第10話 1億円よりも大切なモノ
~前回までのあらすじ~
ハルヤが《リーパー》だと暴いたのは、彼の親友である明日太であった。
明日太との対決。
偽の《プレート》を利用して、明日太が《リーパー》であることを確定させ、そのまま告発すれば勝利というところで、ハルヤはある提案をした。
◇
「……で、どういうことだ? 最後の一人になるまで勝ち抜かないといけないんじゃないのかよこれ?」
「明日太はゲームマスターにそう説明されたか?」
「……いや。でも、やらなきゃ自分がやられるわけだし、相手だってやり直しを譲る気はないだろうし、一億もらえるってんなら……というか、春哉、お前、俺を倒して一億取らないってことか?」
「取らん、いらん」
「ハァ……!?」
「ついさっき『金より大切か?』って聞いたら、お前なんて答えたんだよ」
「それは……そうだけど……」
「だろ? っつーか、一億じゃ安すぎるんだよ、お前と比べたら」
「春哉……お前……?」
「……な、なんだよ?」
「お前、海沼が好きなんだよな?
ついでにオレも攻略する気か?」
「――――はぁ!? ちッッッげーよバァァカ!
いいか!? やり直しはいくら金を積まれようが買えないんだよ、だったらこのゲームに勝ち抜くためにはお前は必要ってことだ」
「おお」
「そもそも、お前いずれ年俸一億超えるだろ?」
「まあ」
「……あとは、普通にお前、一億以上の価値があるっつーか……ああ、戦術的な意味でな?」
「やっぱり攻略されるのかオレは?」
ああ!? なんだこいつ、わかりやすく説明してやってるのに茶化しやがる!
「そのネタうぜーからもう乗らねー……」
「ッハハ、冗談だよ。……ってか海沼のこと好きってのは否定しねーの?」
「ッッ……。っばか、お前っ、そういう好きとかじゃないんだよっ、お前にはわかんねえよ馬鹿っ、野球ばっかやってっから馬鹿になんだよ馬鹿、バァァカ!」
「しつれーな……、バカバカうるせえバカ。野球は馬鹿にはできねーんだぞ? ま、いいけどな……オレもからかわれた分、たっぷり仕返しできそうだし」
なんか不穏なこと言ってるな?
まあいい、とりあえず話を進めよう。
「で、結局のところ、ゲームマスターは他のプレイヤーと組むのは禁止、なんて一言も言ってないんだよ。『ルール上、普通は成立しなさそうに見える』ってだけだ。だって相手に交渉の余地があるか確かめる前に、さっさと《告発》して倒したほうがいいに決まってるからな。今回の場合、俺が苦労してこの状況に持っていったわけだ」
明日太を倒すだけなら、明日太のプレートを確保した段階で《告発》するのも有りだっただろう。
明日太が《プレート》を操作しようとしたことで、より確実になったが、その前から俺には明日太が《リーパー》であることは、かなり高い確度でわかっていた。
まあ、ここからルールが明かされていくことで、今の状況がひっくり返される可能性はある。
例えば『最後の一人のみを勝者とする。最後の一人になるまでゲームは終わらない』とかってルールが追加されるとか。
当然、そうなった時の対策も考えてあるが……、まあそれも追々だ。
「なるほどなあ。春哉、お前やっぱすげーな」
「別に……。明日太、昔から謎に俺のこと上げてくるよな」
「謎じゃねえって。……あ、っていうか、他のプレイヤーと組む、ってのは別に禁止じゃないってのはわかったけど、それってどうなるんだ? ゲームは終わるのか?」
「そもそも、まだゲームの勝利や終了については説明されてないんだよ」
説明になかったから既にフォールに聞いたしな。いずれゲームが進めば明らかになるはず。
「っていうかさ、『何を勝利とするか』って話なんだよな」
「難しい話か?」
「いや、難しくない。俺らは『やり直し』をエサにゲームをさせられてるけども、いってしまえば報酬が前払いされてるようなもんなんだよ。やり直しが始まってる時点で、俺らは勝利してる。あとはこれを守ればいいだけ。……ただまあ、めんどくさいのは、派手に歴史を変えていけば《リーパー》だとバレる」
このへんのジレンマがゲームのキモなのかな。
「別に相手を倒す必要はないんだ。ただ負けないだけで、俺達はやり直しを続けられる」
「……でも、たぶん負けたら……《告発》されちまったら、全部ダメになるんじゃねえか?」
それはその通りだろう。
どれだけ上手くやり直しができても、その全てをなしにされて、また未来に戻される。
それはあまりにも虚しい。一度ならず二度もダメになるというのは、耐えられないだろう。
負けたらやり直しの記憶は消されるから、『二度ダメになった』という事実を突きつけられて精神にダメージを受ける心配なんてしなくていいんだろうけど。
「大丈夫だ。そのために組むんだろ?」
「そりゃオレらが組めば無敵だろうけど……具体的にはどーすんだ?」
「俺達で情報を共有すれば、単純に二倍の効率で情報が集まるだろ? そうすれば《リーパー》を見つけやすくなるし、疑わしいやつを見つけた時に嵌める策も、疑われた時に対抗する策の幅もめちゃくちゃ広がるからな。大丈夫……このゲーム、勝てるよ」
「すげー自信。ま、春哉が言うならそうなんだろうな」
そう言って明日太は爽やかに笑うと、拳を突き出してきた。
「久々のバッテリーだな――よろしく頼むぜ、相棒」
「……おう。頼む」
俺は照れつつも、拳をぶつける。
……あー。そういや俺、野球は別に好きじゃないけど、昔少年野球やってたんだよな。
その時は俺がピッチャーで、明日太がキャッチャー。
結局俺は中学上がってから『作家になる』って夢を見据えることにしたから、野球はやらなかったけど、それでもあの頃は二人ならどんなやつにも負けないって思ってた。
それは今回も一緒だ。
俺達二人なら、誰にも負けない。
「……そういや、春哉、なんでオレが《リーパー》ってわかったんだ? オレに手紙を出したり、《プレート》をすり替えたり……ってことは、最初からわかってたんだよな?」
「ああ、それな」
明日太の疑問に答えるために、俺は実演を交えて種明かしをする。
これが推理方法のハウダニット。フォールが気になっていた、どう推理したかの答えだ。
俺はあるジェスチャーを見せる。
バッドをくるくると二回転させ、ピタリと止める。正面へバットを構えて僅かに静止、精神を集中させ、バッドを引いてピッチャーの投球を待つ。
――ルーティーン。
これは、明日太が打席に立つ時に毎回絶対に行う仕草だ。
ただし――、プロに入ってから、だ。
明日太のルーティーンは、プロに入ってから大きく変わる。毎年少しずつの変化もある。
俺はどの年代のやつも完コピでモノマネできる。それくらい、こいつのフォームをよく見てたからだ。
「……お前、部活の試合の時に、プロ入り後のフォーム出てたぞ。危なかったな、部員にお前のフォーム覚えてる《リーパー》がいたらバレてたんじゃねえの?」
クセっていうのは無意識だ。
こればっかりは、どれだけ上手く演技しようが、自分で気づいていなければどうやったって誤魔化せないのだろう。
「……マジかよ、危ねえ~……。っつーか春哉、お前……めちゃくちゃオレのことよく見てるじゃん。やっぱり攻略されちまうのかオレ」
「…………」
「無視すんなよー」
「…………」
「ごめん」
「いいよ」
「ありがと、優しい」
「――千寿マリ」
「やめろってマジで!!!!!!!!!」
こいつにこういうオタクみたいな発想を教えたのは俺だけど、本当にそういうネタは勘弁して欲しい。
なので精神的に痛めつけて二度と言わないように調教することにした。
「千寿マリ、千寿マリ」
「やめろって!!!!!! おい!!!!!!! 春哉!!!! なあ!!!!!!!」
……おもしろいなこいつ。
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