第4話
ぼんやりと旅をしているうちに何日も過ぎたようだ。政治遊びに参加し働くことを求められる世界においては、皆があくせく働く中こうしてやる気なくぼんやりとしている事は悪と言えよう。
人間は「やらない」ことの重要さを知らず何かやるべきだと思っているようだ。もちろん食べなきゃ生きていられないしやる事はあるが、無駄に労力をかけている事も山ほどあるだろう。また、逆にやらずに済んだこともあるわけだ。不発に終わった事故事件の予定もあり、そのシナリオは静かに闇へと葬られた。ここはもっと評価すべきだと思うのだけれど、起きなかった事について知る人は少ない。
ただ何も無いのもつまらないことだ。何かいつもと違うことが起こってほしいと願う人もいて、身の周りの人が亡くなったりして悲しみを演じる自分の姿に酔うこともある。
自分から罪になるようなことをしたくはないが人がやるのには少し興味を抱いたりする。自分よりもっと悪い人がいると安心したり、悪口を言う対象にして気を紛らわしたりもするし、純粋に見物だと楽しむ者もある。
そんな悪しき好奇心を称賛し、日々何事かを起こすこの世を祝いつつ僕らは飛び回る。悪の讃歌を地上に響かせ人々の心を守っている。
悪は息抜きとなり時として人の命を救うことさえある。だが人は善を目指す。善と悪は裏表なようで境目が見えない。実質追求すれば同じものなのかもしれない。
競争社会は大人も子供も巻き込み人々を焦らせて、今日も日が上る前から一斉に群れが動き出す。人混みは群れのようでバラバラであり一定の秩序は保ちつつ皆無関心で、どこかへ向かうことにのみ気を注いでいる。
これだけ人が集まっているのだから仕事なんて放り出してもっと楽しいことをすればいいのにと思うが、朝の孤独な群れは無表情でそんな事を考える気力は無さそうだ。
この中にどれだけの可能性が秘められているのだろう。ひょっとすると自分の心をつかんで離さないような、見たこともないすごい考えを持っている人間がいるかもしれない。大親友になれる人がいるかもしれない。それでも一心不乱にどこかを目指しすれ違うのみである。
競争なんて小さい頃はかけっこぐらいで済んでいたが、大きくなればテストの点数を他の子と比べられ順位が決まり、受験では他生徒に勝つ学力を求められる。誰かが望む所へ行ければ誰かが負けて泣くだろうに、静かに戦わせられるのだ。
就職しても他社より優れた物を作らねばならず競争は延々と続き、競争したくないなどと生易しい事を言っていれば負けることとなる。利益を得て社会を回し成長している。
そうまでして追う成長が良いものなのか、成長なんて本当はしていなくてただ右から左へ意味のない変化を続けているだけなのか。この先地球は滅亡するのかもしれない。
日が上っては沈み、建物が建てられ壊され、人が生まれては死んでいく。ある時
「だいぶ悪魔らしくなったわね」と彼女が僕に言った。
「特に何もしていないよ」と答えると、
「何もしないのも立派な悪。ほら、今日も皆悪の道を進んでいるでしょ。これで十分よ」と彼女は笑った。
「そうだね、これでいいよね」僕も笑った。
夕日は優しく皆の悲しみに影を落とし、全てのものが温かい光に包まれた。
オタマジャクシをヤゴが追い、トンボの死骸がアリに食われ、アリジゴクにアリがかかっている。カゲロウは儚げに飛んでいく。カエルをヘビが追い、カラスがザリガニをつつき、雨上がりの草原ではカナヘビが水を飲む。春夏秋冬はまるで一瞬のことのように過ぎ去り、春に戻れば新しい命が芽吹いた。
食い食われる者たちの宿命を、いつの日も我々は見守り続けた。残酷な優しさで全てを愛し、悪であることに誇りを持った。
人間は肉を食べなくても生きていけるらしいが、そんな事は日本では習わず全ての栄養を取れと言われる。
ベジタリアンになろうと決意すればできるだろうがその勇気はなく、必要のない殺生を続け食品ロスも出している。
快感、美味しさを味わうためだけに動物を殺し、これは必要なことなのだと子供たちに教え「いただきます」を言って命に感謝するのだと言い続け社会はいじめを容認する。
人は人をいじめてはならない、殺してはいけないと強く言い聞かせ、しかしスポーツなどでルールを守って戦うことを強制する。
学校でドッジボールや競争、スポーツをやりたくなくても無理にやらされる。我が国の文化は正しいと言い張るように、子供たちに「やるべき事」を押し付ける。
教育とは何なのか。自分の意見を押し付けることか。
正しいと自分が思うのは構わないが、それぞれ皆考えが違うのだから、一人が正しい事だと思い込んでいるものを皆にさせても上手くは回らない。ヤマトシジミはカタバミを、モンシロチョウはキャベツを食べて育つからこそ歯車は上手く回るのだ。己の正しさを信じて疑わない事も悪の道の一つである。
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