オッサンの真実⑤

 ちひろの親権は母親であるやよいが持った。

 別に仲違なかたがいをしたわけではなかったため、私は定期的にちひろに会うことができた。


 離婚をしてわかったことが、沢山あった。

 まず朝昼晩と当たり前のように用意されていた食事は、自分で作ると最高に不味いということだ。

 例えばカレー。ルーの箱の裏に書かれている手順・分量のとおりに作っているはずなのに、やよいが作った時のように優しい味にはならなかった。

 味噌汁もそうだ。お湯にただ味噌を入れてみたけど、しょっぱい液体になっただけだった。

 毎日当たり前のように着ていたワイシャツも、自分でアイロンをかけようとしたが、なかなかうまくいかない。

 歯磨き粉もティッシュも洗剤も……誰かが買わなければ無くなったままなんだな。

 そんな風に当たり前じゃなかったことを実感するたび、冷たいものが頬を伝った。

 仕事と家事を両立するのは難しい。それに加えてやよいは、ちひろの面倒もしっかりと見ていた。



『2人を守るため、今まで以上に――……』


 そう思っていたけれど、守られていたのはむしろ私の方だった。


 やよいとちひろがいない日常は、まるで自分の半分を失ったような感覚だった。

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