第15話 ちょちょちょちょちょいのちょいちょいだよ!



 憧れの女の子にデートの提案をされた日の夜――俺は、妹の部屋にいた……。



 意味不明な状況だと思うが、俺は正気で、真剣だ。

 モモはリーパーなのかどうか。これは俺にとって大きな分かれ目だ。妹であるアイツと俺は、お互いのことを把握しやすいからこそ、このゲームで敵に回った時に厄介だ。 

 モモは賢くない。こんなゲーム、向いているタイプではない。もしもモモがリーパーならば、この先入観が必ず足を引っ張ると思った。だから疑う。徹底的に、俺のバイアスなどかけずにただ冷徹に捜査しよう。

 それに、一周目で俺はもう長いことあいつにあっていなかった。だから、仮にあいつがリーパーだとすると、俺は『今のモモ』のことを――つまりは、十年後の『二十五歳のモモ』のことをよく知らないのだ。

 油断はできない。

 というわけで、俺は真剣な事情があって、妹の部屋に侵入することにする……。

 くそっ、恐ろしいゲームだ……、妹の部屋なんて入りたくないのに……!

 とりあえず、モモが家にいない時間くらいは把握してる。あいつが塾に行ってる間に、潜入成功。俺の本棚だらけの部屋に比べると、物が少ない。部屋にある物は全体的に淡いピンクの可愛らしい色の物が多い。あくまで『物』がね。これの持ち主があいつだと思うと残念というか……、女子の部屋に入るみたいなテンションの上がり方がない。

 ……とはいえ、悪いことしてるみたいなスリルはあるな。部屋の中を一通り見て回る。

 机の上、部屋に一つだけの少女漫画と恋愛小説多めの本棚、ベッドの下……、《プレート》を隠すとしたら、どこに隠すだろう?

 一つ事前に疑っている候補があった――勉強机に備え付けられた鍵付きの引き出し。

 実はこの鍵、俺も持っているのだ。同じ机が俺の部屋にもあって、同じ鍵が使えてしまうのだが、その事実をモモは知らない。俺はモモに教える気もなければ、それを悪用するつもりもなかったのだが……それがここに来てゲームを作用する要素になるとはな。

 まあ、モモがリーパーでここに《プレート》を隠していたら、の話だが……。

 鍵を差し込む。

 カチリ……、と音がして、引き出しが開いた。

 中には《プレート》――――ではなく……、一冊のノートが。

 なんだろうか。

 鍵をかけて隠していた、ということだから、何か大事なものである気はする。

 申し訳ないと思いつつ、中身を確認。人命のかかったゲームだ、躊躇う暇はない。

 そこには記されていたのは…………、なにやら小説のような文章だ。

 書き出しは、こうだ。

 ――――『私には、絶対に誰にも言えない秘密がある』。

 少し読み進めていく。なかなか引き込まれるな……、本当にあいつが書いたのか? 筆跡はモモのものだとは思うが、あいつにこんな才能があったとは意外だ。俺に似たのか? 

 ……っていうか、長いなこれ。手書きでよくこんなに書いたな……。それだけであいつにしてはすごい、褒めてやりたいが……バレたら怒られるだろ。

 読み込んでいるとアイツが帰ってきそうだ。仕方ないので、俺はケータイ(ガラケー)でノートを撮影していく。画面が小さいので読みにくいだろうか、部屋に戻って内容を確認するにはこうするしかないだろう。

 ノートを戻して鍵をかける。

 ……今回はここまでか。

 意外な秘密が判明したな……。これだけでリーパーと確定はしないが、疑いは増した。

 俺が知る限り、一周目でアイツが小説を書いている様子はなかったはずだ。

 こうして隠しているのだから、一周目で知り得なかっただけだとは思うが……。

 それでも、こういう可能性もある。一周目で俺は、高校を卒業して以降実家を出てしまったので、モモに会う機会が激減した。それ以降にモモが小説を書く技術を身に着けて、そしてこの二周目生活に参加している……という筋書き。

 まだこれだけで決めつけるわけにはいかないが……、少しアイツへの警戒度は引き上げておいたほうが良さそうだな。


 □



 俺は一つ、実験を行うことにした。実験、というか……揺さぶりというか。

 モモの部屋の前に、一冊の小説を置いておくことにしたのだ。加えて、部屋の前にいくつか本を積んでおく。

 『ちょっと今、本棚を整理してます』という偽装工作だ。本命はモモが部屋の前の本にどういうリアクションを見せるか。

 まあ、普通に俺のところで持ってきてくれるだろうが、そこでの会話で反応を見よう、という狙いだ。

 さて、どうなるか……。




 □


「おっにーちゃーん、あっにーちゃん、あにー」

 歌うような調子で部屋の前で俺を呼ぶモモ。そのまま部屋へ近づいてくる、相変わらずノックという概念を知らないので、そのまま入ってきそうな勢いだ。

「どしたー?」

 ガチャッとドアが開くと、モモが顔を出してくる。

「なんか落ちてたよー?」

「ん、わりぃわりぃー」

「なーにー、またえっちな本かな~?」

 可愛らしいイラストが書いてあるその本を見て、モモがニヤニヤと笑う。

「ちげーよ、バカにすんなよ? めっちゃ面白いからなそれ、読むか? あ、字読めるか?」

「なんだとぉーう? バカにしてるのはおにぃーだしっ、アホあにー。わたしにかかればちょちょちょちょちょいのちょいちょいだよ!」

「そのちょいちょいってなに?」

「ちょちょいのちょいの最強ばーじょん!」

「そうですか……。じゃー、ちょちょちょちょ? ちょちょいのちょいちょい? で読んでみてくれ」

「おっけーおっけー、まかせてあにじゃー。んじゃ! おふろはいってねる!」

「ん、まかせた。おやすみ」

 ……よし、仕込みは終わった。

 モモに貸したラノベは、短編集で、その中に一つ時間モノの話がある。そこにどう言及するかの反応は、リーパーかどうかで変わるはずだろう。

 モモへの対処は、優先度としてはまだ高くはない。それでも、警戒しないわけにはいかない要素が出てきた以上、今後アイツへの対応策も考えていかないとな……。

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