オッサンの真実⑥

 離婚から10年、私は仕事と家事が両立できるようになっていた。

 ちひろがちょうど中学二年生になった頃、やよいから一件のメールが届いた。


『ちひろがもう、幸之助さんに会いたくないって言っているの』


 ――頭が真っ白になった。たしかに、ちひろが中学生になってから、会う機会は減った。小学生の頃は一か月に一度だったものが、二か月に一度になった。それでもちひろの成長を見られるならそれでよかった。やよいのメールによると、ちひろは2年になってから部活が以前より忙しくなり、それに加えて塾にも通いたいと言っているそうだ。


「お父さんに会う時間がもったいない」


 ――これが、ちひろの出した答えだった。


『半年に一度でも駄目か? なんなら一年に一度でも――』


 そう送ろうとして、止まった。――娘の決断を、私が止めていいのだろうか。

 送信ボタンから指を離して、本文を消す。


『わかった。ちひろに頑張れと伝えてください。』


 送信ボタンを押して、二つ折りの携帯電話を閉じた。


 ――情けない。40にもなって、こんなに涙を流すとは思わなかった。

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