あいつの《スキル》はどんなんだろう?

 ってかなんか塗りつぶされてるところあるな……自分で考えろってことか?

 だいたい予想つくけどな……。それでこのゲームがやらせたい方向性が見えるな。

 で、俺はこの《スキル》について明日太に相談することにした。


 □


「とりあえず、明日太の《スキル》も見せてくれ。俺のも見せる」

「オッケー、見せ合いな。懐かしいな。小学生の時に育てたポケモンとか、カードのパックとか見せ合う時みてえ」

 確かに。そう考えると楽しいな。いやでもそんな軽いもんでもない気がするが。


 《スキル》 《読心》


 効果 相手の思考を読むことができる。


 効果制限 読み取れる情報量、どれだけ相手の深い部分にある思考を読み取れるかには、段階的な条件が存在する。

 レベル1 相手の■を見る  その瞬間に相手が考えている表層的な思考を読み取る。

 レベル2 相手の■に触れる さらに深い部分まで読み取ることができる。

 レベル3 相手と■■をする ほぼ全ての情報を読取ることができる。


「――え、めっちゃ強くね?」

 上手いこと使えば確実に勝てるのでは……?

 ただ条件の部分が気になるな。これ、予想通りならかなり使いこなすのが難しいだろう。というか俺には無理……。レベル3とか、そういうことだよな……? 無理無理……。

「オレ、春哉と《スキル》有りで戦ってたら負けてたな……」

「あー、確かに。相性の問題とかもあるな」

 ちょっと異能力バトルっぽくなってきたな。手から火を出すとか直接攻撃するわけでもないし、やっぱり頭脳での戦いって感じではあるが。

 物凄く強い《スキル》のヤツを、頭を使ってどうにかして倒さないと……みたいなことにもなるかもしれないわけだ。

 恐ろしいような、燃えてくるような……。

「《スキル》に関する細かい説明も把握してるよな?」

「ああ、してるぜ」

 二人でその辺りも確認しておく。

 

 ・他のプレイヤーを倒した場合、その《スキル》を奪うことができる。

 ・《スキル》はゲームマスターへ売却することができる。その価格は一億円。


 つまりこれが、フォールが最初に言っていた『他のプレイヤーを倒すごとに一億』、という話の詳細というわけだ。

 すぐに一億を手に入れずに、他のプレイヤーの《スキル》を持ったままでいるのもありで、自分の《スキル》と入れ替えて、他のプレイヤーの《スキル》を使うのも有りらしい。これはかなり戦術の幅が出そうだが、基本的に他のプレイヤーを率先して倒さない俺達にはあまり関係がないか。

 ――――だが、そこでもう一つ使えそうなある『策』を思いつく。実現可能か、どう使っていくかは後々詰めていく必要があるが。

 

 □


 ――さて、《スキル》についての確認を終えたところで、気をつけないといけないポイントが明確になった。

 今後、相手が《スキル》の条件を満たそうとしている行動をしているのではないか? という部分で、正体を推理していかなければならないということだ。

 いい加減、頭が限界になりそうだな……考えることが増えてきたのでまとめてみよう。

 ・脚本のための取材

 ・太田先輩に認められる

 ・明日太と千寿をくっつける

 ・《リーパー》の捜索、《スキル》の条件を満たそうとする怪しい行動がないか警戒

 これら全てを同時にこなしていかないといけない。やることが多い……!

 最初にやってきたのはゲームセンター。

 この建物は、ゲーセンやらスポーツやら、いろいろ入ってる総合アミューズメント施設で、ここならいろいろ遊べるだろうというわけだ。

さて、最初は何をしようか?

 迷ってしまう程、選択肢は多いのだが――――。


 □


 ――「負けないッスよ……!」

 ――「お手並み拝見させて頂きますわ」


 ――――月夜、世界に二人きりのような静寂、その男と女は、互いだけを見つめていた。

 両者共に、冴え冴えと輝く刀を握る。同時に駆け出し、刃を重ねた。さながら、愛し合う者達が肌と肌をそうするように、冷たく鋭い鋼を擦り合わせ、嬌声のような金属音を奏でていく。

 硬質な調べが轟く中、時折瑞々しい音が弾け、鮮血が散る。

 男が刀を振るう。女が刀を振るう。互いの傷が増える。赤色が滴り爆ぜて、冷えたコンクリートが濡れていく。


 ――「ええ、ちょ、ハァ……!? 先輩上手すぎないですかっ!?」

 ――「あらあら、それはこちらの台詞ですわ、春哉さん。わたくしと対等に切り結べる相手がこんなに近くにいるなんて……滾りますわね!」


 女の太刀筋が激しさを増した。

 戦いは加速する。男は気圧され、後退。防御を余儀なくされ、身を守るので精一杯だ。

 このままでは――……、男は意を決して、大技に一縷の望みをかける。

 

 ――「よっしゃッ、ゲージ溜まった、ここだ……ッ!」

 ――「勝負を急ぎすぎましたわね。わたくしがそのような隙を見逃すと思って?」


 □


 ――『 YOU LOSE !  』と、目の前の画面にはそう表示されてた。

 驚きなのだが、太田先輩はめちゃくちゃゲームが上手かった。まず格ゲーで負けて、その後ガンシューティングとか音ゲーとかレースゲーとか、あらゆるジャンルで負けまくった。

 ゲームがめっちゃ上手いお嬢様……なんだそのキャラは?

 俺をこてんぱんにして満足したのか、太田先輩は今度は明日太や雪草にゲームで挑んでいた。

 明日太は果敢に挑んで破れ、雪草は逃げ回っている。あとで助けてあげなきゃ……。

「太田先輩、すごくない……?」

「部長のお父さん、有名なゲームクリエイターらしいわ。だからあの雰囲気通り本当にお金持ちで、お嬢様なのよね。普段の喋り方とかは、もしかしたら演技の練習なのかもしれないけど……」

 海沼が本性モード寄りで応えてくれる。店内は様々な筐体から音が流れているので、多少の会話は周囲には聞き取れないから大丈夫だろう。

 にしても、太田先輩は本当にお嬢様なのか。一周目でも、あの感じだったから目立ってはいたし、存在は知っていた。

 だけど、当時の俺は周囲には興味がないし、接点がなかった。だから知っているだけで、あまり覚えていないのだ。

 だが、太田先輩の父親に関しての知識ならあるな。太田先輩個人の情報というより、太田先輩関係なく、有名ゲームクリエイターの情報だからだ。

 これも推理材料になったりしないだろうか? あとで考えてみるか……。

 

 □


 午前中、ひとしきり遊んだ後は、みんなでファミレスで昼食を取ることに。あー、すげえ高校生らしいなーと思う。

「財布を見れば金運がわかるってご存知かしら?」

 太田先輩がそんなことを言い出した。

 なんかそれっぽい、ありそうな話だけども、占いとか詳しくないのでまったくご存知でない。

「春哉さん、アナタの財布を見てあげましょうか?」

「あ、私も気になる。部長~、私が先に見てもらっていいですかー?」

「え、ええ……構いませんわ」

 俺への提案に割り込んだ海沼が、自分のピンク色のオシャレな財布を太田先輩へ差し出した。

 なんだろう。海沼って特別お金に執着があるタイプには思えなかったけど……、女子は占いが好きなのか?

 太田先輩と海沼が話している間、俺は上手いこと席を近づけた明日太と千寿の様子を伺う。

「…………(じーっ)」

 なぜか千寿が明日太の食べてるところを見つめている。

「……???? ……???????」

 明日太はこんらんしている! 明日太がソーセージへ突き刺そうとしていたフォークが震えて、上手く刺せないでいた。そりゃ好きな人に見つめられたら動揺するだろうけど、にしてもすごいな、めちゃくちゃプルプルしてる。カタカタカタカタカタってなってる、フォークが皿に当たって。

「千寿さん……?」

「さんはいらん。マリでもいいぞ?」

「千寿……、どうしたんだ?」

「ん……? ああ、いや……どうにも良い役者……じゃない、良い役者になりそうな人間を観察してしまうクセがあってな。月見はすごく良い。華がある。ぬまひまを見つけた時にちょっと近いな」

「そ、そそそ、そうか?」

 持っているコップを震わせながら言う明日太。こぼれてる、オレンジジュースでびちゃびちゃだよもう。

 なんでこいつめっちゃイケメンでモテるし、将来プロ野球選手で大金持ちでウハウハ勝ちまくり人生なのに、こんなに挙動不審なんだよ、意味わからん。

「うぅーん……だが、なんだろうな、今日の月見はいまいちだなー。どうにもいつもの輝きがない。いつもの方が見ていて面白いんだけど、今日は調子が悪いのか!? どうした!?」

 千寿のストレートな物言い。その通り、明日太は千寿の前だと調子が悪すぎるんだよ。だがなぜだろう、そこまで気づいても、原因が自分であることには気づいていない。

 そしてめっちゃショックを受けてる明日太。なにフリーズしてんだよ……、実際千寿の前だとポンコツになるお前が悪いんだろ……。

 さて、どうしたものか。このままだと全然進展がないが……、なんとかして明日太のポンコツをどうにしかしてやらないとだが……、どうしたもんかなこいつは……。


「…………ふへ、ふへへ……濃厚……おいし……っ」


 雪草は一人でカルボナーラを美味しそうに食べてた。散々こいつに『濃厚』とか『かるぼなーら』とか呼ばれてたから、こいつがカルボナーラを食べてる姿になんかビクッとなるんだよな、なにこれ。



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