オッサンの真実⑦





「いってくる」


 もう何も返ってこないと分かっているのに、毎日つい言ってしまう。離婚して15年、ちひろと会わなくなってから5年も経っていた。

 いつもよりも早く目が覚めたから分、二本ほどはやい電車に乗れた。会社近くのコンビニによって、おにぎりでも買おうか、そう考えつつ始発駅から電車に乗り込んだ。

 通勤通学ラッシュの電車内はすぐに満員となった。始発駅から乗る私はいつも座ることができる。今日もいつもと同様に、スマートフォンにて仕事のメールを確認している時だった。業務用のメールに紛れてひとつ、知らないアドレスからのものがあった。


『件名:1月○日』


不思議に思ってメールを開く。本文はなく、ただ一つ画像が添付されているだけの不思議なメール。

 しかし、画像を開いた途端、急に視界が歪んだ。そこには、艶やかな真っ赤な着物に身を包んだちひろがいた。

 見たかった娘の成人式。忘れられていると思った自分の存在――。

 成人式からのこの空白の2か月に、ちひろの葛藤が滲んでいるような気がして苦しい。何度も鼻をすすり、必死に涙をこらえた。

 溜まった涙がもうすぐ零れるというときだった。


「――大丈夫ですか?」

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