第3話
「あぁ〜死ぬかと思った。」
呑気に笑う勇者の傍には文句を垂れる魔王がいた。
あともう少し遅れていたら勇者は確実に、鉄道旅行の行き先は天国行きに決まっていた。
真剣な眼差しで怒る自分に魔王は鼻で笑い「今度、会う時があればその時は容赦なくお前を殺す」と忠告されて、家を出ていく魔王の手を握る。
「お前はバカだ。私といた所で何の得もないのに、寧ろ邪魔なはずだ。お前と私は水と油だ、決して結ばれることはない、永久にな。」
魔王は手を振り払い自由への扉を開けた。最後まで魔王は振り返らずに、玄関の扉を固く閉じた。
勇者は魔王が立ち去ったあと、捉えた見張り役ふたりを説得するために地下室に向かう。完全に毒は抜けてないが、かろうじて両手両足は使えるので何とか地下室の階段のところまで来れた。
あとは急な階段を慎重に降りるが、突然急激な上半身・下半身に痙攣を起こし、自分自身を支えきれなくなり、階段を転げ落ちていく。
幸いにも大きな怪我は無いにせよ、但し、痙攣は「止まれ」と言い聞かせても治る気配はなかった。完璧に身動きが取れなく、途方に暮れていたら階段の上の方から視線を感じたり、目線を上を向けた先には人影を確認する。
人影の正体は……魔王である。
「お前は本当にバカか⁈。無理だということはお前が一番わかっているはずだ。連中は王の番犬。どんなことがあろうとも、嘘をつけば自分たちの命はない連中に、話したも無駄だ。」
それでも勇者の瞳は希望を信じる輝きに魔王はため息をつく。
勇者の体内に入り込んだ毒は除いたが、代償の効果で、いつ何時も不明な痙攣が発生する。
魔王は勇者の痙攣が治る前まで、膝枕の楽園を満喫させて、唄まで披露する。時期痙攣は治り、地下室に閉じ込めたふたりのいる扉を開けた。
そこには見張り役の男女が椅子に縛られていた。
「勇者様、ご無事ですか?」
彼女は「神童の騎士」と呼ばれていた頃から勇者を見てきた。そんな優れた戦士を王国はほっとくわけもなく、王国から見張り役として彼女と彼が適任された。
すごい睨むをきかす彼女に魔王はため息をつく。魔王の肩を借りて勇者は何とかバランスを保つ。
「貴様、勇者様に何をした。」
「コレには訳がある。少し話を聞いてくれ。」
勇者はコレまでのことを全て話す、それを聴かせても無意味に終わる。しかし事態は更なる災厄な状況に動き出す。
彼女の表には勇者を慕うものと、裏の勇者を好きな面が存在した。その裏の面は深い谷底に封じ込めたが、勇者の話を聞き深い谷底に落とした感情が音を立てて駆け上がる。
人間の女性を好きになれば、彼女も府に落ちた。なのに好きになった相手は、両親を死に追いやった憎っくき「魔王」。許せるわけなかった、封じ込めた感情が解き放たれた。
「勇者様が魔王なんか好きになるはずがない。本当は魔王に操られている。そうなんですよねえ……勇者様」。
「……」
「……」
「……」
「お願いします。この場で『違う』と、みんなの前で言ってください。」
「お前は勘違いしている。私は勇者ことなどーー」。
「ーーお前に聞いてるんじゃない。だまれ、黙れ!」。
初めて旅立った瞬間、初めて魔物を倒した瞬間、初めて仲間に出会えた瞬間、あらゆる場面を全て見てきた。
だからこそ……溢れる感情を抑えきれない。
「勇者様をたぶらかしたお前などーー殺してやる!!」。
彼女は「エリザ族」最後の生き残り。瞬間火力であればエリザ族は王国騎士団の中でもトップクラスに入るほどの実力を秘めている。
残された彼と勇者は天井に空いた大きな穴ーーそこから見える黒い点を目視する。
"興味もない"
"好きでもない"
"タイプでもない"
その割には魔王の心が揺れるありようが、手に取るようにわかるからこそ彼女は許せなかった。
「なら、そんな眼をするな。」
彼女は手のひらから魔法の「火の玉」を放つ。そこまで強大な魔法ではないが、やはり勇者を助けた際に魔力を使い切り、回復までは至っていない。
火の玉をはじ返す余力はなく、魔王は草木が生い茂る場所まで吹き飛ばされた。彼女は超高密度の「火の玉」を、同時に怒りも乗せて発射させた。
しかし、火の玉は当たる方はなく。勇者が自ら盾となり火の玉を切り裂く。勇者の守る行動を見た彼女の怒りが増剤する。
「私よりも、勇者様は魔王を守るのでか?勇者様だって、あれ程までに魔王を憎んでいたじゃありませんか、それなのにどうしてですか?」
勇者の真っ直ぐな目は彼女をさらに苦しめた。これ以上の会話も進展も望めない………彼女は誕生日に勇者からプレゼントされた短剣を自らの腹に目掛けて刺した。
だが痛みはないのに血は溢れ出る……誰かに抱きしめられている感覚。自らの腹には守ろうとした彼女以外の手の甲が血を垂らす。
「私はもう耐えきれない、いっそ死なせてくれ。」
「なら、一緒に死のう。……おまえはほんのうに遠くの方を見るのが好きで近くを見ようともしない。俺は遠くを見るより持ちたくで見る好きだった。俺はお前のことを、ずっと前から好きだった」。
彼は初めて自分の思いを伝えた。勇者の見張り役を選ばれた時から、彼は彼女に好意を懐くが、彼女の思いは勇者のもの。彼は自分が傷つくのを怖がり、なかなか言い出せない臆病者だった。だがいまは違う。
「最初におまえに会ったあのとき、お前は微笑みかけた。知らなくてもいい、忘れててもいい、俺は覚えている。おまえが死ぬなら、俺も一緒じゃダメか?」
長年ゆえなかったことを言葉にして伝えた。あとは彼女の返事を待つも、すぐには返事は返って来なかった。しかし彼女は血だらけの彼の手を優しく包み込み「もうちょっとだけ返事は待って、いまは答えが出ないの……」。
彼は混乱する彼女をただ抱きしめて「ゴメン」とささやいた。
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