第11話 固定資産税がかかるくらいデカい感情


 ~前回までのあらすじ~


 あすた が なかまになった !






 

「で、どーするよ? これから」


 明日太がパックの牛乳をストローで飲みながら、そう聞いてくる。


 四月二十三日。

 明日太との対決の翌日、昼休み。屋上。

 周りにはそれなりに人がいるが、こちらの話し声が聞こえる範囲にはなし。盗聴器とかもチェック済み。たぶん、武力でもなければ、歴史への影響も少ないし、それくらいなら有りなはず、という推理。警戒しても損はないだろう。

 『どーするよ?』、とはわたあめみたいにフワフワな質問だが、ゲームについてのことだろう。俺は焼きそばパンをもしゃもしゃ食べながら応える。

「まあ、基本こっちからどうこうはしないな。いくつか《リーパー》を炙り出す策も浮かんじゃいるけど、現状やる必要性を感じない。他のプレイヤーも『ただやり直しができればいい』ってところに気づいて、そういう動機でやってるやつらだと助かるんだよな……、このままゲーム自体が自然に消滅して、俺達はただやり直しをすればいい」

「……金目当てのヤツとか、他のプレイヤーをまったく信頼できないヤツとかがいると、どーしょーもないよな」

「そういうことだ。だから常に警戒はしないといけない」

 さすが未来のプロ野球選手。馬鹿に野球はできないと言ってたが、普通に察しが良い。

「とりあえず相手の出方を待つ、ってのが基本方針だ。それに、追加のルールがあるって言ってたしな。ゲームが硬直したら、ゲームマスター側が動かすルールを提示してくるんだろう。その前に積極的に動いてもしょうがないだろうな」

「なるほど。りょーかい」

「そういや明日太」

「ん?」

「お前も未来から来たんだよな。西暦何年?」

「二○二○年。そっちは?」

「同じだな……。何月何日だ?」

「えーと……シーズン開幕した後で、四月頃だったと思うけど。何日だったかな……そうだ、四日だ。四月四日。過去に戻ってきた時も四月四日だったんだよ、高校の入学式の前日」

「俺とほぼ同じだな……」

 だが、少し違う。俺は十年後の未来では四月五日。

 『過去へ戻ってきた日付が四月四日』、というのは明日太と同じ。

 一日くらい誤差だが、全員が未来において同じ日付から時間移動してるわけじゃないのか。

 あまりゲームには関係なさそうだが、それによって一つ大きな情報の差がある。

 明日太は、未来での海沼の自殺を知らない。

 ここまで一切『自殺』を話題にあげてもいないし、海沼についての話の時に動揺を見られない。それら全てが演技――という可能性もないだろう。なぜなら、そこまで完璧に俺を騙せるのなら、明日太が俺に負けるはずがないからだ。

 こいつの人間性、動機、ゲームを通して把握出来た知力を統合して考えると、明日太は確実に信頼できる。

 未来で海沼の死に関わっている、という可能性もないとみていいだろう。

 ……というか。

 ニュースでは自殺だったが、他殺の可能性を考慮していくと恐ろしいことになるな。

 例えば海沼を自殺に見せかけて殺した殺人犯が、タイムリープして海沼を殺そうとしている……とか。小説のネタとしちゃ良さそうだが、勘弁してもらいたい展開だ。

 現状、そう考えるような根拠もないし、ただの妄想だ。

 今のところどうとでも考えられる程、何も手がかりがないってことだな。


 そもそも、海沼の死の真相をどうすれば暴けるのか?


 1 海沼が《リーパー》で、どうにかして彼女から直接聞く。

 これが簡単。いや、真相を知る手段として簡単というだけで、また明日太の時と同じようにゲームで勝った状態で、なおかつ相手が話してくれる意志を持ってないと無理だから簡単ではないが。


 2 『やり直し』を進めていく中で突き止める。

 こっちなら海沼が《リーパー》じゃなくても可能。問題は、死の真相がどこに――西暦何年の何日にあるのか、だ。

 例えばだが、十年後の自殺決行日の数日前、突然『死の理由』ができるとすると、それまでは判明のしようがなくなる。気の長い話になってくるな……。


 まあ、海沼のためなら十年だろうが百年だろうが付き合っても構わない。


「どした、考え込んで。ゲームのことか?」

「……、ああ、ゲームのことだ」

 正確には、少し違う。

 明日太に海沼の自殺について――そして、俺の自殺について話すかどうか迷っている。

 捜査のために有益ではあるが、明日太を動揺させすぎるかもしれない。

 このゲームでそれは命取りだ。そして、俺自身話しづらいことでもある。

 ……今は保留でいいか。

「俺と明日太がほぼ同じタイミングで十年戻ってる、ってのが判明したのは収穫だな。そうなると、他の《リーパー》もそうなのかもしれない。この情報がゲームに有利になるかもしれないからな」

「なるほどな。……やっぱ頼れるな、春哉は。なんか……いいな、こういうの、久々で」

「久々か……そうだな」

 俺と明日太は、高校を卒業してからほとんど話していない。卒業して数年は、お互いに忙しいからというだけの理由だった。

 だが、俺が仕事で上手くいかなくなってからは違う。

 意図的に避けていた。明日太に限らず、関わってきた人間全員を避けて、避けて、避けて……俺は孤独になって、最後には死を選んだ。

「なんか……すげえスッキリした。やり直しのこと、誰にも言えねーってすげえモヤモヤするしさ、春哉とも久しぶりに話せたし」

「……まあ、俺はお前のこと結構テレビで見てたから、たぶんお前ほど久しぶりって感じじゃないよ」


「あ、それならオレもお前の小説読んでたんだぜ? すげえ面白かった! あのタイムリープするやつとかさ、今の状況そっくりだよな。だからお前、このゲーム強ぇの?」


「読んでたのかよ!? 読むなよ!?!?!!? なんで読む!??!!?」


「なんでだよ……、売ってたし買って読むわ、普通に。じゃあおめーもオレが出てる番組とか見るなよ?」

 なんかこう、胸の奥が熱くなってくる――恥ずかしいとかってのもあるけど……俺が勝手に、もう明日太は手が届かないところにいる、雲の上にいる、関係のないやつだって、テレビの向こうにいるやつだって、そう思ってたのに……。

 そんなこと、なかったのかな……。

 俺は勝手にこいつのこと遠ざけてたのか……。

「……気をつけろよ。俺らは中身が二十六歳だけど、ちゃんと今年で十六歳の高一の設定を通さないといけないんだからな?」

「ああ、わかってるよ」

「………………読んだなら、今度、感想聞かせろよ」

「……ああ! 語らせろよ。あーっ、実際に本を目の前において語りてえけど、この時代じゃまだ売ってねーのか!? 早く発売してもらわねえと!」

「……っはは……じゃあ、そのうち未来で語るか」

 なんて、いつになるかもわからない約束をする。


 ……なんか、負けられない理由が増えていくな。


 まあいいさ、いずれにせよ、絶対に負けるつもりはないからな。



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