オッサンの真実③
私の考えたプロポーズの流れはこうである。
まず、彼女を良い雰囲気のレストランに誘う。食事も終盤に差し掛かったところで、ポケットに入れた指輪の箱を取り出して、彼女の前に差し出す。そして『僕とずっと一緒にいてください』と言う予定だった。
しかし、私はこのときも粗相をした。雰囲気も流れもよかった。予定通り、食事が終盤に差し掛かった頃だ。いざ、毎晩お経のように唱えた言葉を口にする。
「やよいさん! ぼ、僕とずっと一緒にいてくださいっ」
多少噛んだが、セリフは間違わなかった。しかし、目の前の彼女は何も言わない。失敗か? と諦めかけたそのときだった。
「それってプロポーズ、かしら?」
困ったように微笑む彼女。そこでやっと私は、ポケットの中の指輪の存在を思い出した。慌てて指輪の箱を開けながら、
「も、勿論そのつもりです。一生貴方の側にいたいんです!」
そう言った。
初めて会った時と同じだ。どうして私はこう、肝心な時に粗相をしてしまうのだろう。落ち込んでいた私の手から指輪の箱が離れていく。
「お受けいたします」
初めて会った時と同じように笑った彼女。
――しかし、“一生”が脆いものだと気付くのは、意外とすぐだった。
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