第13話 「やってやるよ」
――で、とりあえず全員、着席。俺の横に雪草が、机を挟んで対面には海沼が座っている。
雪草はブレザーの下に着てるパーカーのフードを目深にかぶってしまった。うちの学校は自由な校風で、校則も緩い。だからパーカーとか着るのもアリ。雪草は意外とオシャレさんなのな。まあ、大事なのはたぶんフードだな……。
「あ、あれ……私、なにかしちゃったかな?」
戸惑う海沼。無理もない、いきなりここまで怯えられるとナニゴトかとなるだろう。
「いや、こういう生物なんだ、気にしないでくれ。……な、雪草?」
コクコクコクと頷く雪草。喋ってくれ。
「そう? じゃあ改めて……お願いっていうのは、私が所属してる演劇部のことなんだけどね……うちでは毎年、文化祭で劇をやるんだけど、そこで私はオリジナルの脚本でやりたい、って提案したの。一年なのに生意気、って思われたかもしれないけど、でもどうしても私は、自分達で脚本にも拘った劇がやってみたかったの」
やはりだ。これも一周目にあったイベント。
ただし、三年の時に起こったことだが。海沼と俺が関係する出来事。きっかけは、偶然彼女の本性を知ってしまったことだが、関係が進展したのはこっちのイベントの影響が大きい。
海沼のやりたい物語を、俺が形にする。
――戦友で、共犯。色恋とかじゃない、俺達は、そういう関係なのだ。
「もしかして、この間の、アレって……」
俺はいかにも『たった今繋がりました』みたいな感じを出しながら言う。
『この間のアレ』。
海沼の本性を知った時の、
『あぁ――――もぉ――――最っ悪、ムカつくぅ――――――――――っっっっ!!!』
ってやつだ。
これはつまり、海沼の提案が演劇部の方で受け入れられず、そのことに対して怒っていたというわけだ。それ自体は、一周目でもあったのでわかっていた。
三年時にあったことが一年時にズレていることだが、そこに何か原因があるか――もしくは、海沼は一年の時からああしていた、ということだろう。
海沼はずっとああやって、自分のやりたいことのために戦い続けていて、それを俺が知ったのが三年の時だった、というだけ。
もしも、もう少し早く出会っていれば。一周目の時に何度も思ったことだ。その『もしも』が、きっと今なのだろう。一周目の時、俺は二年間も海沼を一人にしていた。しかたがないといえばそれまでだが、それでも――もっと早く、力になりたかったと何度も思った。
もう、そんな後悔はしないで済む。ああ、本当にやり直しに感謝だな。
「桜庭くん」
「……は、はい」
「しーっ……だよ?」
「で、ですよね」
外ヅラモードの海沼が、にこにこ笑顔のまま微妙に威圧的なオーラを滲ませる、複雑な表情をしてくる。
本性について触れることなので、『アレ』とぼかしたものの、それでもやはり雪草がいる前でする話ではないというのは当然だろう。
「私のしたいことで、少し演劇部の先輩とかも揉めちゃったんだけど……でも、大丈夫。みんなを納得させられる脚本を用意すれば文句は言わない、そういう約束は取り付けたから」
「それ、ハードル高くない?」
「ふぅーん……自信ないの? 桜庭くんが? あーんなに面白いお話書けるのに~?」
外ヅラモードのままの海沼が、まるで本性モードみたいに俺を煽ってくる。
言ってくれる……。
一周目の俺はもっとへたれで、無理だよできないよと弱音ばかり吐いてるのを、海沼に説得されながらなんとか頑張ったという感じだったが。
今は違う。これは二周目。強くてニューゲーム。正直ちょっとずるい気がするが、知ったことか関係ない。人命がかかってる。海沼ひまわりという、かけがえのない尊い存在が懸かっている勝負なのだ。
海沼、俺は絶対にお前を死なせないよ。
俺がお前を救う。
海沼の死の理由は未だにわからない。だからまずは、この二周目の人生を最高のものにする。一周目よりもずっとずっと素晴らしいものにして、死にたいなんて思わせない。思わせてやるものか。
尤も、これは本当に『自殺』だと仮定しての話になるが。まあ違う可能性ならその時はその時だ。どんな可能性にも対処してやる。
「ねえ、海沼さん」
俺は強い決意を込めた瞳で、まっすぐに海沼を見つめる。
いつもの俺なら、できないことだ。二周目だろうが、海沼って神々しすぎて、眩しすぎて、直視できないから。
それでも、今は彼女を見据える。星を、見据える。
「なあに、素敵な物語を書く桜庭くん」
挑発的に、妖艶に、試すように、彼女が微笑む。
「やってやる。最高の物語を書いてみせるよ。…………っす……です……」
ごめん、ちょっとへたれた。
ここ見開きドーン、決めゴマ、バシーンって感じのはずだったんだけど。
二周目でもへたれてたわ。
「…………濃厚先生…………かっこいいです…………っ!」
ぼそっとした声が、雪草のフードの中から漏れてきた。 言っちゃてるからね。
でも、ありがと。濃厚先生、頑張るよ。
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