第14話  「――――デートをしましょう」


「その後どう? 進んでる?」

 図書室にて。近くに人がいなくなったタイミングを見計らって、海沼がそう話しかけてくる。


 四月二十八日、海沼に演劇の脚本を頼まれてから五日が経過していた。

「進んではいるけど……やっぱり小説じゃなくて脚本って形式が少し難しいのと、これでいいのかなって不安はあるかな。少し書いてみたノート今あるけど、見る?」

「へえ。見せて見せて」

 本性モードでフランクに言う海沼へ、ノートを手渡す。

「……うん。いいわね。順調に進んでるんじゃない?」

「ただ……不安なところもあって」

「っていうと?」

「デートシーン。ここで主人公とヒロインは、脚本――えーと、作中主人公が書く脚本の参考にするために、ヒロインとデートをするけど……具体的に脚本の参考のためのデートってなんだろうなーみたいな?」

「なるほどね……確かに……主人公とヒロインの行動――デートが劇中作へ繋がるわけだけど……劇中作の方を詰めてみたりすると見えてくるかな。そこは効果的になるように、劇中作の内容とデートの内容を上手く合わせたいところね」

「……ウオ……」

「なによ?」

「いや、海沼……アドバイスがすげえしっかりしてるなって」

「なに? 馬鹿にしてる? 私は最強の女優になる女よ? 役への理解を深めようと思ったら、お話への理解も深めないといけないに決まってるじゃない。だから私、演じることも大好きだけど――そもそも、物語そのものが大好きなの。そんな私に気に入られる物語を書ける桜庭くんってすごいんじゃない? どう、光栄?」

「はい、光栄です」

 一瞬で女王みたいなこと言い出す。すげー偉そう、実際偉いので跪くしかない、跪きたい、クイーン海沼。

「で、桜庭くんにはもっと光栄な役目があるんだけど」

「……? なんだ?」


「――――デートをしましょう」


「でぇッッッッッ……!?!? とぉ……???」

「しーっ……図書室よ? でなくとも、みんなには秘密なんだからね?」

 妖艶に、蠱惑的に、桜色の瑞々しい唇にそっと人差し指を添える海沼。

 このイベントだって、一周目にもあった。でも、その時は本当に目も当てられないへたれっぷりを発揮して、どーしょうもない感じだった……。わりと消したい記憶だ。そして、その後の孤独な日々で、海沼が遠くに行ってしまったと感じていた俺は、海沼をデートをするということが、どうにも現実感がない。過去に戻ったりしてるのに、それでも。

 そういう事情もあって、普通に驚いてしまった。よかった、演技の手間が省ける。

 ……っていうか、マジ? 

 どうしよう。十年経っても、上手くできる自信ないよ。





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